第17話 帰宅
たぬたぬを右脇に、買ったものが入った段ボールを左脇に抱えて家の中に入っていくと、土間にばーちゃんがいた。
昼食の準備なのか、採れたての野菜の泥を流しで落としている。
オレに気付いたばーちゃんは、パッとこちらを向いてニマッと笑う。
「お帰り、修司」
「ただいまー、ばーちゃん」
オレの脇の下では、たぬたぬがばーちゃんに向かって前足を伸ばしてバタバタしている。
「ぽきゅぅぅぅぅぅんっ」
「はは。たぬたぬもお帰り」
ばーちゃんは首から下げたタオルで濡れた手を拭くと、たぬたぬの頭をぽふぽふと撫でた。
たぬたぬは、ご機嫌だ。
「はは、元気そうだね。病院はどうだった?」
「ん、問題ないって。ワクチンも打ってもらってきたよ」
「そっか。それはよかったねぇ」
嬉しそうに笑ったばーちゃんは少し屈むと、両手を使ってたぬたぬをワシワシ撫でた。
たぬたぬも嬉しそうだ。
「お金は足りたかい?」
「ん、足りた」
「買い物は?」
「してきたよ」
オレは左脇に抱えた段ボール箱を見ながら答えた。
「はは。たぬたぬと両方持っていたら大変だね。こっちへ頂戴」
ばーちゃんは段ボール箱の底を持って驚いた様子で言う。
「おや、重たい」
「コイツ、欲張りでさ。ドッグフード、小さいパックのを沢山買ってきた」
「まぁ」
ばーちゃんは目を見開き、口を大きく開けて、おどけた様子でたぬたぬに顔を近付けた。
たぬたぬは、ぽきょぽきょと笑うように鳴いて、オレの右脇の下で体を震わせた。
「こら、落ちるぞ。たぬたぬ」
段ボール箱の中をちょっと覗いたばーちゃんは笑いながら、両手で持った段ボール箱を部屋の入口にある上がり框の上に置いた。
「さて、どんなのを買ってきたんだい?」
ばーちゃんはゴソゴソと段ボール箱の中を漁っている。
「たぬたぬが、あれもこれも欲しがるからさー。ドッグフードもお味見用の小さいのを買ってきた」
「やだ、修司。これってば、おやつ用の高いやつ」
「えっ⁉」
驚くオレの目の前で、ばーちゃんは細いパウチのドッグフードをぷらぷらさせて呆れていた。
「だってたぬたぬが……」
「たぬたぬは、犬じゃないか。修司はちゃんと字が読めるんだから、確認しなよ」
ばーちゃんがあきれ返った様子で諭してきた。
なぜだ?
オレが悪いのか?
「ポキョー」
たぬたぬは、なぜかご機嫌だ。
「あー。こりゃ、たぬたぬに騙されたね、修司。これはおやつばっかりじゃないか。こっちはキャットフードだし」
ばーちゃんが缶に入ったペットフードを取り出して目の前でプラプラ振っている。
「えー? じゃ、普段食べるペットフードはないってこと?」
「修司は、しっかりしているようで抜けているから……ま、いいよ。ご飯は芋でもあげとけば。じーちゃんに車を出してもらって買い出しへ行くときに、たぬたぬのペットフードもかってこよう」
なんだか二度手間だな?
『ほっほっほっ。おやつがたーくさんっ』
たぬたぬはポキョーポキョー鳴いてご機嫌だ。
やっぱオレ騙されたっぽいな?
チクショー!
「おや、これは首輪……」
「ん。いま巻いているバンダナが気に入ったみたいで、似たやつを買ってきた」
「そうかい」
ばーちゃんは目を細めてたぬたぬの首元を見た。
たぬたぬは、首元に短い前足をぽふぽふと当てている。
「そういや、あのバンダナは誰の?」
「あれば桃子の……」
ばーちゃんが、そう言いかけて続く言葉を呑み込のんだ。
「っ……」
思いがけず出てきた名前にオレは息を呑んだ。
桃子とはオレの母親のことだ。
「ポキョー?」
たぬたぬは不思議そうにオレとばーちゃんを見比べている。
「修司……」
「荷物、部屋に置いてくる」
オレはばーちゃんが心配そうに声をかけてくるのに気づかないふりをして、靴を脱ぎ捨てて家の中に上がり、たぬたぬを右脇に買ったものが入った段ボールを左脇に抱えて、自分の部屋を目指した。




