33章
一節
ギィ……。
重い音を立てて、十号車の扉が開いた。
まるで何かの結界がほどけたように、車内に漂っていた禍々しさが、ほんの少しだけ薄れた気がする。
「……中、だいぶ静かになったようですね……?」
リアラがそう呟いて前に出る。
そして扉の奥。
車両の中央に、"それ"は鎮座していた。
「……あれが……核……!」
車両の四隅から根を伸ばし、まるで心臓のように脈動している。
巨大な種子のようなそれは、列車の生命を象徴するように、規則的に膨らみ、収縮を繰り返していた。
あまりにも大きい。
しかも、この見た目は植物。
これでは、リアラの持ち味である打撃も電撃も、効果はいまひとつだろう。
こういうのは燃やすのが一番だが、どうする……?
その時、そっと一歩前に出た影があった。
「リディエル……?」
小さな少女が、震える指先を核へと向ける。
あどけない顔に、不安と決意が入り混じる。
「……むかし、ちょっとだけ……ならったの。火の魔法……。」
幼い声が、はっきりと呪文を紡ぎ始める。
「燃える意志よ、風を裂き、焔となりて……我が敵を焼け!」
声が力を持ち、手が陣を描く。
そして、小さな手のひらにかすかな熱が宿る。
やがて火種のような魔力が、揺らめきながら形になろうとする。
「ファイ………。」
詠唱の終わり、魔法の名を呼ぼうとしたその瞬間。
リディエルの口が、ピタリと止まった。
魔法は、完成しなかった。
第三十三章 二節
濡れた音と共に、鉄の匂いが広がった。
リディエルの小さな口から、信じられないほどの鮮血が噴き出している。
何が起きたのか、一瞬、理解が追いつかなかった。
「……え?」
俺も、リアラも、呆然とリディエルを見つめる。
次の瞬間。
胸の中央から、鋭く光る刃が、ずぶりと突き出ていた。
細く、長く、どこか禍々しい刀の切っ先が、彼女の体を貫いている。
「……う、そ……っ、リディエル!!」
リアラの絶叫が、車内に響き渡った。
頭が真っ白になる。
何も考えられない。
ただ一つ、はっきりしているのは、その刀の持ち主が、背後に立っていた練極だったということ。
「なに、して……っ!!」
気づいた時には、俺は走っていた。
考えるより先に、体が動いていた。こんな俺の体当たりなんて、当たっても意味がない。
だけど!
ドンッ!
「……!?」
練極の体が、ぐらりと揺れ、そのまま床に崩れ落ちた。
四つ這いになった彼女は、虚ろな目で、低く、言葉にならない声を漏らしていた。聞き取れない。ただ、正気じゃないのは明らかだった。
今はそんな事どうでもいい。
俺はリディエルの胸に突き刺さったままの、その刀へと手を伸ばした。
抜かなければ。
このままでは、リディエルが!
「リディエル……! 大丈夫、だから……っ」
必死で、震える手を刀にかけた。
その瞬間。
世界の縁がほどけるように千切れ、刀の柄を中心に現実そのものが巻き取られて行く。
そんな底知れぬ感覚に、俺は飲み込まれていった。
三節
どこからか、微かな風の音が聞こえてくる。
耳の奥を撫でるように、柔らかく、静かに。
目を開けると、俺は知らない場所にいた。
畳の床。竹の柱。
壁はなく、四方に空が広がっている。
まるで茶室を模したような静謐な空間。
広さは十六畳ほど。
けれど、誰の気配もない。
だが、外を覗き込んだ瞬間、その異様さに息を呑んだ。
空。
ただ、空しかない。
どこまでも深い青。その底に、土塊のような浮島が、ぽつり、ぽつりと浮かんでいる。
まるで世界が裏返って、空の底を歩いているかのようだった。
「驚いたな。ここに客人が来るのは……初めてではないか?」
不意に、心の奥へ直接響いてくるような男の声がした。
だが、周囲には誰もいない。姿も気配もない。
「誰ですか?どこにいるんですか?」
思わず声を上げたが、返ってくるのは沈黙だけ。
それから、再び声が頭の中に流れ込んできた。
「姿はない。私はお前が列車の中で握った、刀の心だ。」
刀の……心?
