15章
一節
甲板の上には、朝の光がまぶしかった。
朝食バイキングを終えた俺たちは、リアラと並んでデッキへと出る。すると、ほどなくしてバッカが姿を現した。
「おう、探したぜ。ラピスラズリ大陸の寄港地、《サザンクロス・ベイ》が近いってんでな。」
俺たちの隣に立ち、バッカは誇らしげに胸を張る。
「ここ、《サザンクロス・ベイ》はな、ラピスラズリ大陸最大の港町。英雄王シン様が初めて降り立った場所として知られてるんだ。」
「英雄王、シン……。」
リアラが小さく呟く。
「おう。ラピスラズリ中のほとんどの大都市にはあの人の銅像があるんだが、ここのが一番デカい。まさに“最初にして最高”の港町ってわけだ。」
バッカはさらに続ける。
「で、行政を取り仕切ってんのが……南天六賢者!」
「……六賢者……?」
「見りゃわかるさ。モヒカン、肩パッド、ヘルメット、ツインテール、獣の毛皮の被り物、とげの付いた帽子……。」
「……えっ、それ、議会ですか?」
「議会だとも。あいつら、ちゃんと法案も審議するし、街頭演説だってやるんだ。魔法の力で動く乗り物も支給される!」
リアラが思わず吹き出す。
「す、すごい町ですね……。」
その時、バッカがふと海の向こうを指さす。
「お、ちょうど見えてきたぜ。あれが《サザンクロス・ベイ》だ!」
眼下に広がるのは、ラピスラズリ大陸最大の港町。
白亜の建物が海風にたなびく旗を掲げ、運河のように入り組んだ港の合間を、色とりどりの小舟がすべるように進んでいく。その向こう、丘の上には巨大な人物像。
長く流れる髪。天を指差す右手。笑みをたたえた顔には威厳があり、どこか優しさすら感じられる。
「……すごい。街が……きらきらしてます……!」
リアラが目を細める。
その眩しさの中、ひときわ異彩を放つ“歓迎団”の姿があった。
港の広場に、金色の絨毯が敷かれ、その中央に立つのは、六人の男たち。
ひとりはモヒカン、ひとりは肩パッド、ひとりはツインテール。
そしてヘルメット、獣の毛皮の被り物、とげの付いた帽子を被る者……全員が魔道バイクに跨り、整然と並んでいた。
「……あれが、南天六賢者。」
バッカが呟いた。
「マジの議員なんだけどよ、どっからどう見てもコスプレ大会だよな、あれ。」
船の中では笑いが起きる。リアラは少し驚いたように手を口元にあてていたが、ふと俺の方を見て、くすりと微笑んだ。
水平線の先、深い青を背景にして、白銀と蒼の塗装が朝日にきらめく、流麗な豪華客船がゆっくりと旋回する。船が桟橋へと静かに接岸すると、港のあちこちから管楽器のファンファーレが鳴り響いた。魔力拡声器を通したその音は、どこか勇ましく……けれど、よく聞くとやたらテンポが早くて、途中で半音ずれたりしている。やる気だけはある。
やがて、広場中央の金色の絨毯の上に、六人の騎士、否、南斗六賢者が整列した。
先頭に立つのは、片腕に羽根の刺青を浮かばせたモヒカン賢者。
続くは、両肩にトゲ付き鉄製アーマーを装着した肩パッド賢者。
全身銀のラメ素材で編んだツインテールを靡かせるツインテール賢者。
ずっしり重そうな軍用ヘルメットに汗を浮かべるヘルメット賢者。 やたらビシッとした軍服姿に獣の毛皮の被り物の賢者。
そして最後に、頭全体をとげの付いた金属の帽子で覆った謎のとげ付き帽子賢者。
六人が一斉に、バイクから降りると、左右から付き従う行政担当官たちも、ペコリと頭を下げる。
「……すごい。行政官……なんですよね、あれが。」
リアラが震える声で言った。
「はい。恐らく、たぶん……。」
俺は目を逸らした。見た目が変に強そうで、逆に不正など無さそうという風にも受け取れる。ちゃんと議決して、予算も執行している……はずだ。
「歓迎の儀を始めよ!」
モヒカン賢者が、拡声器付きの槍を掲げて叫ぶと、背景で謎の打楽器集団が演奏を始めた。
ラップビートのような、不思議なリズム。観客たちもノってきてしまっている。
「光り輝くサザンクロス・ベイの名にかけて! 本日ここに入港した豪華客船の全乗客を歓迎する!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」
バイクの魔導ランプが一斉に点灯。
六色の光が、空に虹を描く。
「英雄王シンに、恥じぬ振る舞いを!」
そしめ、六人が全員で右手を天に突き上げた!
その背後、丘の上に建つ英雄王シンの銅像が、奇跡的にまったく同じポーズを取っていた。
風が吹き、モヒカンが揺れる。ツインテールも揺れる。
ようやく、サザンクロス・ベイに、俺たちは降り立った。
バッカがぽつりと漏らす。
「……相変わらずだよな、この街。ああ見えてあの六人、マジでいい奴らなんだぜ。」
「うん……なんか、ちょっと……好きになってきたかもしれません……。」
リアラがぼそっと呟いた。
2節
そして俺たちは、入港初日の街を歩き出す。
サザンクロス・ベイの石畳を一歩一歩踏みしめながら、港から選手用宿泊施設へと向かう道すがら、バッカは先頭を歩いていた。
リアラは隣に並びながら、きょろきょろと目を輝かせている。
「……道が、すごくきれい……。花も飾ってあって、歓迎ムードですね。」
「選手のために毎回飾るんだとさ。祭り好きなんだよ、ここ。アクアバウトのシーズンが始まると、ずっとこんな感じなんだ。」
建物の壁面には色とりどりの布が下げられ、通りの両脇には屋台が立ち並ぶ。
魚介を焼く香ばしい匂いや、ワニムと言う名の香草を煮込んだスープの香りが鼻をくすぐった。
陽気な音楽が流れ、行き交う人々の表情もどこか浮き足立っている。
バッカが振り返り、指をさす。
「あれが選手宿舎、《ホワイトウェーブ・ロッジ》! 外から見たら宿ってわからねぇくらい洒落てるだろ?」
見ると、それはまるで貴族の別荘のような建物だった。白い石壁に赤い屋根、庭には小さな噴水。
入り口にはすでに数人の大会スタッフが並んでおり、名前と登録証の確認を行っているようだ。
「さーて、ここから先は選手と付き添いの転生者様扱いだぜ。飯もついてるし、練習場も完備。おまけに、海が見える風呂付き!」
「……お風呂……食べ放題! すごいです、マスター!」
楽しそうに微笑む彼女の笑顔に、俺もつられて頷いた。
こうして、俺たちは選手とその付き添いの転生者として正式に登録された。
入港当日はチェックインと簡単な説明会だけで終わり、次の日は午前と午後にそれぞれ練習時間が設けられていた。
出場者であるリアラは、魔道機器で再現された模擬的なウォーターフィールドで、軽く動きの確認をした。
次はいよいよ、アクアバウトの初戦だ。




