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Lv.1の勇者パーティーに課せられたミッションは、魔王討伐!?

作者: 作者

「よ〜うやく終わった……。」


仕事からの帰宅途中。僕は、疲労した目を擦りながら、道端を歩いていた。

残業をしていたせいか、その日はどうも、判断能力が鈍っていたらしい。


「あ、危ないっ!」


誰かの止める声が聞こえてくる。

横に目を向けると、トラックが猛スピードでこちらに迫ってきていた。


激しい衝突音が聞こえた瞬間、僕は地面に倒れていた。悲鳴と、痛みと、朦朧する意識。

僕は、ぼんやりとしながら、こう考えていた。


(……赤信号……だったのか……)


そこからの記憶はない。


「ほれ〜、起きろ起きろ!」


「いた、いたたたた!」


往復ビンタを受け、僕は目の前の人物を見つめる。


「……ど、どなたですか?」


「どーうも!神様でーす!」


「神様?」


別段、神様を信仰していた訳ではなかった。なので、目の前の人物が、プロジェクションマッピングではないかと、何度も目を擦った。


「信じられない……確かにいる……。それに、後光が少しさしているような……?」


「そうそう、後光がさしてるから、神様!ハッハッハ!」


随分と適当で豪快な神様だなとぼんやり考えていると、彼は書類に何かを書きながら話を進めてくる。


「突然だけど、君は、不注意でトラックに跳ねられて死んだよ。」


「は、はい?」


「なんだけどね。僕は、君の能力が、廃れるにはもったいないと思ってね。だから、君を、RPG世界に転生させることにしたんだ。」


「……え?」


動揺する僕を置いてけぼりにし、彼は続ける。


「これからのことを、簡単に説明しとくね。君のジョブは勇者。ミッションは魔王討伐。ステータスは、『ステータスオープン』って言ったら見れるからね。

それとさ、1人で魔王に立ち向かうの、大変だと思って、一応パーティー組んどいたよ!

俺ってば気が効くなぁ。じゃあ、がんばって!」


神様とやらは、手を軽くフリフリと振る。要点だけ教えてくれるのは有り難いが、僕はこう思った。


「……展開が、本当に、急過ぎませんか?」


一つ瞬きをし、目を開けると、気持ちいいそよ風が、僕の頬を通り過ぎた。

見渡す限り、緑が生い茂る、大草原だ。


(……、夢じゃないのか)


どうやら僕は、神様のような存在に、雑に勇者とされ、異世界へと飛ばされたようだった。


身体に重みを感じ、下を見ると、ゲームで良く見かける、初期装備の鎧だった。

手元には、木製の剣の持ち手がある。


(って、木製のはずなのに、剣が重いッ!)


……よし、肩に担げばなんとか持てた。


全く、筋肉がある人ならまだしも、僕は、普通の社会人サラリーマンなんだぞ……。


なんなら、普通の人より運動が苦手な方なのに。


絶対、ジョブ設定間違えてるよなぁ、あの神様。


途方に暮れながらも、僕は、RPGゲームのことを思い出す。

確か、ステータスってやつを表示させたら、自分の職業や特性を見ることができるんだっけ。

さっきの神様も、ステータスオープン、と唱えたら、ステータスを見れるということを言っていた気がする。


「ステータスオープン」


『Lv.1 勇者、只野仁。サラリーマン。適応能力が高く、何にでも流されてしまう。ある意味、精神力が強い。』


ある意味ってなんだよ……ギリ悪口じゃない?


そういえば、あの神様は、魔王討伐のために、パーティーを組んだとか言っていたな。……食事が出て盛り上がるやつを組んだとかではないよな。文脈的に、仲間ってことだろう。


兎にも角にも、魔王を倒すにしろ、仲間を見つけることが先決だ。


僕は、仲間を探すため、剣の重さでふらつきつつも、前へと進むことにした。


暫くすると、遠くに、女性の影が見えてくる。


「……おい、何こっちジロジロ見てんだ。ブチのめすぞ。」


ステータスって、相手側に言っても表示できるものなんだろうか。……試してみよう。


「……ステータスオープン。」


『Lv.1 僧侶、絵須沢美羽。女子高校生。空手大会優勝経験あり。口が悪い。』


表示できた……!