「ここは、私の精神世界。いわば、夢の中のようなものだと思えばいい。」
夢、か……。
改めて周囲を見渡す。
空に浮かぶ島、底のない宙、音のない空気。
どう見ても現実じゃない。
「戸惑うのも無理はない。だが落ち着け、少年。君が見た光景も、握った意志も、すべて私は受け取っている。」
列車の中……あの光景。
そうだ。
リディエルが練極に刺されて……リアラも無防備なままだ!
「安心しろ。ここでの十分など、列車の中では瞬きひとつにも満たぬ一刹那に過ぎん。」
まるで俺の焦りを見透かしたように、声は穏やかに諭してくる。
その響きに、不思議と怒りや混乱が和らいでいく。
「私はかつて、練極に授けられた斬魂刀。《赤斬》。そう、せきざん、と呼ばれていた。」
赤斬……。そういえば、彼女がそう呼んでいた気がする。あの刀の名前だ。
「練極は、真高野山の孔雀の会から命を受け、この世界に棲まう怪物、《パラディソ=ラストリア》と、その夢の守人、《鬼冠者》を狩り続けてきた。」
語る声は、どこか懐かしげだった。
「だが、夢や心を喰らう怪物たちと幾度となく相対するうちに、彼女の認識は曖昧になった。……私自身も、存在の輪郭が薄れていった。」
それは、永遠の戦いに疲れ果てた刀の、静かな嘆きのようだった。
「君は……兆しだと私は思う。覚めない夢に舞い降りた、目覚めの鐘のような。」
……俺が?
「破亜死との戦いのあと、練極との繋がりが突如として断たれた。最近は、そういうことがよく起こる。」
彼女の不安定な精神。その波が、刀にも及んでいるというのか。
「だが、交信が絶たれたことで、君がここへ辿り着けた。そして君の記憶から、彼女がリディエルを刺した場面を私は見た。」
「……はい。彼女は、近くにいます。」
俺は、うなずいた。強く、はっきりと。
「ならば頼もう。彼女を止め、この覚めない夢に終止符を打ってくれ。そうしてくれるなら、私の力を貸そう。」
「……あの……。」
どうしても気になる事が一つ。
赤斬がなおもペラペラと語りかけてくるのを遮るのは申し訳ないが、こればかりは聞かなければならない。
少しだけ躊躇いながらも、俺ははっきりと訊いた。
「血を……吸うんですか?」
一瞬、静けさが降りた。
そして声が、かすかに笑った。
「安心しろ。私の腹は、すでに彼女の血でとっくに満たされている。お前が使うくらいで、血を求めることなどない。」
……少しだけ、肩の力が抜けた。
そして俺は、深く頭を下げた。
「よろしくお願いします……!」
誰もいない空間。畳の上で、ひとりきり。
その頭上から、再び声が降ってくる。
「契約成立だ。私の真の名。それは……」
四節
意識が、急に引き戻された。
視界に映ったのは、あの列車の車内。そして、手には……《赤斬》。
かつて練極がそう呼んだ、斬魂の刀が確かに握られていた。
「……あ。」
目の前の光景は、精神世界で赤斬が語った通り、意識を失う前から一秒も経っていないようだ。
十号車の中央では、リディエルがその刀に胸を貫かれ、唇から赤い血を垂らしていた。
その姿に絶望したように泣きながら駆け寄ってくるリアラ。そして、リディエルを刺した張本人練極は、床に四つ這いになって呻いている。
あの世界、夢じゃなかったのか?
