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世界樹の記憶《リアラ》  作者: 鈴木 厳流彩


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0章



 0章一節


 「最後にしようと思うんだ。だから、全部話しときたくて。」


 口にした瞬間、もう引き返せない気がした。

 それでも言い切ってしまった以上、俺は話し始めるしかなかった。


 自分でもどこまでが現実で、どこからが物語なのか分からないまま。

 彼女は、黙って聞いてくれた。



 0章二節


 一陣の風が吹きすさび、血の匂いの混じった砂ぼこりが舞い散る。

 ホリュージ大陸にある大都市の一つ、ロマーリア。


 闘技場の観客席の熱気はまばらだったが、それでも、目を離せない者たちがいる。

 石造りのリング、その中心。


 砂に刻まれるのは、剣の傷跡ではない。

 重い棍棒が振るうたび、岩を砕くような風圧が鳴り、鈍い音と共に空気がたわむ。


 振るわれるのは、まるで花を束ねたような形の岩の棍。

 それを軽々と操るのは、妖艶なビキニアーマーに身を包んだ少女、ケーブックロー。


 棍は三度、四度と、風を裂きながら弧を描き、華麗に、獰猛に、リングを支配する。


 対するは、白と青を基調にした聖衣を纏う神官風の女性。

 その細身の体は、重さを忘れたかのように軽やかだった。


 武器ひとつ持たず、紙一重で猛撃をいなす様は、風と共に舞う舞踏のよう。

 徒手空拳。

 それでも彼女は、一度も足を止めない。


 名はリアラ・ヘル。

 その小柄な身体に、観客は一様に不安を覚えた。


 『流石は伝説の八英雄の妹にして、その魅惑で男たちを虜にする少女、ケーブックロー!見事な棍捌きです!』


 男のアナウンスが、場の空気を煽る。

 だが、リアラの視線は揺れなかった。胸の奥に溜め息がひとつ、静かに沈んでいく。


 (……やっぱり、若い娘のほうが、人気あるのですね)


 棍棒が再びうなりを上げる。

 容赦のない重撃。

 一発でもまともに食らえば、即座に決着がつく。


 観客も実況も、皆それを理解している。


 『なおも続くケーブックローの猛攻!リアラ・ヘル、一発でも当たれば即リタイアでしょう!』


 リングに響く言葉をよそに、リアラはその一撃一撃を、すんでのところで回避していた。

 鼻先をかすめ、衣の裾がかすかに揺れるたび、観客席がざわめく。


 だが、戦っているのはリアラだけではない。

 ケーブックローもまた、迷っていた。


 ふわり、ふわりと舞うように間合いを外していく神官の動き。

 全力で振るう棍棒の軌道が、ことごとくかわされる。

 積み重なるのは、苛立ちでも焦りでもなく、腕の奥に蓄積していく微かな疲労。


 「……ふぅ。」


 ケーブックローは小さく息をついた。

 その瞬間、重たい棍棒が、パチンと音を立てて背に収まる。

 砂塵が静かに舞い、空気が一変した。


 「まったく。ちょこまかと逃げるのだけは一流なおばさんね。こんなのちゃっちゃと終わらせて、マスターとデートに行きたいな。」


 言いながら、チラリと背後に視線をずらす。

 そこには、試合開始の合図から瞬きひとつせず、ケーブックローの活躍を優しく見守る“召喚主”の姿があった──彼女が心から敬愛する、転生者のひとり。


 「おば………さん?」


 ケーブックローの何気ない発言が、リアラの怒りを加速させる。

 そんなことなど気にも止める様子はなく、ケーブックローはやけにハイトーンな笑い声を響かせた。


 「お〜っほっほっほっ!」


 右肩から背中にかけて大きく素肌を露出し、そこから放たれるは、必殺技《魅惑の波動》!


 その瞬間、甘い風と光の渦が観客席までもを襲った。


 「……うおおおおおおッ!?」


 「ケーブックローさまぁあああっ!!」


 男たちだけが悲鳴のように絶叫する。一部男性観客など、鼻血で意識を失いかけている程だ。

 だが、リアラは微動だにしなかった。

 その眼差しが、静かに、そして確実に変わっていく。


 「……あら。なるほど。男性にしか効かない技を選んだわけですね。」


 淡々とした口調。だが、その声音には冷えた怒りが宿っていた。


 「“おばさん”呼ばわりに加えて、“女性ですらない”と?」


 ケーブックローが笑う。


 「え?なに?図星だった?」


 バチンッ!!


 次の瞬間。

 高圧電流の様な鋭い音が、リングを貫いた。

 リアラの両手に、鋭く光がほとばしり、青白い電光が宿る。


 「なら、思い知らせてあげます!」


 余裕の表情をケーブックローが崩す間もなく、リアラが間合いを詰めた。雷で出来た巨大な両手用ハリセンへと変化した手元の電光を、迷わず振りかぶる。


 「……あたしは、おんなだああああああああああああああああああああ!!!」


 ズガアアアァァァン!!!


 「ぎゃあああああああああああああああ!!!」


 轟音と共に吹っ飛ぶケーブックロー。

 雷扇の一撃は、風も彼女も、観客の理性もまとめて薙ぎ払った。


 まるで紙吹雪のように、彼女の姿が雲海に吸い込まれていく。

 観客席を飛び越え、瞬く間に星となり、どこかで鐘がゴーンと鳴った。


 『…………。ケーブックロー、見事に場外ホームラン。』


 静まり返る観客席に、静かに実況の声が響き渡る。


 「えっ、うそだろ……?一撃……?」


 思わず、ケーブックローがマスターと呼んでいた男の口から、驚嘆の声が漏れた。その転生者の心情を嘲笑うかの様に、彼の召喚器にある降臨者リストから、ケーブックローの名前が消え去る。


 試合終了。


 控え室に戻ったリアラは、顔を真っ赤にして俯く。


 「……取り乱してしまって……申し訳ありません、マスター。」


 「い、いえ!ものすごく、かっこよかったです……!」


 俺のその言葉に、リアラがそっと顔を上げた。

 ほんの少しだけ、頬を赤らめ、目元を潤ませながら。

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