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3.僕はエンジョイ人生がモットーです

 私はステロイド・ミュフィア。このグランデリア王国中央区にある西街の実力者の調査のため、母親……のような存在とこのコロシアムに来ていた。


「ジャイニークって吟遊詩人が歌うあれ?」


「ええ、そうよ。馬鹿げた精神力で闇属性魔法を使えるようになった“人間”よ」


 あれがいたら、計画失敗に決まっている。あんなに“手”があったら、こっちにいくら数がいたって負け確じゃない…

 本当に実行するのかしら……


「にゃあああ!!!」


 中央のステージから何かの鳴き声がする。それも聞き覚えがある。


「ネズミがいるぞ!」


 観客席から声が聞こえる。

 ネズミ?……………タマ?

 私は席を立って中央へと歩いて行った。


「あんまり目立ちすぎないでね!」


 母が言った。しかしそれは“フラグ“になってしまった…


「ニャーニャー!ニャーニャー!」


 私はもう見える。タマが中央で走り回っているのが。


「タマちゃーーん!」


 私は叫んだ。タマがこっちを観た気がする。

 ビュュュゥゥ……私の下から風がおこる。今日はズボンでよかった。タマちゃんってえっちなんだから。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「おい!七色の道!依頼だ!あの魔獣を追い払え!」


「了解だよ。出来るだけ魅せるから、お色つけてね。」


 ここのスタッフが冒険者パーティーに依頼を出す。そしてパーティーリーダーのジェフィックが快く了承する。


「あのネズミも惨めなものですね」


 冒険者は動物と魔獣の区別はつくが、彼女はタマを動物として侮っている。

 自分の身長ほどある銀色の杖。先端は近代的な幾何学模様になっている。そんなものを持っている美しい女性、ウェーンが呟く。


「さぁあああっ!! 注目の臨時試合が始まりましたぁ!!」


 このパーティーは剣士のジェフィック、ダポセイン。水属性と土属性を操るファクトリア、光属性を操るウェーン。最も配分がいいと言われている構成だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 僕は今、中央にいる。そして僕を見に来たミュフィア。ミュフィアとは2ヶ月半くらいの再開といったところだ。


「おっとぉ!? 対するはC級パーティー《七色の道》! 光・水・土・剣、最も“構成がいい”と言われるバランスパーティーだが――相手は……銀貨泥棒……!?」


「ニャー!ニャー!」


 あれ、あの実況どこかでぶっ飛ばしたような……


 観客からの視線は……困惑顔だ。僕は魅せないといけないのかもしれない。真ん中にいるだけじゃダメだ。輝かないと!


 そしてタマは微笑んだ。ーーいい獲物が来たにゃ……


「そこのネズミちゃん、ちょっと出て行ってもらえないかな?」


 ファクトリアが土の槍を浮かせながら微笑んでくる。僕は魅せないといけない。ならば……


「ニャー!」


 《エアスラッシュ》だ。タマが放った魔法は土の槍を縦で割る。


「戦闘開始の合図ね。ふふ、男子2人!行きなさい!」


「一応俺がリーダーなんだけどな…」


「しょうがないでしょう。あなたは脳筋役なんだらから。」


 ウェーンがジェフィックをディスる。


「そうだぞ。俺がひっぱってやるから、安心しろ。“魅せる“んだろ?」


 ダポセインが鼓舞を入れる。


「よし、行くか!俺がダポセインと行くから、あの魔獣が逃げそうになったら、魔法使い組で捕まえてくれ!」


 じゃれあいの最中、タマはある“仕掛け“をしていたのだったーー



「神よ、我が仲間に光の加護を《サポート:ブースト》」


 ウェーンにより身体強化された2人は横に並んで走り出す。タマは逃げる。空に…


「おい、あいつ空、走ってるぞ」


「ウェーン!空飛べねーか?」


「無理に決まってるでしょ!」


「空をっ!? 空を走っているー!? 飛翔魔法は…感知なし!? ……あーっと、実況のセファ、今、言葉を失っております!!」


 観客席もざわついている。羽なし魔獣が空を飛ぶのはBランク以上であるからそうであろう。コロシアムは上位冒険者が多いが、そもそもBランク冒険者は全体の5%にも満たない。


「やっと私の出番ですね。《テラロッド・リフト》」


 キタニャ!僕の時代!観客は僕に釘付けにゃ!