混乱を振り払うように、俺はそっと、リディエルの胸から刀を引き抜いた。
できるだけ痛みを与えないよう、慎重に、優しく。
「マスターっ、それ以上は……っ!リディエルの出血が……!」
リアラの声が震えていた。
心配と動揺が滲んだその声に、俺はゆっくり首を振る。
「大丈夫です、リアラさん」
俺は、はっきりと言った。
「忘れましたか?リディエルは降臨者です。たとえこのまま命を落としてしまっても、大都市に戻れば復活させられます。俺達はゴールドも持っていますし、手段もある。今はそれより、彼女を傷つけた“原因”に対処するべきです。」
言いながら、俺は練極の方を見た。彼女の様子がおかしい。苦悶の表情を浮かべたまま、何かを呟いている。正気ではない。
「今、やるべきことはたった一つ。俺たち三人、いや、最悪でも、俺が無事な状態で、この場所から脱出する事。そして、大都市に辿り着くことです!」
その言葉に、リアラがはっと息を呑んだ。
(……ああ、なんて……)
彼女の胸に浮かんだのは、驚きと、尊敬と、少しの安堵だった。
あの時、転生者ギルドの腕相撲大会で見せた彼の勇気。
いつも人の心に寄り添う優しさ。そして、ここ一番で発揮される決断力。
リアラの知るマスターは、着実に“強さ”を育てていた。
口と胸から血をこぼし、崩れ落ちそうになるリディエルを抱きとめたリアラの視線の端に、ふらりと立ち上がろうとする練極の姿が映った。
「……!」
まずい、マスターが狙われる。
彼に戦闘能力がないことは、リアラが一番よく知っている。
ならば、優先するべきは彼の護衛。そして三人の脱出だ。
唇を噛み、リアラはリディエルを一度床に寝かせようとした。
その瞬間。
「リアラさんは、下がっててください。」
背を向けたまま、マスターが静かにそう告げた。
「え……?」
目を見開くリアラ。信じられない、と言いたげにこちらを見つめる。
だが彼女のマスターは、手に持つ刀をしっかりと握り直し、真っすぐに練極を見据えた。
「今度は……俺が戦います!」
その背中は、不思議と頼もしかった。
リアラの胸に、温かい光が灯る。
「……はい、マスター。……どうか、ご無事で戻ってきて下さい。」
彼女は深く頭を下げ、再びリディエルのそばに膝をつき、回復魔法に集中し始めた。
リアラの主たる転生者が、初めて刀を前に構え、息を整え、意志をその刃に宿す。
そして、静かに名を呼んだ。
「運命を照らせ、《赤斬》!」
五節
「運命を照らせ、《赤斬》!」
その一声とともに、手にした刀が静かに熱を帯びた。
刃の周囲に、紅蓮の焔がふつりと立ち上がる。ゆらめく炎は、確かに灼けつくような赤。けれど、不思議と熱くはない。
ただ静かに、あたたかく、俺の手のひらを避けるようにして流れていく。まるでこの焔は、俺だけを傷つけまいとする意志を宿しているかのようだった。
その一方。
練極は、ゆっくりと何かを呟いていた。
焦点を失った瞳で、ふらつきながらも立ち上がり、ゆっくりとこちらを見据える。だがその瞳にあるのは、どこか遠くを見つめるような、深く沈んだ虚無だった。
けれど、俺はその視線から目を逸らす。
迷いも、躊躇いもない。
ただまっすぐ、列車の奥へ、“核”へと向き直った。
そのときだった。
心の奥に、ひび割れるような声が響いた。
(……待て、少年。なぜ敵に、背を向ける?)
それは刀、即ち《赤斬》の声だ。
俺は迷わず答えた。
「敵は、練極さんじゃない。この列車自体が……本当の敵なんです。彼女は言ってました。十号車の“核”を止めれば、列車も止まるって。だったら、今俺が斬るべきなのは……あっちです。」
一瞬の沈黙。その後、赤斬は、焔の奥で静かに頷いた。
(……なるほど。賢いな、少年。)
俺は赤斬を両手で握り、野球のバットのように思い切り振りかぶった。
素人の構えだ。見よう見まねの、未熟な姿勢。
だけど相手は動かない。植物のような“核”。周囲に邪魔もなく、攻撃も飛んでこない。
なら、この一撃で十分なはずだ。……いける!
