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ILIAD ~幻影の彼方~  作者: 夙多史
Episode-06
53/119

052 光と闇

 センテュリオ。精霊はそう名乗った。光の精霊がなぜここに、とセトルは不思議がっていたが、ノックスの「他の精霊を教えられないのは氷精霊(グラニソ)と契約すればわかるよ」という言葉を思い出した。

「全ての根源精霊と契約した者よ。そなたには我らと契約を交わす資格がある。おぬしにその意志はあるか?」

 センテュリオの問いかけにウェスターは、ええ、と言って大きく頷き、

「我らとは?」

 と訊く。

「我と、闇精霊『オスクリダー』のことだ。あれはノルティアの統括精霊だった者」

 水・風・火の根源を統括する精霊『センテュリオ』、雷・地・氷の根源を統括する精霊『オスクリダー』。精霊にそのような階級みたいなものがあるなんて知らなかった。ノックスは知っていたのだろう。だからあのように言ったのだ。

「ということは、残る精霊は二体ってことですよね?」

 セトルは精霊と契約する旅が終わりに近づいているのを感じた。ウェスターが眼鏡の位置を直す。

「ええ。ですが、精霊と呼ばれる存在が霊素(スピリクル)の属性分居るのでしたら、それで全てという

わけではないでしょう」

「どういうことだ?」とアラン。「霊素(スピリクル)の属性は全部で八つじゃないのか?」

「一般ではそう言われていますが、他にも霊素(スピリクル)は存在しています。極めて稀少なものですから今は考えなくてもかまいません」

 彼はそれだけ答えると話を続け始めたセンテュリオに向き直った。

古霊子核兵器(スピリアスアーティファクト)の復活も近い。だがまだ時間はある。まずは『星の陰に隠されし、闇を誘う深淵の地』を目指せ。そこにオスクリダーは居る。我はそれと対なす場所、『天高く聳えし原初の古塔』にておぬしたちを待つ」

 センテュリオは告げると元の輝きに戻り、降りて来た時と同様にゆっくりと昇り始める。

「ちょっと待って! ここであなたと契約はできないの?」

 サニーが天に向かって叫ぶ。しかしセンテュリオは答えない。代わりにウェスターが答えてくれた。

「契約は正式な場所で行わないと意味がないのです」

 神々しい輝きは消え、辺りには静けさと寒さが戻った。

「それでこれからどうするんや?」

「『星の陰に隠されし、闇を誘う深淵の地』だっけ? そこに行けばいいんじゃないかな?」

「でもセトル、それどこにあるかわかるの?」

 セトル、サニー、しぐれの三人は頭を悩ました。当然、答えなどでるはずもない。だから行きつく先は、

「ノックスさんなら何か知ってるんじゃないかな?」

 となってしまう。しぐれがものすごく嫌な顔をしたが、それも仕方ないと思い反対はしなかった。

「教えてくれるかしらね?」

 訝しむようにシャルンが言うと、ウェスターが、そうですね、と頷く。

「知っていても教えてはくれないでしょうね。教えられるのならあの時教えてくれたはずです。今回は精霊自ら場所を示しました。それを頼りに探してみましょう」

「あーもう! めんどう!」

 サニーが頭を掻き(むし)る。

「一度町に戻りましょう。そこでこれからどうするか考えます」

「そうだな。ここにこれ以上いたら凍死しちまう」

 アランも頷いた。そう言われたら急に寒くなった。反論はなく、一行はフラードルに戻ることにした。


        ✝ ✝ ✝


 程よく暖められた宿の中はまるで天国のようだった。

 皆は受付のある大広間のソファに腰を預け、これからどうするかの会議をしている。『星の陰に隠されし、闇を誘う深淵の地』――考えても思い当たる節はない。

「サンデルクに向かいましょう」

 突然、ウェスターがそう提案する。ワースの知恵を借りるのだろうか? しかし彼は必ずしもサンデルクに居るとは限らない。居ない時の方が多い。戻るまで待つとしても、いつ戻るかわからないようじゃ頼るわけにはいかなくなる。

 目的はどうやら別にあるようだ。

「サンデルクには確か王立図書館があったわね」

「その通りです、シャルン。闇精霊に関する書物があるかどうかはわかりませんが、調べてみる価値はあるでしょう」

 そういった書物に関しては語り部の家にある物の方が確実かもしれないが、ノックスは協力しないと思われる。前にもウェスターが言ったが、すなおに協力するようなら、契約の順番も含めてあの時に教えてくれていただろう。

「でも一応ノックスさんにも訊いてみたらどうですか?」

 セトルは彼の意外性にかけてもいいと思いそう尋ねた。ウェスターは首を横に振ると思ったが、不思議な言葉が返ってきた。

「ええ、もちろんそのつもりです」

 セトルたちは軽く首を傾げる。そのつもりなら真っ先に行く場所はティンバルクである。そこに居るように言っておいたので、勝手にどこかを放浪しているということはないだろうが、どういうことだ。

 何か考えがあるように彼は含み笑いを浮かべる。この場合、訊いても楽しんで教えてくれないだろう。そういうところがノックスとも似ていてたちが悪い。セトルたちはあえて訊かないで話を進めた。

「ま、まあ、サンデルクにおればワースはんも帰ってくるかもしれへんし、ええんちゃう?」

「じゃあ、それで決定!」

 苦笑を浮かべたしぐれのあとに、サニーがそう言って会議を強制終了させた。

「ん? 何か顔色悪いな、シャルン。大丈夫か?」

 アランが彼女の顔を見て心配そうに声をかける。しかし彼女は、大丈夫よ、と言って立ち上がる。

「先に部屋に戻ってるわ」

 そのまま彼女は一人二階に上がって行った。グラニソ戦の疲れが出たんだろう、とその時セトルたちはそれほど気に留めなかった。


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