001 旅立ちの時
ある村の中央に青白い光を放つ巨大な円陣――霊術陣が描かれている。
今は夜なのだろうか、辺りは薄暗く沈黙を保っている。
陣の中央には三人、暗いのではっきりとはしないが、マントで身を包み、背には大きな荷を担いでいる者たちがいる。
旅にでもでるのだろうか?
「それでは行って参ります」
三人のうち、真ん中に立っていた一人が陣の外に向かってそう告げた。声から察するに若い男性のようだ。
陣の外には白く長い髭を生やした――恐らく老人がいた。顔は、やはりはっきりとしないが。
「気をつけて行くんじゃぞ……」
老人は寂しそうな口調でそう返した。すると陣の輝きが増し、その青白い光が三人を包み込もうとする。
その時、この広場へと続く通りの闇の中から誰かが走る足音が聞こえ、それがだんだんと近づいてくる。そして――
「兄さん、やっぱりオレも一緒に行くよ!」
足音の主は周囲の沈黙を破るようにそう叫ぶと、眩しいくらいに輝きを増した陣に飛び込んだ。青白い光がその者を照らす。それは少年だった。
温かい光の風が少年の銀色の髪を揺らす。彼は、紅い宝石のような物が胸部に入った空色の鎧と燕尾のマントを纏っている。どちらもこの少年にしては少し大きいようで、走った振動で上下に大きく揺れている。慌てていたのだろう、腰の剣は雑に挿されていて、今にも外れてしまいそうだ。
「バカ、来るな!」
先程の男性は少年を諫めるように腕を大きく横に振った。だが少年は止まらず、いやだ、と言って首を振る。
「止まるんじゃ! 行ってはならん!」
老人も叫んだが、それはもう少年の耳には聞こえていない。いや、聞こえたのだろうが無視したのだ。彼のサファイアブルーの瞳には焦りと、そして後悔が見て取れる。
そして光が三人を完全に包むと、それは天に向かって飛び立った。
(間に合わなかった!?)
少年はそう思った。しかし、光はすぐに少年も包んだ。先程よりも速い。あっという間に彼も三人と同じように天へと飛び立った。
一人残された老人は彼らが飛び立った暗い空を仰ぎ、
「おぬしにはまだ早いと言うに……バカ者が。どうにかあの三人と一緒に居ればいいのじゃが……」
と呟いた。陣が消え、辺りに闇が広がって老人を包む――。