……僧侶って、回復役ってことか。なら、優しそうな人が良かったな……。顧客並みに怖い。


「何勝手に人のステータス見てんだ、変態野郎。」


「し、失礼しました。初めまして。僕は、只野仁。会社員してます。」


「……。」


「あのー、無視ですか?」


「知らない奴には口きかねー。」


そう言うと、彼女は僕を置いて、スタスタと歩き始める。


パーティーを組んだとなると、ここで良好な関係を築いておかないと、後々困ることになるんじゃないか……。


よし、営業の意地、見せてやる。


僕は、彼女を追いかけ、隣についた。

営業マンの心得、その一。何気ない会話で、相手の心をほぐす。


「最近暑いですよねー。」


「……。」


「そちらの学生服、高級感あって素敵ですね!どちらのメーカーさんのものですか?」


「知ってどうするんだよ、キモ」


「確かにそうだ……えーと、えーと、あ!神様!ここに来る前に、神様が出てきませんでした?」


すると、彼女は歩みを止める。


「……あの、いけすかねぇ奴か。」


「君も、見たんですね。」


「……。元の世界に返せっつっても、ろくに話を聞きやしねぇ。」


「それを訴える時間て、ありましたっけ?」


「……アイツが勝手に説明してくるから、こっちも勝手に言ってやったんだよ。意味なんて、なかったけど。」


どうやら、彼女の目的は、元の世界に帰ることのようだ。これは交渉に使える。


「絵須沢さん。僕達、協力できる関係にあると思います。」


「……どういうことだ?」


彼女は、興味をしめしたのか、顔をこちらに向けた。


「神様は、最終的な目標は、魔王討伐と仰っていました。それで、パーティーを組まれたということは、そうしないと魔王を倒せないということです。」


「それで?」


「魔王を倒すことができれば、何かしらはおこると思うんです。もしかすると、元の世界に帰れるかもしれません。それまで、協力し合いませんか?」


彼女は、顎に手を当て考え始める。しばらくした後、一つ頷きながらこう言った。


「その話、乗った。」


「よ、良かったです!それでは、これからよろしくお願いします。」


僕が手を差し出すと、彼女は背を向ける。


「……パーティーってことは、残り二人、どっかに居るんだろ。さっさと探しに行くぞ。」


「わ、わかりました。って、待ってくださいよ!」


彼女は、握手はせず、また、さっさと道を歩き始めた。僕は、差し出した手を引っ込め、肩に担いだ剣を持ち直し、慌てて彼女の後をついていった。


またしばらく草むらを進むと、甲高い声が聞こえてくる。


「うっわ!どこっスかここ!アタシ、コンビニにいたはずなのに!」


彼女は、辺り周辺を見渡し、こちらに気がつくと、駆け足で近づいてきた。


「む!もしや、ここの世界の住人っスか!?パネェ〜!全然アタシと変わんネェ〜!」


ここの世界の住人……と、発言したと言うことは、彼女もここに来た人なのだろう。僕は、一つ咳払いをしてから話し出す。


「……恐らくですが、僕達も、多分君と同じ境遇だと思います。」


「マジっスか?!じゃあ地球人?!おんなじっスね〜!」


僕は、絵須沢さんに話したことを、彼女にも話した。


「なるほどっス!そういうことなら、アタシもパーティーに参加するっスよ!」


「良かった、ありがとうございます。早速ですが、ステータスを確認してもよろしいでしょうか?」


「勿論ス!」


「では、失礼して……。ステータスオープン」


『Lv.1魔術師、的遠 鈴。女子大学生。食べる事が大好き。ノリが良い。』


「的遠 鈴っス!大学生っス〜!よろしくっス♩」


「……もうステータスで確認した。」


「ちょっと、絵須沢さん……!」


「たはは、それもそうっスね!じゃ、私もステータス、見させてもらうっスね!……勇者と僧侶っスか!頼りになるっス!けど、印象から想像してたのとは、違った職業っスね。意外っス!」


