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ILIAD ~幻影の彼方~  作者: 夙多史
Episode-12
85/119

084 聖森の街で

 聖森スルト。

 この森の奥深くには、テュールとはまた別の神を祀ってある祠があるらしい。だが、それを見た者は誰もいない。森の深部は地元の人も近づくことを許されない聖域とされているからだ。

 その神聖な空気が漂うアースガルズ地方最大の森の中に、自然を最大限に活かした小さな町がある。

 それがティンバルクだ。

 この町は珍しい遺跡やその自然のために、観光地もしくは療養地として広く知られている。

 セトルたちはこの町の土を踏みしめていた。

 王都に戻ればワースの部下に見つかる可能性があったため、彼らは一旦ここに身を隠すことにしたのだ。

「で、結局ひさめはどこ行ったの?」

 不機嫌そうに眉を吊り上げてサニーは誰にとなく言った。彼女がイライラしているのも無理はない。スルトの森に入る直前、いつの間にかひさめがいなくなっていたのだ。

 しぐれだけがひさめがいなくなる時に会っているのだが、彼女に訊いても「敵の行方を調べに行く言うてたわ」とだけで具体的にどこへ行くかは聞かされていないようだ。

「やから、うちもそれはわからへんねん。そんな心配せんでも、ひさめやったらきっと無事やから」

「そういうんじゃなくて……あーもう、もういいわよ!」

 苛立ちは残っているが、サニーは諦めたように肩を落とした。

「ん? あれは……!?」

 その時、何かを見かけたアランが急に走り出した。なぜかザンフィもそれを追ってサニーの肩から飛び降りる。

「アラン?」

 不思議に思ったセトルが彼らを目で追うが、丁度近くの家の影に隠れて見えなくなった。

「?」

 三人は顔を見合わせ、とりあえずアランを追った。

 アランとザンフィーが消えた角を曲がると、彼らはその先の分かれ道の前で立ち止まっており、アランは顔だけをキョロキョロと右往左往させていた。

「アラン、何かあったの?」

 近づいたセトルが尋ねる。後ろの二人も怪訝そうにアランを見ていた。アランは三人ではなく、遠くの方を見詰めながら呟くように答えた。

「ああ、いや何か、今シャルンがいたような気がしたんだが……」

「シャルンが?」

 言われて、セトルたちも周囲を見回してみる。だが、そこにかつて一緒に世界を旅した仲間の姿は見られなかった。

「おらへんやん?」

「きっとアランの気のせい。シャルンがこんなところいるわけないもん」

 ザンフィを肩に乗せ、何の根拠もなくそう断言してアランを嘲笑うサニー。

「ひょっとしてアラン、シャルンに会えないから寂しいの?」

「ば、バカ! そんなわけないだろ!」

 明らかに動揺するアランにサニーは、今さら何を、というような顔をする。

「……とにかく、シャルンはいないみたいだし、宿かどこかで今後のことを考えようよ」

 セトルは肩を竦め、皆を宿へと促した。

 町の宿屋は北側の入口の近くにある。木でできた古い入口のアーチから見て右側である。その木造二階建ての宿屋はそこそこ大きく、一階は酒場も兼ねており、この町に立ち寄る行商人や観光客などで賑わっている。

 宿屋の姿がセトルたちの視界に入ったとき、その入口の扉が開いた。

「あ……」

 四人ともそこから出てきた人物を見て呆けたように口を開ける。

「あれ、シャルンとちゃう?」

「ほら! やっぱ気のせいじゃなかったぜ♪」

「キキ♪」

 オレンジ色のショートヘアーに、青を基調とした露出の高い動きやすい服。見間違えるはずはない、シャルン・エリエンタールその人だ。手には紙袋を抱えており、買い物をしているのだろうと思われる。

(……まさか盗んだわけじゃないよね)

 彼女は元々義賊だったため、セトルは少し心配した。

「シャルーン!」

 サニーが声を上げて手を振るが、彼女はこちらに気づかず、北のアーチから町の外へと足早に出ていった。

「あ、行っちゃう!?」

「追おうぜ!」

 アランとサニーは仲間を追って駆け出した。

「あ、二人とも……」

 はぁ、とセトルは溜息をついた。気持はわからなくもないが、今行くと彼女を巻き込んでしまうかもしれない。彼女が自ら関わってくるかどうかはわからないが。

 しかし、二人が行ってしまった以上、ついていくしかないだろう。

 しぐれはそんなセトルの横顔を見て考える。

(これって……もしかしてチャンス!?)

「せ、セトル、う、うちらは町でも見て回らへんか? その……二人だけで……」

 彼女は顔を赤くして、どこかもじもじしながらそう言うが、既に横にはセトルはいなかった。

「……。セトル待ってやー!」


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