21章
一節
翌日。
準決勝を不戦勝で抜けた俺たちは、決勝戦に挑むべく、再び“試練の間”の扉をくぐっていた。
今度は五人そろって、万全の体制。何が来ようが、どんな問題だろうが俺たちは乗り越えてみせる!
……はずだったのに。
そこにいたのは、一本のハープ。
ハープ、である。
そいつは黄金の弦を張り、美しい装飾をまといながら、部屋の中央にドスンと横たわり、勝手に弦が揺れている。そして、まるで人の口のような位置から、ハスキーかつ艶のある歌声が流れ出した。
「今ぁ……あなたの、こぉころのなかにぃ……咲いているぅ……花は……なんぼぉん……?」
バッカに向かって。
「は……?」
まぬけな声を出したバッカが、目をパチクリさせる。
「なんの、花だって……?」
理解不能。
俺もリアラさんも、レスカーもオトウトも、顔を見合わせて首をかしげた。
「おぉっとぉ……意味がわからなかったかなぁ……じゃあ、簡単な質問に移っていいぃ~?」
ゆらゆらと弦が揺れたかと思うと、ハープの上部からなにやら投票ボタンのようなものが生えてくる。
自動的に光ったボタンが、全員の足元に配置されていた。
「簡単な質問に変更しても、よろしいですかぁ?」
全員、即・YESボタンを押す。
バッカなどは、両手両足で全力投票していた。
「よぉし。それじゃあ~~次のしぃつもんぅ……♪」
ぱらん、と一弦鳴った。
「昨晩~……あなたはぁ~……ちかくのぉ~居酒屋でぇ~……“妻ではない”女性とぉ~……なにをぉしていたぁのぉかぁなぁ~~?」
その瞬間、空気が固化した。
「は、はいぃぃぃっ!?」
バッカが飛び跳ねる。
「お、おまっ、何を言って!っていうかそれクイズか!? それ、クイズかァァァア!?」
「選択肢はぁ~……ありませんっ♪」
にっこりと口元のような弦が、笑った気がした。
「いやいやいや、マルバツでもないし、オープン記述とかじゃねえし! そもそも情報どっから仕入れてんだコラァァァ!」
「さあ、こたえてぇ……バッカさんの、夜の冒険っ……♪」
「ぐああああああああああああああ!!」
彼の悲鳴が、試練の間に高らかに響いたところで……。
……このシーンは、これ以上文章にできないので、おしまいです。
二十一章二節
ドアがバタンと閉まった瞬間、俺たちは揃ってソファへと崩れ落ちた。
疲れた。
クイズに答えたわけでもなく、戦闘があったわけでもないのに、全身が妙に重い。
特に一名、精神的に大ダメージを受けた戦士がいた。
「……なんで、俺だけあんな目に……。」
両膝を抱え、控え室の隅でバッカが震えていた。
「“夜の冒険”って、なんだよ……冒険って……。」
繰り返すたびに、語尾がどんどんかすれていく。
隣では、レスカーが手帳を開きながら静かに言った。
「次回以降、事前の身辺整理をおすすめします。」
「やめろォォォ!なんでそんな事務的なんだよォ!」
「……あれは、ちょっと可哀想でしたね。」
リアラさんがそっと苦笑する。が、同情の言葉はそこまでだった。
「っていうか、あのハープ、絶対趣味悪いですよね……。」
「バッカ、ヒラケカアニヌヤトレ……。」
オトウトの呟きは、イレボナ語だった。もし共通語であれば、この空間の空気は、更に厳しいものになっていただろう。
「お前ら……!俺が、どれだけ勇気出してクイズに挑んだと思ってんだ……!」
「はい、クイズの答えは完璧でした。でも今度から、“妻じゃない女性”と会うのはやめましょう?」
「せめてっ……せめて仮名で呼んでくれ……!」
「じゃあ“ミカさん”で!」
「やめろォォォォオ!!」
レスカーとのやり取りに狼狽するバッカを前に、控え室は笑いとため息、そして微妙な間が交互に押し寄せてきた。
そして、ひととき後。
「……でも、バッカさんがいてくれて、よかったです。」
リアラがぽつりとつぶやいた。
「……え?」
「笑っていいのか、心配していいのか、わからなくなる時間……きっと、戦いの前には必要なんだと思います。」
ふと、空気が和らいだ。
バッカが少しだけ照れくさそうに鼻をすすった。
「……へっ、リアラさん、あんた良い女だな」
「ありがとうございます。でも“良い女”という言葉は、奥さまにこそ先に使って差し上げて下さいね。」
「ごめんなさいリアラさんッ!!!」
再び、地獄のような悲鳴が控え室に響いた。