「うるせー。それを言うんだったら、お前も魔術師なんて似合ってねーし。」


「いやー!そうっスよね!わかるっス!ま、なんとかなるっスよ!」


彼女の口の悪さは、僕が嗜めたところで、直すような人ではないし、的遠さんがおおらかな人で助かった……。


安堵していると、的遠さんが右手に持っていた杖を少し掲げ、マジマジと見つめる。


「そういや、なんスかね、この杖?目が覚めた時には持ってたっスけど……。」


「そうですね……職業に、魔術師と出ていたので、もしなすると、何かしらの魔法が使えるんじゃないでしょうか?」


「こうっスか!」


そう言うと、彼女は杖を振り回す。


「危ないっ!急に杖を振り回さないでください!それは、物理攻撃用の道具じゃないですから!」


「え?そうなんスか?ガチでウケるっス笑

振り回したら、何かは出るとは思ったスけど……」


「……普通は、詠唱とか唱えるんですよ。」


「えーしょー?って何スか?」


「……やっぱ、お前には魔術師は似合ってねーよ……。」


「テヘヘっス〜⭐︎」


(陽キャでわんぱくかい……!こえーよ……俺、ただの引きこもりだよぉ……)


そう話していると、遠くから、ガサガサと草を踏み締める音が近づいてきた。


「もう、いやぁん!なんなのよぉここぉ!何にもなぁい!最悪ぅ!」


(すごい……マッチョが乙女だ……。)


「あらやだ!ここの世界の第一村人ォ?」


僕は、彼女達に話した説明を彼にも話した。


「なるほどねぇ。だったら、勿論私も参加させてちょうだい。私は、アイリーン・スミス。気軽に、アイリーンって呼んでちょうだい。」


「へぇ、海外の方なんですか。」


「……え、えぇ。まぁね。そんなトコロ。」


「ステータスオープン。」


「ちょっと、絵須沢さん勝手に!」


「お前も勝手にやっただろ。」


どうやら、パーティー内の誰かが、ステータスオープンと言うと、自分が言わずとも確認できるようだ。僕は、彼のステータスに目を見張る。


『Lv.1タンク、立花寛太郎。ジムトレーナー。恋多き男。独特な感性アリ。』


(随分……古風な名前だ。)


