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ILIAD ~幻影の彼方~  作者: 夙多史
Episode-13
98/119

097 擬似蒼霊砲

 王都セイントカラカスブルグ。

 ノックスと別れたセトルたちはその日のうちに到着した。まだ昼過ぎ、セイルクラフトはスラッファが改造したらしく、さらにスピードが速くなっているようだ。

 わかっていたことだが、ウェスターの船はまだ戻っていない。かといってただ待つだけなのは時間を無駄にしているようなものなので、セトルたちは入りづらいシャルンを城門に残して王城に行き、船の手配ができないか尋ねてみることにした。

「なるほど、それならばすぐにスレイプニル号を手配しよう」

 事情を説明すると、正規軍将軍であるウルド・ミュラリークは即座に了承してくれた。

「助かります」

 ウェスターが元部下に軽く頭を下げる。

「あなたにそうされると、悪い気がしないな」

 ウルドは、堅かった口元をフッとほころばせる。しかしそれも一瞬で、すぐにアルヴィディアンの瞳に強い意志を宿して皆を見回す。

「船の用意ができるまで少し時間がある。その間に準備をしておくといい」

「ありがとうございます」

 セトルが代表して礼を言い、ウルドが去った後、皆は輪になってこれからのことを考える。

「さて、船の準備ができるまでですが――」

「はいはーい! 自由行動がいい!」

 ウェスターが何か言おうとして、それをサニーが元気よく遮った。

「却下します」

「即答!? 何でよ!」

「そんな時間はありませんし、サニーが迷っては明日になってしまいます」

「そ、そんなことないわよ……あ、あたしが何度も同じところで迷うはずが……」

 サニーは目を泳がせながら反論する。しかし、その反論はもれなく無視され、ウェスターが先程言いかけた話の続きをする。

「必要な物資を調達次第、港で待機していましょう。今は一分一秒が惜しい、そうでしょう?」

 セトルが頷く。

「うん、それでいいよ」

「異議なし」

 アランもそれに賛成して小さく手を挙げる。しぐれがサニーを見る。

「サニーもそれでええな?」

「あーもう、いいわよ……」

 残念そうにサニーは言う。万が一、このまま王都見学などできない体になってしまうことを考えての提案だったのだが、それを言うと怒られそうだ。

 ウェスターが眼鏡の位置を直す。

「では、シャルンと合流しましょうか」


         ☨ ☨ ☨


 霊導船スレイプニル号で四日目の昼、セトルたちの前にようやくそれらしいものが見えてきた。

 空は晴天、海は穏やか、そんな中に石灰石でできているような白い島が浮かんでいる。その周囲には乱気流や大渦といった自然のバリケードではなく、時々虹色に光を反射している透明な壁が張られているのがわかる。

「行きますよ。皆さんは下がっていてください」

 船首に立つウェスターに指示され、セトルたちは数歩下がって彼を見守る。

 ウェスターは深呼吸をすると、精霊との契約の証である指輪を一つずつはめ、それぞれの精霊を呼び出す言霊を唱えていく。

 各精霊たちが円形の陣を取って船の前方に現れる。上から右回りに、センテュリオ、コリエンテ、アイレ、エルプシオン、オスクリダー、レランパゴ、ティエラ、グラニソである。

「あの壁を破るのだな?」

 センテュリオが確認するようにウェスターに言う。

「そうです。できますか?」

「やってみよう。だが、我らが直接関われるのはここまでだ。後はそなたたちの力だけで進むしかない」

「……わかりました。では、お願いします」

 ウェスターが言うと、精霊たちは互いに対なす相手と向きあい、それぞれの体からそれぞれの色の霊素(スピリクル)を放出し、中心にそのエネルギーを集める。

 ウェスターが槍を天に掲げ、一瞬の間を置いて前方に振り下ろす。すると、それを合図に霊素(スピリクル)のエネルギー体から凄まじい光線が放たれる。穏やかだった海を割り、青空に浮かぶ雲を全て吹き飛ばした。船体が大きく揺れる。どこかに掴まっていないと振り落とされそうだ。

 光線がイクストリームポイントのバリアに衝突。凄まじい閃光と轟音、バリアが虹色の波紋で揺らめいているように見える。

 どのくらい経つだろう。正確には数秒しか経ってないだろうが、皆はその数秒が、時が止まったかのように長く感じられていた。

 ピキッと罅が入るような音がする。

 バリアに光の裂け目が入ったかと思うと、次の瞬間、ガラスを砕いたような音がし、イクストリームポイントを囲ってあったバリアが虹色の結晶となって粉砕される。しかし、それは前方の一部だけ、時が経てば元に戻ってしまうだろう。それまでに決着をつけなければならない。

「やった!」

 緊迫していたしぐれの顔が緩む。

「戦いはこれからなんだ。気を引き締めていかないと」

「わ、わかってるって」

 セトルに言われ、しぐれは表情を引き締め直す。今さらだが、セトルの方がメンタル面で忍者に向いている気がする。

 船から降り、セトルたちはイクストリームポイントの上に立った。

 白く見えたのは石灰石などではなく、何か特別な鉱石のようだったが、今は調べている余裕はない。

「あそこ、転移霊術陣があるわ」

 少し進んだところでシャルンが指差す。そこには確かに大きめの転移陣が輝いていた。

「またライズポイントみたいな変な空間に行くんやろか?」

「たぶん、そうだと思いますよ。強力な守護機械獣(ガーディアン)もいるでしょうし、気をつけて進みましょうか」

 言うと、ウェスターが真っ先に転移陣に足を踏み入れた。光に包まれ、彼の姿が消える。セトルたちは頷き合い、ウェスターに続いて転移陣の光に包まれた。


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