1 遠い日
宇宙船の中で、僕は初音の夢を見ていた。
僕が一番幸せだった頃の夢だ。
*
夢の中で僕らはいつものように、病院の裏手にあるベンチに座って目の前のひまわりを見ていた。
「ねぇ悠くん。ひまわりって、哀しいよね」
ずっと黙っていた初音が、そう言って少し笑った。
初音はいつも僕の前では明るく振舞っていたのに、少し様子がおかしい。
『私ね、夏が大好き。強い太陽の光を浴びていたら、すごく元気になった気がするの。ひまわりも太陽みたいで、元気でかわいくて大好き』
前はそう言って笑っていたのに、今彼女は哀しい顔で、遠くを見るように目の前のひまわりを見ている。
「ひまわりは太陽と似たような姿をしてるけど……でも、ただ片隅から太陽を見上げているだけ。なんだか、哀しいよ」
そういうと今度は笑おうともしないで少し目を伏せた。泣きそうにも見えたが、やはり初音は泣かない。僕の前でさえ、初音は泣かない。
何故そんなことを言うのか僕にはよくわからなかったが、初音が2度口にした「哀しい」は、ひまわりのことではなく、彼女自身の本音なんじゃないかと僕は思った。
僕も初音もばかみたいに孤独で、僕らは寄り添うように生きていた。
僕は彼女がいればそれだけで、とても幸せだった。
でも初音は違う。
「哀しい」のだ……どうしても。
なんとなく、それが僕にはわかっていた。
『君には僕がいるのに』
そう言いたいのに、幼い僕は何も言えずに、目をそらし下を向いてしまう。
黙り込む僕に初音は手を伸ばした。
僕の手と、初音の手が触れ合う。
手から伝わるぬくもりに胸が痛いほど締め付けられて、僕は彼女が幸せになれるのなら何をしてもいいと思った。
しかし初音は3日後この世を去った。
僕ひとりを残して。