「寛太郎さんっスか……。タンクはイメージ通りっスね。」


「やだ!ステータスって本名がでるノォ!?折角、素敵な名前で呼ばれると思ったのにぃ!」


「よし、行くぞ寛太郎。」


「いやーん!本名で呼ばないでぇ!」


「ぼ、僕はアイリーンさんと呼ばせていただきますよ……。」


「や、優しい……ッ!ありがとうね……!オイゴラァ、女どもぉ!アンタらもアイリーンって素直に呼べやぁ!」


「ぎゃ〜!寛太郎が怒ったっス!逃げるっス!」


「マッチョは武が悪い。」


「アイリーンさん、落ち着いて……!二人とも、悪ふざけはやめなさい!」



と、言うわけで。寛太郎さん改め、アイリーンさんを最後の仲間に加えた後、皆んなを落ち着かせ、僕達は、何もない草原を歩き続けた。


すると、足元から、ガサガサと音が聞こえる。


「にゃわん。」


「なんだコイツ。」


「えーと、待ってね……敵にも使えるのかな……ステータスオープン。」


『Lv.1 ねこわんわん。爪や牙を使い攻撃してくる。倒したらレベルがあがる。」


「どうやら、モンスターを倒せば、このレベルが上がるみたいですね。」


「そうか……蹴飛ばしたらすぐ殺せそうだな。」


「そっスね〜。でもなんだか、可愛い見た目してるからか、やりづらいっス……。」


「……わ、私、この子をやっつけることなんてッ、そんなこと、できないわ……実家で飼っている山五郎に似てるッ……!」


ハンカチを取り出し、涙を拭いながらアイリーンさんは言う。


「名前、古風ッ!」


「……アンタ達……撤退よ!」


「ハァ?倒さねーとレベル上がんないだろ!」


絵須沢さんが抗議の声を上げる。


「でも、無理ヨォ!あの子を倒すって言うんなら、私がアンタ達をぶっ飛ばす。」


「上等だ、やってみろよ。」


二人が向き合い、睨み合う。


「ちょっと!仲間内で喧嘩はやめてください!」


「そうっスよ〜!」


「もしかすると、アイリーンさんが倒せる敵が出てくるかもしれません。長い目で見ましょう。」


「チッ。」


「仁くん……ありがとう。感謝するわ。」


「いえ、では、先に進みましょう。」


その後、様々なモンスターが出てきたが、どの敵も、アイリーンさんの実家で飼っていた動物達に似ており、倒す事ができなかった。


『ぴよぴよらびっと』


「宇佐吉右衛門……」


『一本角タートル』


「海太郎ッ……」


『ま・しまポニー』


「ぽっぽチャァン!!!!」


「お前どんだけ動物飼ってるんだよ!全然倒せねぇじゃねぇか!」


「動物園で飼えなくなった子とか、捨てられた子達をうちの実家で保護してんのよォ!!!!」


「良いやつだな!!!!許してやる!!!!」


ーーー


そうこう敵を避けている内に、僕達は森に来ていた。巨人の背丈ほどある巨木を潜り抜けるのは、だいぶ骨が折れた。


日はとっぷりと暮れ、時間帯は夜になった。


「これ以上、明かりもなく森を進むのは危険です。ここの辺りで休みましょう。」


僕達は、枯れ木を集め、焚き火を起こすことにした。


「火はどうする。」


「原始的なやり方でも良いですけど……材料と時間がかかりますよね。」


「魔術師の鈴。アンタならできるんじゃなぁい?」


「アタシっスか!?けど、どうすれば良いのかわからないっスよ……。」


「火が出そうな呪文を唱えればいけるんじゃね?」


「よ、よし!やってみるっス!出よ……『火!』」


「いやまんまかよ。」


彼女がそう唱えると、ライターのような小さい火が、枯れ木に灯りを灯す。


「や、やった!やったっスよ〜!」


「おめでとうございます!」


「やるじゃなぁい?」


「……幼稚園生か。」


僕らは焚き火を囲い、これからのことを話し合うことにした。


「先ずは、食料と水の確保が先決ね。」


「そうっスね〜、もうお腹ぺこぺこっス……。」


「魔法で水も出せないのか?」


「やってみるっス!『水』!……ダメみたいっス……。」


「レベルが足りないが故、エネルギーが切れてしまったか、鈴さんが火の魔法しか使えないのか……どちらかですね。」


「うぅ、喉もすごくカラカラっスよ……。」


途方に暮れていると、アイリーンさんが上を向きながら目を細める。


「あら……すーっごく遠くにだけど、木の上に何かなってるわよ。」


「食えるもんなのか?食えるならなんでも良い。」


「ステータスで確認できないでしょうか……?」


「ステータスって、そんなに便利な機能なのかしら?」


「物は試しですよ。『ステータスオープン』!」


どうやら、使えるようだ。果物の詳細が出てくる。


『あっぽぽあっぽー。毒々しい見た目をしているがりんご。食え。』


……説明文、段々と自我を持ってきていないか?


