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第4話 弾幕ごっこ

 ――空気が、静かに張り詰める。


 博麗神社の境内。


 その空間は今、かろうじて“戦いの場”として成立していた。


 スペルカードルール。


 それは幻想郷における、戦いのための境界。


 勝敗。


 回避。


 当たり判定。


 それらすべてを、一定の枠に収めるための“約束”。


 だが――


その約束は、今まさに揺らいでいる


「じゃあ、始めるわよ」


 霊夢は札を構え、静かに宣言する。


「弾幕ごっこ」


 その言葉が発せられた瞬間、


 空間が、わずかに引き締まった。


 曖昧だった世界に、境界が生まれる。


 上と下。


 敵と味方。


 当たると当たらない。


 それらが、“定義される”。


「へえ」


 少女はそれを感じ取り、目を細めた。


「“そうやって決める”んだ」


 興味深そうに、霊夢を見る。


「面白いね」


「遊びよ」


 霊夢は短く答える。


「でも、遊びだからこそ守るの」


 一歩、踏み出す。


 今度は確かに、地面を踏みしめている。


“立っている”と決まっている


「行くわよ」


 札が舞う。


 霊力が流れ、光が弾ける。


 無数の弾幕が、少女へと放たれた。


 紅白の軌跡が、空を埋める。


 回避不能の密度。


 だが――


「うん」


 少女は、ただそこに立っていた。


 動かない。


 避けない。


 防がない。


 それでも。


 弾は、当たらなかった。


「……っ!」


 霊夢の目が鋭くなる。


 すり抜けたわけじゃない。


 逸れたわけでもない。


“当たるという結果が成立していない”


 弾は少女の体に触れた瞬間、


 その意味を失うように、消えていく。


「ねえ」


 少女が言う。


「これ、“当たってる?”」


「……当たってないわ」


 霊夢は即答する。


 だがその言葉は――


“自分で決めている”ものだった


「そっか」


 少女は頷く。


「じゃあ、“当たってない”んだね」


 その瞬間、


 弾幕は完全に意味を失った。


 当たり判定が、消える。


 霊夢は舌打ちしながら、さらに弾幕を展開する。


 今度は、より明確に。


 軌道を固定し、角度を定め、逃げ場を塞ぐ。


“当たる”という結果を強制する形


 しかし。


 次の瞬間。


 空間が、ひび割れた。


「……っ!?」


 視界が歪む。


 上下の感覚が曖昧になる。


 前後が入れ替わる。


 弾幕は、“進んでいるのか止まっているのか”分からなくなる。


「まだ決まってないからね」


 少女は、静かに言う。


「当たるかどうかも」


「動いてるかどうかも」


「ここがどこかも」


 一歩、踏み出す。


 その一歩が、


 近づいたのか遠ざかったのか分からない。


「全部、まだ決まってない」


 霊夢は歯を食いしばる。


 まずい。


 このままでは――


戦いそのものが成立しなくなる


「……紫!」


 叫ぶ。


 だが返事はない。


 いや、違う。


“返事があったかどうかが分からない”


「……くっ」


 霊夢は一瞬、目を閉じた。


 そして、ゆっくりと開く。


 深く、息を吸う。


 考える。


 こいつは回避しているわけじゃない。


 防御しているわけでもない。


“結果を未定義にしている”


 なら。


“定義すればいい”


「……そういうことね」


 霊夢は、小さく呟いた。


 札を一枚、取り出す。


 構える。


 霊力を集中させる。


 世界の輪郭を、意識する。


 上と下。


 内と外。


 当たると当たらない。


すべてを“決める”


「これでどう?」


 少女が、少しだけ楽しそうに笑う。


「決めるの?」


「ええ」


 霊夢は答える。


「決めるわよ」


 その瞬間。


 空間が、わずかに固定される。


 揺らいでいた境界が、一点に収束する。


 曖昧だった弾幕が、軌道を取り戻す。


「……へえ」


 少女の声が、ほんの少しだけ変わった。


「それ、“面白いね”」


 霊夢は構えを深める。


 今なら分かる。


この戦いは、弾幕じゃない


“定義の押し付け合い”だ


「行くわよ」


 静かに言う。


 そして――


「夢想封印」


 その言葉が発せられた瞬間、


 世界が、一つに収束し始める。

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