2 君の光
目が覚めた時僕は泣いていた。
彼女の死は今でも僕を苦しめる。
*
あの日……初音が死んだ日、僕は深い深い絶望を味わった。
目のくらむ混乱の中で駆け出し、叫び、大きな声で泣いた。
気が狂いそうだった。
僕は何時間も泣き続け、やがて夜が闇をつれてきた。
僕がどんなに苦しんでも、初音がいなくなってしまっても、世界は変わらず回り続ける。
なんで僕はここにいるんだろう?
きっと理由なんかない。ただ、存在しているだけだ。
僕にとってこの世のあらゆる全ては無意味で空虚で、苦しみなのだ。
僕はふと泣き止み、ぼんやりした頭で中を見つめた。
死んでしまおうか。
そう考えた瞬間、僕の目に光が飛び込んできた
何もなかった空に、光が生まれたのだ。
僕は呆然とそれを見つめる。
光は僕を照らし、ゆっくり大きく広がって、僕をのみこんだ。
それから世界を包み込み、溢れ、全ての輪郭を消した。
まぶしくはない、やわらかな光だった。
地上にあるあらゆるものが、この優しい光で満たされた。
やがて光は収縮して夜空に吸い込まれ、一つの星になった。
それがどれだけの時間だったかはわからない。
何時間も光に照らされていた気がするし、一瞬の出来事だったようにも思う。
「もし私が死んだら、悠くん一人になっちゃうね……。 そうだ、ねえ悠くん。 もしそうなっても、私悠くんが寂しくならないように星になる。 星になって、悠くんの幸せを空からいつも願ってるよ」
あの時黙り込んでいた初音が、突然僕にそんなことを言ってきた。
死という言葉に、僕は不安で胸が焼け付くような思いがした。
「死ぬなんて言葉、口にしちゃ駄目だ。もしそうなった時に、君が星になってくれたとしても僕は幸せになんてなれないよ。幸せになんて、絶対になれない」
僕は少し腹を立てながらそう言って、不機嫌な僕に初音はちょっと困った顔をした。
僕は光に触れたとき、あの時の彼女の言葉を思い出した。
『星になって、幸せを空からいつも願ってる』
初音の手の温もりのように、優しく暖かい光。
あの光、そしてあの星は初音なのだ。
そう僕は、しがみつくような気持ちで思い込んだ。
すると初音が言っていたように、少しだけ寂しくなくなったんだ。
それから毎日毎日僕は初音の星を眺めて過ごし、あの星へ行きたい、もっと近くに行きたいと強く願った。
そして僕は人生の全てを費やし、全てをかけてこの船を手に入れた。
絶望は力となり、初音の星に行くことだけが僕にとって唯一の希望となった。
*
もうあと5日もあれば、初音の星に辿り着く。
僕は初音の星が発する炎の中に宇宙船ごと飛び込むつもりだった。
もう少しで、全てが終わる。