「ふぅん。毒はないみたいね。りんごなら、水分補給にもちょうど良いわ。私に任せてちょうだぁい!」


そう言うと、アイリーンさんは颯爽と木によじ登り、大量のあっぽぽあっぽーを摘んで戻ってきてくれた。


「おお、お前すげーな。」


「ふん。伊達に山で育ってないわよ。」


「流石、寛太郎さんっスね!」


「寛太郎言うなァ!まぁ良いわ。皆んなお食べなさい。エネルギー補給は大事よ。」


「では……有り難くいただきます。」


あっぽぽあっぽーは、本当にりんごの味だった。焚き火に照らされ、紫色の実がテカテカと光る。この色味でさえも、空腹状態ならば、些細なことなのだ。


僕達は、充分な睡眠をとった後、また森の中を進むことにした。コンパスも地図も何もないため、ただただ広がる道を、進んでいくことしかできなかった。


「あっ、見てくださいっス!ここに近道って書いてあるっスよ。」


そこには、近道とでかでかと書かれた、看板が立っていた。


「こんなあからさまな近道ってあるか?罠だと思うが。」


「えー、でも歩き疲れたっスよ。一生このまま、森の中を彷徨うのは勘弁っスよ〜」


「そうねぇ……ここに来てから、こちら側の住人に全くと言って良いほど会わないし……。文字が書いてあるということは、少なくとも人がこの先にいるってことじゃないかしら?」


「行ってみる価値はありますね。」


「……しらねーからな。」


多数決により、僕らは看板のその先に向かうことにした。

しばらく進むと、木々の色味が、段々と紫色へと変貌し始める。


「やだ、葉の色が、あっぽぽあっぽーとおんなじだわ……。」


「うひぃ〜気味が悪いっス!心なしか、呻き声が聞こえてくるような……。」


「や、やめろよ……」


「大きな湖ですね……。ここは、サイズ感が規格外のものが多いんでしょうか……。」


「お、おい!只野!」


「なんですか、絵須沢さん。せめてさん付けを……」


「上!上!」


振り返ると、三人が、恐怖に慄く顔をしている。僕は、ゆっくりと後ろを振り向いた。そこには、三つの大きな狼の顔が、涎を垂らし、こちらを見つめていた。


あの湖だと思っていたものは、涎だったのか……!?


