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ILIAD ~幻影の彼方~  作者: 夙多史
Episode-01
9/119

008 水の都

 水の都《アクエリス》。そこはその名の通り、湖の上にある。別に浮かんでいるわけではなく、水底が少し高くなっているところに町全体を持ち上げるように造られているとのことだ。

 町には到る所に水路が張り巡らされ、広場には大きな噴水がある。そこを中心としてドーナツ状に石造りの建物が軒を連ねている。ここは世界でも一位・二位を争う美しい町だとも聞いている。

 セトルたちは北側の港に着いていた。町は内陸にあるのだが、そこまで運河がのびていて、大きな船でも入ることが可能である。

 港に降りた途端、アランはさっきまでゲーゲー言っていたのが嘘のように元気になっていて、町を見回して歓喜の声を上げる。

「おお、噂には聞いていたが想像以上に綺麗なとこだな」

 セトルも初めての大きな町に心が躍る。

 そして街中へと向かう。首都行きの定期船はここの反対、南側の港から出ているらしい。

 すると――

「おや、セトルにアランじゃないか。それにザンフィも……」

 と声がし、街の門の向こうからルードとスフィラが歩いてきた。

 ザンフィがセトルの肩から飛び降り、彼らの元へ行く。そして順番に鼻を押しあてた。

「ルードさん、スフィラさん! 丁度よかった」

 アランが言うと、二人は首を傾げた。実は、とセトルが事の経緯(いきさつ)を話し始める。

「……そうか、やはりな」

 セトルの話を聞き、ルードは疑いもせずそう呟いた。

「やはりって、どういうことですか!?」

 彼らの意外な反応にセトルは眉を寄せた。知っていた、というわけではないようだが。

「胸騒ぎがしたのよ」とスフィラ。「村の方に盗賊が逃げ込んだって聞いたから……大丈夫とは思ってたのだけど、まさかこんなことになってるなんて……」

 どうして正規軍があんな辺境までわざわざ来ていたのか、セトルはそれを聞いてようやくわかった。

「とにかく二人は村に戻ってサニーの帰りを待っててくれ、マーズさんに馬を預けてるからそれを使って……」

 アランが言い終わると、ザンフィがセトルの肩の上に戻った。

「君たちはどうするんだい?」ルードが訊く。

「僕たちはサニーを連れ戻すために首都へ向かいます」

「俺は借りを返したい奴もいるしな……」

 セトルの横でアランが真顔で呟いた。

 ルードとスフィラは二人の目をじっと見詰めたが、そこに迷いはなかった。

「わかった。止めはしないよ。二人とも無茶だけはするな。できるだけ穏便に済ますようにするんだ」

 ルードは二人の肩を軽く叩くと微笑んだ。そしてスフィラが人差し指を顔の前に立て、

「くれぐれも国を敵に回すようなことはしないでね」

 と、念を押すように言った。

 セトルたちが頷くのを見ると、二人はインティルケープ行きの定期船がある方へ歩き始めた。その途中ルードが何かを思い出したように立ち止まり、こちらを振り向いた。

「そうだ、ここから直接首都までは行けないぞ。首都行きの霊導船がこの前の大しけで大破したそうだ。直るまで運航停止らしい」

「マジか……」

 アランが呟き、セトルも愕然とした様子でただ立っていた。

「でも行けないわけじゃい」

 ルードが言うと、二人は顔を上げた。

「遠回りになるけど、中央大陸(セントラル)にある《サンデルク》という学問の盛んな都市から定期船が出てるわ」

中央大陸(セントラル)……」

 セトルは呟き空を仰いだ。それが聞こえたかどうかわからないが、ルードとスフィラは微笑み、

「南側の港から《ソルダイ》という村へ行く船が出ている。まずはそれに乗るといい」

「わたしたちは村であなたたちの帰りを待ってるわ……サニーを頼んだわよ。元気で戻ってきてね」

 と言うと、手を振りながら船の方へ歩き、もう振り返らなかった。

 二人は彼らを見送り、その姿が見えなくなるとセトルがアランに訊く。

「さっき、借りを返したい奴がいるって言ってたけど、もしかしてあの時お腹を押さえてたのと関係あったりする?」

 するとアランは、バレたか、と言わんばかりに笑った。

「ハハ、流石に勘がいいな!―― あの時、奴らがサニーを連れていくのを止めようとしたら、兵士の一人に膝蹴りをくらってな。まあ、そいつはウルドとかいう将軍に怒鳴られていたが、それじゃ俺の気がすまねぇ。そいつの特徴は覚えてるから一目見りゃわかるぜ!」

「でも、サニーを連れ戻すのが優先だからね」

 わかってるよ、とアランは言い、そのまま二人は南側の港へ向かった。


        ✝ ✝ ✝


「え!? 船が出せない!? 」

 町の南側の港で、木箱に座っていたアルヴィディアンの船長らしき男にそんなことを言われ、二人は愕然とした。何でだ、とアランが訊くと、船長は小さく息をつく。

「……最近、この辺りの海域に『クェイナー』っつうトカゲのような魔物が出てな。次々と船を襲ってんだ」

 二人は顔を見合す。

「じゃあ、その魔物がいなければ船は出せるんですね?」

 セトルがそう言うと、船長は、ああ、と頷く。

「だったら、俺たちがその魔物を退治してきてやるよ!」

 アランは親指で自分を差す。このまま待っていても船は出ないだろう。それどころか、その魔物が町を襲うかもしれない。ならば自分たちがそいつを倒せば船も出せるし、町も救われる。一石二鳥だ!

 だが、船長は豪快に笑った。それを見たアランの表情が苛立つ。

「な! 俺たちが勝てないとでも言うのかよ!」

「僕たち腕にはけっこう自信がありますよ」

 セトルが剣の柄に手を置いた。すると船長は、そうじゃない、と言うように両手を振った。

「いやいやすまんな。実はさっきもあんたらと同じことを言ったやつがいたんだよ」

 二人は驚いてもう一度顔を見合わせる。船長は続けた。

「丁度銀髪の兄ちゃんくらいの年の女の子でさぁ。止めたんだけど聞きゃあしねぇ。あんたらにも、やめとけと言いたいところだが、あの()が心配でな。行ってくれねぇか?」

「もちろんです」セトルは笑みを浮かべた。「ところでその魔物はどこに?」

「確かこの町の南西にある海底洞窟が奴の棲家のはずだ」

「なら、途中でその娘を見つけたら戻るように言っておくぜ」

 アランはそう言うが、船長が止めても聞かなかったのに自分たちが戻れと言っても無駄かもしれない、とセトルは思った。

「ああ頼む。珍しい黒髪で、変わった服装と口調だったからすぐにわかるはずだ」

 すると船長は立ち上がり、踵を返す。

「じゃあな、頑張ってくれ、無事に帰ってきたら船なんていくらでも出してやる」

 手を挙げ、彼は後ろ向きにそう言った。

「じゃあ、俺らも行こうぜ!」

 目指すは海底洞窟――。


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