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ILIAD ~幻影の彼方~  作者: 夙多史
Episode-02
13/119

012 異種族騒乱

「ん? 何だあれは?」

 ソルダイ港からいろいろな店が並ぶ村の広場へ出ると、人だかりができていることにアランが気づいた。

 あまりいい雰囲気とは言えない。

 三人はそこへ駆け寄り、近くにいたアルヴィディアンの男性に何があったのかを尋ねた。

「おい、これは何の騒ぎだ?」

 アランに訊かれ、男性は彼を向いた。

「ああ、いつもの喧嘩さ。あんたら旅人かい? 悪いね、もともとこの村は種族間がうまくいってなくてね。特に最近はそれが酷くなってきていて、みんなピリピリしてるのさ」

 三人は人だかりの中心に目を向けた。そこには、アルヴィディアンとノルティアンの男性が一人ずつ、お互いに睨み合っていた。

 喧嘩の理由はわからないけど、これは止めないと危なそうだ。だが、周りの人々は全く止めようとせず、ただ野次を飛ばしているだけだった。すると――

「うるせぇ!」ノルティアンの男性の方が怒鳴り始める「グズなアルヴィディアンがノルティアンである俺に意見すんじゃねぇよ!」

「な、何だと!?」

 それを聞いて、アルヴィディアンの男性はその男の胸座を掴む。

「そっちこそ、ひ弱なノルティアンのくせに!」

 これはまずい。この二人の言っていることは個人をバカにしたものではない。周りの野次馬たちが殺気立っていくのを感じる。そしてついに、二つの種族が広場の東西に分かれ、睨み合いになってしまった。

 いつ乱闘になってもおかしくない。

(一体この村はどうなってるんだ!?)

 そう思い、セトルはしぐれを見たが、この村を知っているはずの彼女も、困惑している様子だった。

「とにかく、止めないと!」

言い、セトルは両者の間に割って入った。おい、とアランが叫ぶが、今のセトルにそんな声は届かない。だから仕方なくアランとしぐれは、彼に続いて両者の間に入り、牽制するように両手を広げた。

「やめてください! 皆さんとりあえず落ち着いて!」

 セトルは彼らを説得しようとする。――が。

「あ、青い目だと!?」

 牽制には成功した。だが、周りからはそのような声が聞こえる。そしてさらには、

「何なんだあいつは、ハーフか?」

「青い目……気味が悪い」

「こっちに来るな!」

 といった罵声も上がる。これが普通の反応なのかもしれない。ただ、今までこんなことがなかったのは、アスカリアやインティルケープの人たちが人がいいだけなのかもしれない。

「この、お前らな――!?」

 アランが拳を握ってそう言おうとしたところを、セトルは手で制した。この状態で一番辛いのは彼なのに……。

 歯を食いしばり、セトルは顔を上げた。

「争いを……やめてください」

 無理をしているのはあきらかだ。声に先程の覇気がない、そのことはセトル自身も感じている。

「セトル……」

 心配そうにしぐれが呟く。その時――

「そこまでだ!」

と、一喝する声が辺りに響いた。広場の中央階段から二人のアルヴィディアンの男性がこちらに向かって来る。

 一人はダークブラウンの長髪で、法衣に似た服を着た中年の大男。そしてもう一人は青年で、銀色に輝く全身鎧を纏い、手には同じような籠手、長い青髪を後ろで結い、ヘアバンドをしている。背は高い方と思われるが、隣の大男がいるせいか低く見える。しかし、物腰はどことなく気品を感じる。

 二人が、いや青髪の青年が現れたせいだろう、争っていた者の戦意が消えていく。ノルティアンの中には舌打ちする者もいたが、アルヴィディアンの方では、尊敬の眼差しでその青年を見るものがほとんどだった。

「村の衆」青年が言う。「くだらない争いはここまでだ! いいな!」

 すると、彼は争っていた村人たちを自分の周りに集めた。そして少し経ったあとに、村人たちは解散した。広場に残ったのは、その二人と、セトルたちだけになった。

 二人がセトルたちの元に歩み寄り、青髪の青年が礼儀正しく一礼する。

「私はザイン、こっちは部下のハドムだ。まずは礼を言わしてくれ、ありがとう。君たちがいなかったら、乱闘が起っていたかもしれない」

 彼、ザインの口調にはやはり気品を感じる。紳士的で、どこかのトレージャーハンターとは大違いだ。

 それに……強い!

 セトルたちは直感的にそう感じた。隣のハドムという大男もそうだが、この青年は恐らくそれ以上だ。物腰とかを見る限りただ者ではない。

 セトルは頭を掻いた。

「いえ、僕はただ何となく、止めなきゃ、と思っただけです。実際に争いを止めたのは、あなたなわけですし……」

「だが、もし君たちがいなかったら、私は間に合わなかっただろうな」

 そうだ、セトルがあそこで飛び出さなければ大惨事は免れなかっただろう。アランとしぐれはそう思い、固唾を呑んだ。

「君には」とザインがセトルに言う。「村の衆が酷いこと言っただろう、この村の村長の息子である私から謝らせてくれ、すまなかった……」

 彼は深々と頭を下げた。だが、セトルはゆっくりと首を振る。

「そんな、いいですよ。気にしてませんから……」

 彼は無理やりな笑顔をつくった。それも仕方がない、異端者扱いされて気分が悪くならない奴なんていない。

「そうだ、君たちの名前を聞いておきたいな」

 それを察してか、ザインは柔らかい微笑みを浮かべてそう言った。

 三人は少し間を置き、しぐれから簡単に自己紹介をする。すると――

「ザイン様、そろそろ時間ですぞ!」

 今まで黙っていたハドムがそう告げた。

「ん? そうか、もうそんな時間か……君たちのことは、覚えておくよ。また会える日を楽しみにしている」

 ザインがまた一礼すると、セトルたちも礼を言い、彼はハドムと共に来た道を去って行った。

「……俺たちも行こうぜ!」

「…………」

 アランがそう言うが、セトルはあの二人が去って行った跡をぼーと見詰めていた。

「どうしたんや、セトル?」

 そんな彼を見て、しぐれは小首を傾げた。

「まあ待て、しぐれ」アランが何かを企んだ笑みを浮かべる。「これはセトルの悪い癖のようなものだ。ヘヘ、見てな」

 すると、アランはセトルの肩にいるザンフィをしぐれに預け、両掌を口の横に置くと、彼の耳元で思い切り叫ぶ。

「わっ!!」

「うわっ!」

 セトルは飛び上がった。そしてアランを睨むが、彼はやれやれと肩を竦めた。その後ろで、しぐれは噴き出しそうになるのを必死でを堪えている。

「気がついたかな、セトル君? さあ、行きましょうや

 嘲笑に似た笑みを口元に浮かべ、アランはさっさと歩きだした。

「待ってよ二人とも!」

 セトルは慌てて、彼らのあとを追った――。


        ✝ ✝ ✝


「――ザイン様、先程の少年、瞳が青かったですな」

 ソルダイの通りを、奥に見える大きな屋敷に向かって歩きながら、ハドムが思い出すようにそう言った。

「そうだな……銀髪に蒼い瞳、間違いない、あのセトルって少年は彼の言っていた――」

「一応連絡しておきますか?」

 ハドムがそう言うが、ザインは首を横に振った。

「いや、彼らなら心配しなくても巡り会うだろう……」

「だといいのですが……」

 それを最後に、二人の会話は終わった。

(蒼き瞳……か)


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