そう確信した、そのときだった。
「……斬魔魂殺、《業冥》。」
背後で、練極の口元から、かすかな声が漏れた。
耳を澄ましていなければ聞き逃してしまうほどの、囁き。
胸がざわつく。
はっとして振り返ると、練極は胸の谷間から、脇差しをゆっくりと引き抜いていた。
車内の照明に照らされた美しい顔に、仮面のような無表情が浮かぶ。
無言のまま、彼女はスッと踏み出した。
まっすぐ、俺へと向けて。
(来るぞ!)
赤斬の叫びに、身体が反応した。
咄嗟に構えていた刀で、闇雲に振り払う。
ギィィンッ――!
練極の鋭い刃が、目の前で《赤斬》に受け止められた。
火花が散り、耳の奥に金属音が響く。
衝撃で、思わず腰が引ける。全身を貫くような戦いの感覚に、じわりと冷たい汗が滲んだ。
(ちょ、ちょっと待って!?なんですかこれ!?練極さんガチじゃないですか!?嘘でしょ?何あの構え、何この空気!?)
パニック気味の心の声に、《赤斬》は小さく溜息をついた。
(……戦いとは、そういうものだ。少年。)
静かに、だが確かな響きをもって赤斬がそう返す。
(ほれ、次来るぞ。)
鋭い警告に、体が跳ねた。
(ぎゃー!ムリムリムリッ! 死ぬ死ぬ絶対死ぬ!次の一撃で確定お花畑コースですよっ!!)
慌てふためく俺に、赤斬の声はますます冷ややかになっていく。
(今度は俺が戦うって言ったの、誰だったのかね?)
(いや、それは……。だって練極さん、ちょっと虚ろだったから邪魔なんか入らないと思ってたし。列車の核を燃える刀でぶった斬ったら終わりかなって思って!)
言ってて情けない。でも本当に、ただそれだけだった。
(まったく、子どもか。)
呆れを通り越して、もはや慈悲のまなざし。
それでも赤斬の声は、どこか優しく響いた。
(……少年、お前は実に素直だ。嘘をつかぬのは、好感が持てる。よいか、落ち着け。お前が私を握る限り、練極の戦いの記憶は、お前の中に宿っている。)
(え、本当に!?)
(大丈夫、私を信じろ。目で見るのではない、感じるんだ。)
その声が、胸にすっと染みる。
目を閉じて、意識を集中すると、まるでそれが自分の記憶であるかのように、練極の刀を操る技の数々が、流れるように脳内に浸透してきた。
(これが……練極さんの戦い……!?)
再び斬りかかってくる練極の脇差し。
だが今度は、見える!
ガキィィン!
受け止めた。しかも、ちゃんと。体が、反応してる!
(わ、わかるぞ!赤斬さん、これ……分かります!!)
興奮気味に、思わず声をあげる俺。
だが、赤斬から返ってきた声は、感動の共有でも優しい褒め言葉でもなかった。
(業冥ーーーーッ!!)
爆発するような怒声が脳内に響き渡った。
6節
ガキン!ガキン!!
刀と刀がぶつかる鋭い音が、車内の金属を震わせるように響きわたる。
無言のまま、練極と少年は打ち合っていた。
リディエルの胸に手を添え、必死に回復魔法で止血を続けるリアラは、ちらりと戦いに目を向け、思わず息をのんだ。
目の前で交わされるのは、流麗な剣の舞。
刀術の達人である練極が放つ熟練の斬撃を、少年は致命傷どころか、かすり傷さえ負わずに受け止めていた。
その舞うような刀さばきに、リアラは思わず心を奪われる。
これが、マスターの本気。
胸にぞくりとした震えが走る。
今までの旅で見せたことのなかった彼の姿に、リアラは目を離せなかった。
穏やかで優しいだけの少年が、まるで戦場に舞う刃のように思えたのだ。
……もちろん、そんな本当の力なんて彼にはない。
彼はただ、頭の中で騒ぎ立てられる声に翻弄され、導かれるがままに体が勝手に動いてしまっているだけだった。
彼の構える赤斬と、練極の持つ業冥。
二本の刀が打ち合うたび、少年の脳内に不思議な声が鳴り響く。
まるでデュエットの様に。
(業冥ェェェーーッ!!)