「す、『ステータスオープン』……。」


『Lv.99ケルベロス。爪や牙を使い攻撃してくる。いぬわんわんとは比べものにならない程強い。逃げて。』


「逃げてって言ったって……!」


「む、ムリっスよ……こんな大きさじゃ……!」


アイリーンさんは、目を閉じ、運命を受け入れるように俯いた。


「ここで……ジ・エンドかしらね……。」


Lv.1の僕達は、なす術もなく、逃げることもせず固まっていた。

しかし、ケルベロスは、直ぐに食べることはせず、大きな頭の一つを、的遠さんの元へと近づけさせる。


「あ、アタシが最初っスかぁ……うう、お父さん、お母さん、親孝行できなくてごめんなさいっ……。」


しかし、一向に食べる気配はなく、大きな鼻が空気を吸ったり、吐いたりしている。僕達はその度に、吸い込まれそうになったり、吹き飛ばされそうになったりしていた。


「……的遠さん、もしかして、ポケットに何かいれました?」


「ふぇ?道中に食べようと思って、あっぽぽあっぽーを詰めれるだけ詰めてきたっス……」


「それだ!それをケルベロスの口に放り込んでみてください!」


「わ、わかったっス!えーいままよ!」


そう言うと、彼女はあっぽぽあっぽーをケルベロスに投げ渡した。ケルベロスは、器用にキャッチし、パクッと食べた。

すると、一頭の目が、キラキラと光だす。

それを見た他の二頭も、的遠さんに近寄ってきた。


「お、お、お前達も食べたいんスか?よーしよし、ちゃんとあげるっスからね、私を絶対に食べないで欲しいっス……!」


そう言うと、彼女はあっぽぽあっぽーをそれぞれに投げ渡した。すると、他二頭も目を輝かせ、大きく地響きをさせながら、もふもふのお腹を見せた。


「あ、あっぽぽあっぽーで、服従のポーズ……?!」


「た、助かったっス〜!」


「……チョロすぎる。大丈夫かコイツ……。」


「いや〜ん!可愛い!山五郎みたーいっ!」


アイリーンさんは、特に気にする様子もなく、ケルベロスをもふもふしている。


アイリーンさん、確か、ねこわんわんにも同じことを言っていたような……。


僕は考えること放棄し、彼同様、ケルベロスをもふもふしておいた。毛並みが本当にもふもふでもふもふだった。


しばらくして、ケルベロスは、こちらに背を向け、伏せの状態で座り込む。そして、一向に動く気配がない。時々、チラチラと三つの頭が、こちらを振り返る。


「……もしかして、お礼に、どこかに、連れて行ってくれるってことっスかね?」


「そうなんですかね……だとしても、こんな山のように高い背中には、なかなか乗れないですよ。」


「おい、的遠。ダメ元で、私らを上に持っていく魔法を使ってみろ。」


「わかったっス!『浮け!』」


すると、僕達の体がフワフワと浮き始める。


「おわぁ!?」


「やだ、凄いじゃなぁい!」


「や、やったっス〜!これで……ウゥッ!段々と力が……でなく……!」


途中まで浮かんでいた僕達は、一瞬、ガクッと、垂直に落下した。


「Lv.1だから、魔力が少ないのか……?!急げ!」


「ぐぬぬ……MAX、パワーッ!」


彼女がそう言うと、僕達は、猛スピードでケルベロスの身体の背中にたどり着く。


「も、もう無理……っス……。」


「お疲れ様ね。よくやったわ。残りのあっぽぽあっぽーをお食べなさい。」


「へ、えへへぇ……ありがたいっス……ふんめえっふ……」


僕達が乗ったことがわかったのか、ケルベロスはゆっくりと身を起こし、どこかへと歩き始めた。


ーーー


ケルベロスの身体に乗り、揺られながら、僕達は話をしていた。


「皆さんは、なぜ、ここの世界に来たのか、聞いても良いですか。」


「え〜?急っスね」


「さっき、一度、死ぬかと思ったじゃないですか。……それで、どういう経緯か、気になりまして。」


「……そういうお前はどうなんだよ。」


「僕は……仕事帰り、判断能力が鈍って、赤信号なのに、横断歩道を渡ってしまったんです。それで、トラックに轢かれて……。」


「そんな……」


「……お気の毒に。」


少し気まずい沈黙が流れた後、一呼吸置いてから、絵須沢さんが話し出す。


「……私は、歩道橋から落ちる妹を庇って、そのまま……。だから、妹が気に病まねぇように、私ならなんともねぇって、言ってやりたい。その為に、元の世界に戻りたいんだ。」


「……。」


「アンタ、良い子ね……」


「家族を守ることは、当たり前のことだ。」


「……妹さんの為にも、魔王討伐、一緒に頑張りましょう。」


「……あぁ。」


「協力、するっスよ。」


「私もよ。」


「皆んな……、ありがとな。」


「他のお二方は、聞いてもよろしいですか。」


「良いっスけど……。」


「二人の後だと、ちょっと、気まずいと言うか。」


「嫌なら、話さなくても良い。」


「いえ、二人が明かしてくれたのに、アタシが明かさないのは、ここは不平等じゃないんで、言うっス。」


一つ咳をしてから、彼女は話し出した。


「本当はよくないっスけど、バイト先で余った、消費期限が切れたお弁当をもらって、食べてたんス。無我夢中でかき込んだから……喉にご飯が詰まって、息ができずに……。」


「はぁ!?何やってんだ!」


「うう、だってだって!ウチが貧乏だから、お腹が空いてたんス〜!」


彼女の死因に、呆気に取られていると、アイリーンさんも話出した。


「私もね……浮気した元パートナーがいてね。彼に張り手を喰らわせて、私は、颯爽とヒールを鳴らしながら、その場を後にしたわ。だけど……道端に落ちてた、バナナの皮を踏んじゃって。綺麗に転んで、頭を強打してしまって……。」