 また魔術だ!さっきから魔法を使われるな…けどあのあんぽんたん剣士は一体なんなんだろう


ーーねこは知らなかった。ファクトリアはあたま一つ飛び抜けていることを。


 にゃに!?僕は今空中を走っている。これがさっきしていた“仕掛け”なんだけど…彼女は違うみたいだ…彼女はそびえ立つ塔の上に乗っている。

 塔の根元から魔力が噴き上がる。まるで大地そのものが息をしているみたいだった。

 彼女は動かない。けれども、その塔は僕に向かって動いている。切り落とすか…


「ニャー!」


 《ストームバースト》である。これは本来、広範囲型の《エアスラッシュ》のようなものなのだが、なぜかねこは違う。

 《エアスラッシュ》と同じ範囲に収縮されており、威力が段違いなのだ。


「キャッ!」


 ファクトリアが叫ぶ。しかし、切られた塔はまた伸び始め、彼女を受け止める。


「おっとおっと!? 土塔を切り裂いたぁ!! ファクトリア選手、受け止めなおすぅ!! いやぁこれは……風と土の真っ向勝負ですぅぅ!!ぜひ銀貨を取り戻してもらいたいですね!」


「大地の恵みよ、私に恵みを与えたまえ。《グラウンドハンマー》」


 空中に大きな土のハンマーができる。会場もどんどん盛り上がる。


「おい、あの魔獣はなんなんだよ…」

「剣士はポンコツだが、魔法使いはすごいぞ」

「あの魔獣も魔術師もかわいいな…」


「タマちゃーん!がんばれー!!」


 ミュフィアの声。


「タマって誰だ?」


 ある1人の男が尋ねる。


「あの魔獣ですよ。」

「ネームドか?」

「いや、動物の“ねこ”っていうらしいです」

「なんだそれ?」

「そんなのどうでもいいじゃないか!がんばれタマちゃん!!」


 また別の男が、タマを応援し始める。

 余談であるが、パーティー「七色の道」は嫌われている。このコロシアムの所有者の商人に媚びを売って専属になっただけでなく、それをこなすだけでBランクパーティーになってしまったのだ。


「タマー!がんばれー!!」

「がんばれタマー!」

「「タマああッ!!」」


 応援の声が大きくなる。


「おっとここで“タマちゃん”コールが入ったぁ!! 観客が一体化している! ネコVS冒険者、私は冒険者に銀貨を取り返してもらいたいですね!」


 そして、観客から実況にブーイングが起こる。


 ふふ、キタにゃキタにゃ。僕の時代というやつが。


 僕の目の前には大きな土のハンマーがある。これをどうするか。相手は苦悶の顔を浮かべている。制御が難しいのだろう。ならもう一度魅せても良いのではないか。


「ニャー!!」


 《ゼファー・ブレイク》、それは風の爆弾である。

 土のハンマーが弾け飛ぶ。


「やめなさい!!!制御の邪魔をするなぁぁぁぁ!!」

「ニャー・ニャー!」


 弾け飛んだ後すかさず《テンペスト・リミテクション》を使う。大量の“空気の球“のなかに吹き飛ばした土を集める。そしてーー


「にゃあああ!!」


 相手に向かって中身を飛ばす。


「目、目があぁぁぁ!!」


「土砂の直撃ぃぃぃぃぃ!! これは反則ギリギリのテクニカルショットだぁぁ!! 誰かこのネコに実況席まで来させてぇぇ!! 銀貨を返せぇぇぇ!!」


「「「タマあああああっっ!!」」」


 ……ちょっと目立ちすぎたかにゃ?まあいっか!


 風が止んだ。僕の名前を呼ぶ声だけが残っていた。


 そして僕は闘技場を後にするのだったーーー

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