二度目のぶつかり合いの直後、最初に頭の中を埋め尽くしたのは《赤斬》の絶叫。
矛先はもちろん、もう一本の刀だった。
(うわっ、ばっ……赤斬さん!?なんか荒ぶってません!?落ち着いてぇぇ!)
(少年、ちょっと黙ってろ。……業冥ェ、てめぇどの面下げてここに居やがる?いや、何でもいい。ぶっ殺してやる!)
怒り心頭の赤斬。
(久しぶりだな、赤斬。貴様が退いたおかげで、我は再び練極様の手の中に戻れた。感謝するぞ)
対する業冥は、妙に落ち着いている。
(はぁ!?お前なんかもうお呼びじゃねぇんだよ!練極だって俺のほうが絶対いいに決まってる!さっさと出てけ、このナマクラ!)
怒号を繰り返す赤斬の思念は、散歩中にキャンキャン吠え散らかす小型犬よりもっと酷い。
(五月蝿いぞ火だるま。貴様との火炙りプレイなど、練極様はとうに飽きておるわ。証拠に貴様の名など、曖昧であっただろう?昔の妖怪漫画の登場人物の様にな。……案ずるな、ずぅっと見ていたぞ。)
嘲るような業冥の声。
(なんだとぉー!?細いわ短いわ存在感ゼロのクセに、よく言うぜ!だから捨てられたのも気づかねぇんだよ!つかお前、俺が来た時点でお払い箱だったろ!?どこほっつき歩いてやがったんだよ!?)
(……彼女の中で、一番暖かい所だ。)
その一言で、赤斬のボルテージは一気に振り切れた。
(うおおおおーーっ!!ぶっつっつっっ殺ーーす!!)
脳内に火山が噴き上がる。
(先程から殺す殺すと……語彙力の貧困さに呆れるわ。そもそも我らは刀。生も死も、概念の外にある。折るとか溶かすとか、もっとマシな言葉を選べ。可哀想に……なんと頭の弱くて哀れな刀、南無阿弥陀仏)
もはや哀れみすら漂わせる業冥。
前言撤回しなければならない。
二本の刀の掛け合いは、デュエットなどという上品なものではなかった。
それは言うなれば、スナックでナンバーワンホステスを前にしていがみ合う、やさぐれたオッサン二人組のいがみ合いそのもの。
聞くに耐えない、アルティメットノイズだった。
赤斬の怒りが限界を超えたのか、熱のコントロールが次第に疎かになる。
刀身からは花火のような閃光がバチバチと弾け出し、次第に柄を持つ俺の手のひらまで熱くなって来た。
(ちょっ、赤斬さん!?熱い熱い熱いって!俺まで巻き込まないでぇぇ!)
(殺す殺す殺す殺す……あ、ついでに燃やす!!)
(落ち着いてくださーーーいっ!!なんで俺の頭の中で下らない恋愛バトルやってんですかぁぁ!?)
もはや頭の奥で、赤斬と業冥が取っ組み合いを始めたかのように、脳内でバチバチと火花が散る。全身に流れ込む熱と殺気に、思わず悲鳴が出た。
「うるせぇーーー!!」
そして衝動のまま、自らの意志に従い手の中の赤斬を投げ捨てる。
投げた先は、10号車の核。
突き刺さった瞬間、目を焼く閃光が走り、耳をつんざく破裂音が電車を揺らす。
車両の中を吹き荒れる衝撃波。光と風が渦巻き、誰もが反射的に目を閉じた。
次の瞬間、そこにいた全員の意識が闇に呑まれた。