「死んだのか。」


「そうよ……気がついたら、神様が出てきてたわ……イケメンだった……。」


「気にするところはそこなんですか。」


「二人とも、何やってんだ……。」


「……でも、こうしてアンタらと出会えたんだから、悪くはなかったかな。」


「そうっスね!」


「綺麗にまとめたな……。はぁ……。ここではちゃんと気をつけろよ。」


「はいっス!」


「アンタもね。私らを庇って、死ぬんじゃないわよ?」


「わかってるよ。」


死因では笑えないものばかりだったけど、パーティーとしてまとまってきたような気がして、僕は気持ちが温かくなった。



ーーー


しばらくすると、とある場所で、ケルベロスは歩みを止めた。見上げると、禍々しい外観のお城が頓挫している。


「ねぇここって……もしかして」


「ま、魔王城……?」


「Lv.1でぇ〜!?」


「みたいですね……。」


竜宮城ではなく、まさか、魔王城へと連れてこられるとは。

結局、僕達は敵を倒すことができず、Lv.1のままだ。このまま、魔王と相対すれば、確実に負けてしまう……!


すると、重厚な扉な扉が開き、中から人影が出てくる。


「ベロス!遅かったな。どこに行っていたんだ?」


それは、ツノが生えた、あざだらけでガリガリの子供だった。


「す、ステータスオープン」


『Lv.1 魔王。まお。魔族の最後の生き残り。可哀想な子。』


「……そんな、」


「想像していた魔王と、全然違うじゃない。」


「……!誰だ、貴様ら。……!ベロスに何をした!」


警戒心剥き出しな彼女に、絵須沢さんがゆっくりと近づく。


「子供な上に、ボロボロじゃねーか。」


「ち、近づくな!」


「私は僧侶だ。お前の怪我を治したいんだ。」


「うわ!美羽ちゃんの笑顔なんて、出会ってから初めて見たっス……」


「うるさい黙れ。」


「怒られちゃったっス⭐︎」


「そう言って……攻め込む気だろう!あいつらみたいに……!」


「あいつら?……言っておくが、私たちはここの世界の住人ではない。」


「……じゃあ、どこからきたんだ?」


「地球、というところだ。……だから、そいつらと私達は違う。一度だけで良い。信じてくれ。」


彼女は、まおちゃんに手を伸ばす。彼女の誠意が伝わったのか、まおちゃんは、恐る恐る、その手をとった。


「よし、ありがとう。まおの怪我を治す為に、お姉ちゃん頑張るからな。」


そう言うと、彼女は、まおちゃんの目線に合わせ、しゃがみ込む。彼女が目を閉じ、力を込め始めると、淡い緑色の光が、まおちゃんを包み込んだ。


「……!怪我が、消えてく……。」


Lv.1なのに、無理をしたからだろうか。彼女の全身に、大量の汗が滲んでいた。


「良かった……。」


彼女の気持ちが伝わったのか、まおちゃんは、ハッとした表情になる。そして、俯きながらこう言った。


「ありがとう……。そなたの名前はなんだ?」


「私は美羽。美羽で良い。」


「そうか、美羽……。何故、魔王である我を助けた?」


「……理由なんてない。強いて言うなら、妹に似ていたから……かな。」


そういうと、彼女は、ポンポンとまおちゃんの頭を撫でた。すると、まおちゃんは大粒の涙を流し始める。


「え……!ど、どうした、痛かったか?」


「ちょっと!アンタ、力加減をちゃんと調整しなさいよ!」


「し、していたつもり……だったんだが、」


狼狽えている彼女に、まおちゃんは、ギュッと抱きしめた。


「ありがとう……。誰かに、こんなに優しくしてもらえたのは、久方ぶりだ……。」


彼女は何も言わず、ただただ、まおちゃんを抱きしめ返した。


ーーー


僕達は、彼女が落ち着いた後、事の顛末を話し始めた。


「そうであったか……。ベロスが世話になったな。」


