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第2話 未定義の少女

 ――少女は、そこに“いる”。


 そう認識した瞬間にだけ。


 博麗霊夢は、札を構えたまま少女を見据えていた。


 距離は、およそ五歩。


 だがその距離感すら、どこか曖昧に感じる。


 近いのか遠いのか、分からない。


 ただ、“そこにいる”としか言いようがない。


「……あんた、何者?」


 霊夢の問いに、少女は少し考えるように視線を逸らした。


 そして、


「まだ決まってない」


 そう答えた。


「ふざけてるの?」


「ううん」


 少女は首を横に振る。


「ほんとに、まだ決まってないだけ」


 その声には、嘘も誤魔化しもなかった。


 ただ事実を述べているだけの、平坦な響き。


 霊夢は、ゆっくりと息を吐く。


「……異変ね」


「うん、たぶん」


 軽く返される。


 まるで他人事のように。


「たぶんって……」


「だって、“異変かどうか”もまだ決まってないし」


 霊夢は一瞬、言葉に詰まった。


 会話が成立しているようで、どこかズレている。


 いや――


“成立しているかどうかが曖昧”


 そんな感覚。


「……とりあえず」


 霊夢は一歩踏み出す。


「話が通じる相手か、試させてもらうわ」


 札が、ひらりと舞った。


 次の瞬間。


 一直線に少女へと飛ぶ。


 狙いは正確。


 回避も、防御も、間に合わない。


 ――はずだった。


 だが。


 札は、少女の体をすり抜けた。


「……っ?」


 霊夢は眉をひそめる。


 すり抜けた。


 いや――違う。


 当たったのか、当たっていないのか。


“どちらとも言えない”


 札は、そのまま地面に落ちた。


「ね」


 少女が言う。


「今の、“当たった?”」


「……当たってないわ」


 即答する霊夢。


 だが、確信はなかった。


「そっか」


 少女は、少しだけ楽しそうに笑った。


「じゃあ、“当たってない”ことにしよっか」


「……は?」


 その瞬間。


 霊夢の足元にあった札が、ふっと消えた。


 いや、消えたのではない。


“最初から当たっていなかったことになった”


「……何したのよ」


 霊夢の声が低くなる。


「何もしてないよ」


 少女は首を傾げる。


「ただ、“決まってなかった”だけ」


「……」


「当たるかどうか、まだ決まってなかったでしょ?」


 静かに、淡々と。


「だから、“当たってない”ことにした」


 霊夢は無言で、もう一枚札を取り出す。


 今度は、連続で三枚。


 放つ。


 鋭い軌道で、少女を囲むように。


 逃げ場はない。


 完全な包囲。


 だが――


 その瞬間。


 空間が、歪んだ。


 いや、歪んだように“見えた”。


 三枚の札は、同時に少女へ到達する――


 はずだった。


 しかし。


 一枚は当たり、


 一枚はすり抜け、


 一枚は途中で止まった。


「……っ!」


 霊夢の目が見開かれる。


 矛盾した結果が、同時に存在している。


 当たったのか。


 当たっていないのか。


どちらも成立している


「まだ決まってないからね」


 少女は、当たったはずの札を指でつまんだ。


 しかしその手は、札を“掴んでいるようで掴んでいない”。


「これも」


 止まった札を見て、


「これも」


 すり抜けた軌道を見て、


「全部、ありえる」


 そして、静かに言った。


「ねえ」


 霊夢を見る。


「決める?」


 空気が、張り詰める。


「当たったことにする?」


「それとも――」


 一歩、近づく。


 距離が、縮まったのかどうか分からない。


「当たってないことにする?」


 霊夢は、ゆっくりと構え直した。


 今、理解する。


こいつは“回避している”わけじゃない


“当たるかどうかを未定義にしている”


「……面倒ね」


 小さく呟く。


「うん」


 少女はあっさり頷いた。


「面倒だよ」


「でも」


 少しだけ楽しそうに、


「面白いでしょ?」


 霊夢は、ふっと笑った。


「まあね」


 札を指に挟み、軽く回す。


「でも、私は“決める側”なのよ」


「そっか」


 少女は頷く。


「じゃあ――」


 目が、わずかに細められる。


「どうやって決めるのか、見せてよ」


 その瞬間。


 空気が変わった。


 曖昧だった世界に、わずかな“輪郭”が戻る。


 霊夢は一歩踏み出す。


 今度は、確かに地面を踏んでいた。


“立っている”と決まった


「いいわ」


 霊夢は言う。


「弾幕ごっこで決めましょう」


 その言葉が発せられた瞬間、


 世界が、わずかに“固定される”。


 ルール。


 勝敗。


 当たり判定。


 それらが、ほんの少しだけ形を持つ。


 少女はそれを感じ取ったのか、


 静かに笑った。


「へえ」


「“そういう決め方”なんだ」


 そして、軽く手を広げる。


「いいよ」


「まだ決まってないけど」


 一瞬、間を置いて、


「それで決めることにしよっか」

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