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エピローグ 未定義の余白

 ――境界は、戻っている。


 八雲紫は、博麗神社の上空からそれを確認していた。


 空と地の境。


 内と外の区切り。


 人と妖怪の領分。


 すべてが、いつも通りに“分かれている”。


「……ふう」


 小さく息を吐く。


 表面上は、何も問題はない。


 幻想郷は、再び安定している。


 だが――


それだけで済む話ではない


「見ていたわよ、霊夢」


 紫は、静かに呟く。


 あの戦いを、最初から最後まで。


 境界の上から、観測していた。


「あなた、“決めた”わね」


 あれは力ではない。


 技でもない。


“選択”だった


 無数に分岐していた可能性の中から、


 ただ一つを、“現実として固定する”。


「……やっぱり、あなたはそういう存在ね」


 苦笑する。


 博麗の巫女。


 境界を維持する者。


 幻想郷という“曖昧な世界”を、


“成立させ続ける装置”


 その役目を、あの子は何の疑いもなく果たしている。


「それに比べて……」


 視線を、わずかにずらす。


 そこにはもう、少女の姿はない。


 だが。


“完全に消えた”とは思えなかった


「あれは……」


 言葉を選ぶ。


 珍しく、少しだけ迷う。


「外でも、内でもない」


「存在でも、非存在でもない」


 ゆっくりと目を細める。


「“成立していないもの”」


 自分の能力では、触れられない領域。


 境界があるからこそ、操作できる。


 ならば――


境界がないものは、扱えない


「……困ったものね」


 扇子で口元を隠しながら、呟く。


 あれは“敵”ではない。


 倒す対象でもない。


 かといって、無視していい存在でもない。


 なぜなら。


あれは、“幻想郷が存在する限り”必ず現れる


「境界で世界を作れば、境界でないものが生まれる」


 当たり前の話。


 だが、それを“形にした存在”が現れた。


「……少し、やりすぎたかしら」


 自嘲気味に笑う。


 幻想郷は、あまりにも綺麗に“分かれすぎていた”。


 その歪みが、あれを生んだ。


「でも」


 空を見上げる。


 境界の向こう側。


 そこに何があるのか、誰も知らない。


「悪くないわね」


 くすり、と笑う。


「少しくらい“曖昧”な方が、世界は長持ちするわ」


 その時だった。


 風が、わずかに揺れる。


 ほんの一瞬だけ、


 空間の輪郭が、微かにぼやけた。


 ほんの一瞬。


 だが、確かに。


「……」


 紫は、目を細める。


 そして。


 誰もいない空間に向かって、静かに問いかけた。


「いるんでしょう?」


 沈黙。


 返事はない。


 だが。


 次の瞬間、


 どこからともなく、声がした。


 近くで聞こえた気もするし、


 遠くで聞こえた気もする。


位置が、決まらない声


「うーん」


 少し考えるような間。


 そして、


「まだ決まってない」


 紫は、ほんの少しだけ笑った。


「そう」


「なら、いいわ」


 扇子を閉じる。


「“決まらないまま”でいなさい」


 それが、この世界には必要だから。


「でもね」


 最後に、一言だけ付け加える。


「決めたくなったら、いつでも来なさい」


 風が止む。


 輪郭は、再びはっきりと戻る。


 境界は、確定する。


 幻想郷は、何事もなかったかのように続いていく。


 だが――


“まだ決まっていないもの”は、確かに残っている


 それは消えない。


 消えることも、消えないことも、


まだ決まっていないから

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