狂戦士は世話係!?
狂戦士は世話係!?
一九九六年 三月四日 午前6時04分
少年が目を覚ますと部屋の隅に置いてある中古冷蔵庫のブゥゥゥィィンという音だけが響いていた。
どうやら昨日帰ってきたまま寝てしまったらしく、服は昨日のままだった。
「これは・・後でシャワーでも浴びたほうがいいかな・・・」
だるい体を起こし、彼は適当に体を濡れタオルで拭くと制服に着替えて部屋を出た。
いつ見ても素晴らしい庭だと思う。綺麗に整えられた芝生、空高くまで水を噴き上げる噴水、様々な色の花が咲く花壇。そして、遠々どこまででも続くか分からない敷地。まるで神話に出でくる楽園のような庭だ。
しかし、ここは楽園ではないし、ましてや自分の思い通りにできるものじゃない。この家も庭もしっかりとした持ち主、主がいるからだ。
そして、毎朝その主様を起こしに行くのも彼の仕事。
コンコン
ドアをノックするが・・・・返事はない。ドアを開けて中に入るとその主様は天蓋付きのベットでスヤスヤ寝息をたてていた。いつものことだが、とりあえず体を揺すって起こすことにした。
「朝ですよ~。起きてくれますか~」
ユサ ユサ
「う~ん。ん・・・・・・・・・・」
どうやら起きる前にまた眠ってしまったようだ。起こすのに戸惑うほど気持ちよさそうに眠っているが、毎日こんな感じになので問答無用で起こすことにした。
「ほら!起きましょう」
バサッ
と勢いよく布団を剥ぎ取ると、その主様はうざったそうに起き上がった。
「なんなの?バカなの?こんな朝早くから。今日は日曜日でしょ」
こういうときは、冷静に対処する。
「このままごろごろしていても構ないですけど、朝食を取ってからにしてほしいのですがね?」
「・・・・そうね。そうしないと世話係がうるさくてゆっくり眠れないようだから」
開口一番に悪口を言うこの人が彼の主様である。吸い込まれそうな黒い瞳と長い黒髪が特徴だが、見た目は良く言えばレディー、悪く言えばただのわがままな子供だ。なんといっても11歳にしか見えないのだから当然だろう。この広い屋敷に一人で住んでいるのだが、とある事情で彼が居候しているのだ。
しかし、彼は彼女の名前も年齢も分からない。
彼女が着替えると言うので彼は、シャワーを浴びに部屋を出たのだった。
居候しているとはいえ、学校に通わねばならないので、その後の世話は知人がしてくれるので安心だ。
仕度が終わって、携帯で知人に電話をいれた後、奥の廊下に向かって声をかけるとシャワー室の入り口から手を振ってきたので彼は少し良い気分で出かけて行ったのだった。