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ILIAD ~幻影の彼方~  作者: 夙多史
Episode-06
48/119

047 地霊の洞窟

 ガシャン、という音が豪快に響いた。

「あ~あ。何してんの、しぐれ」

 宿に向かう途中、何もないところで躓き、見事に転んだしぐれは荷物を運んでいたアルヴィディアンの男性とぶつかり、荷物の中身を地面にぶちまけた。そんな彼女にサニーは呆れたようにそう言った。

「あんたなんてことしてくれたんだ!」

 当然、その男性はしぐれを怒鳴りつける。荷物の中身は食材だった。どうやら商品のようで、地面に散乱したそれはとても売り物になるような状態ではなかった。

「す、すみません、弁償でも何でもするから許してや」

 拾うのを手伝いながら、彼女は顔の前で手を合わせて謝った。だが、あれら全てを弁償するような金額を今は持ち合わせていない。男もそれはわかっているようで、金で払えとは言わず、少し考えた。

「何でもするんだな? だったら《コイロン洞窟》の奥にある《シヨウロ》っていうキノコをできるだけたくさん採ってきてくれ。それで許してやる」

「シヨウロ、売れば一個一万はくだらない高級食材ね」

「一万!?」

 シャルンが言うと、セトルたち田舎者は目が飛び出るほど驚いた。一個で一万。そんな食べ物など聞いたことがない。どんなものか見てみたい気もする。

「そのコイロン洞窟ってどこにあるんだ?」

 アランが訊く。

「このスルトの森を北に抜けて、さらに北にずっと行った山岳地帯の谷にある。そこは別名《地霊の洞窟》と呼ばれていてな、地霊素(アーススピリクル)が豊富で質のいいシヨウロが取れるんだ。だが魔物も出るし、場所が場所だけになかなか行けるようなところじゃない」

「《地霊の洞窟》って、まさか!」

 セトルがウェスターを見る。彼は口元に笑みを浮かべて、そのまさかでしょう、と言った。コイロン洞窟に地精霊が居る。この男性の話からしてその可能性は非常に高いと思われる。

「わかった。行ってみるわ!」

 しぐれは大きく頷いた。

「まあ、あんたらは信用できそうだから、死なねぇ程度に頑張ってくれや。俺は大概いつも宿に居るからよ。そこに持って来てくれ」

 言うと彼はそのままどこかに行ってしまった。

「今回はしぐれのドジに助けられましたねぇ♪」

 皮肉めいた笑みを浮かべてウェスターが言う。彼女のドジが実際役に立ったのはこれがたぶん初めてだ。

「はは、本当ですね」

 とセトルも笑う。

「そんな、セトルまで笑わんでも……」

 しぐれは赤面し沈黙した。


        ✝ ✝ ✝


 男性に言われた通りスルトの森を北に抜け、そこからセイルクラフトを使ってまずはコイロン洞窟がある谷を探した。

 空から探すのだからそれは簡単に見つけることができた。谷が広かったのが幸いし、セトルたちは洞窟の目の前にセイルクラフトを着陸させた。

 洞窟の中は真っ暗だった――ということはなく、むしろ明るいくらいである。光霊素(ライトスピリクル)もあるのだろうが、一番の原因は洞窟内に生えてある発光する苔のようだ。この谷も草木が生い茂っている。地霊素(アーススピリクル)が濃いといろいろな植物が育つんだな、とセトルは思った。

 洞窟内はところどころ遺跡のような造りになっていた。

 しばらく進むと地鳴りのような音が聞こえ、突如地面が揺れた。

「地震だ!」

 アランが叫ぶ。揺れはかなり大きい。ほんの数秒のことが何分にも感じられた。揺れが収まってくると、今度は別の音が聞こえてきた。

「危ない!!」

 アランはシャルンとサニーを庇うように突き飛ばした。今まで立っていた場所に落石が落ちてくる。地震のせいだろう。セトルたちはどうやら無事のようだ。しかし――

「困りましたね。道が塞がれてしまった」

 ウェスターは顎に手を当てて目の前にできた壁を見詰めた。

「セトルー! そっちは大丈夫?」

 壁の向こうからサニーの声が聞こえる。それはこっちの台詞だが、今ので向こうの三人が無事だということがわかった。

「こっちは大丈夫だよ、サニー!」

 セトルが答えると、

「ちょっと離れてて、今この壁壊すから!」

 とサニーから返ってきた。壁の向こうで術の詠唱をしているのが目に浮かぶ。だが、それは危ない。

「待ってください、サニー!」ウェスターが叫ぶ。「ローレル川のときと同じです。これを無理に壊すとさらに崩れる恐れがあります」

「どうするつもり?」

 シャルンの声が返ってくる。

「私たちが地精霊と契約してくるまで待っていてください。精霊の力があれば安全にこの壁を消すことができます」

「わかった。俺たちは大丈夫だから行ってくれ」

 アランの声にセトルたちは頷いた。

「魔物が出るかもしれへんから気ぃつけとき!」

 最後にしぐれがそう言ってセトルたちは先に進んだ。そして、実は一番危険なのは内側に居る自分たちだとセトルはここで気づいた。


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