入れ、と言われ、僕達は魔王城の中へと通される。彼女以外、誰もおらず、外装とは違い、内装は質素なものだった。


「……もし良かったら、これ、食べるっスか?」


的遠さんが、あっぽぽあっぽーを差し出す。


「……、これは、食える物なのか?」


「私たちのお墨付きよん♩不安なら、私が毒味するけど……」


「いや、良い……。ベロスが食べて平気だったんだ。安全な物なのだろう。」


そういうと、まおちゃんは、苦い顔をしつつも、一思いにあっぽぽあっぽーをひとかじりする。


「う、上手い!なんだこれは!こんなに禍々しい色をしておるのに!」


「……ここに住んでいるのに、知らなかったんですか?」


僕がそう言うと、彼女は、頬張る口をピタッと止めた。


「あぁ……。教わる前に、皆殺しにされてしまったからな……。」


「何……?どういうことだ。」


「ここの世界は、人間と魔族で別れていてな。言語が違うゆえ、人間どもは、外観が異なる、我々のことを恐れていたのだ。

それから、我々のことを知ろうともせず、無知がゆえに、危害を加える気のない、無抵抗のお父上を含め、多くの魔族を虐殺した。

ただ、得体が知れないという理由で……だ。しかし、秘密通路に隠された、幼かった私と、ベロスだけが、生き残ったのだ。」


「そんな……、ひどい……!」


「神様は、こんなに酷い目にあっている子を、殺せと命じたの!?なんてひどいやつ!」


「はいはい、呼びました?」


「神様!」


いつから聞いていたのだろうか。時空の裂け目から、神様が顔を出す。


「まお、後ろに下がれ。」


「……!」


「おやおや、その子に情が湧いちゃったかい?」


「ひどいっスよ、神様!この子を殺せだなんて!」


「そうよそうよォ……!まだ小さい子供じゃない!」


「……俺より遥かに弱い、君達人間が、俺に刃向かうつもりかな?


「……転生させていただいたことには、感謝しています。だけど、Lv.1で弱いからって、僕らだけ逃げて、こんな小さい子を見殺しにするなんて……絶対に、できません。」


僕は、フラフラになりながらも、木製の剣を彼に向ける。


彼は、余裕の表情をしながらも、両手を上げ、降伏のポーズをする。


「ん〜……。まぁ、殺さなくても良いよ。」


「「「「え?」」」」


「その子はね、将来、孤独に苛まれた後、とてつもない力を得る予定だったんだよ。だから、早々に悪い芽は摘んでおこうと思って、君達を派遣したワケ。慌ててかき集めた魂達だったから、全然、期待はしていなかったけどね。」


いちいち失礼なことを言うな。この神様。


……ん?もしかして、ステータスの最後の方にあった、あの一言は……。


「ご名答〜。あのステータスは、俺が直々に表示してたんだよ。」


「こ、心が読めるんですか?!」


「勿論。俺ってば優秀だから!でも、面白かったなぁ。まさか、道を大きく外れて、レベルの高い巨人の森に入り、まさかの隠しルートの近道を発見、それでいて、魔物やケルベロス倒さずに魔王城まで辿り着くなんて!クク、こんなこと、前例になかったよ!」


「笑い事じゃないですよ……。」


「いや〜、楽しませてもらったよ。お礼に、君達、元の世界に帰してあげても良いよ。どうする?」


「え……は?」


「か、帰れるんスか!?」


「ま〜、君達の役目は、もう、なくなったようなものだしね。ね?現魔王様。」


「……あぁ。」


「我々、魔族を攻撃してきた人間どもは、皆、悪意のある者達ばかりであった……全ての人類が、悪い奴らだと思っていたのだ。

しかし、そなたらと出会って……このように、温かく、我と接してくれるヤツらがいるのだと……希望を持てた。我の、家族達のようにな。」


「まお……。」


「だから、我は……大丈夫だ。ベロスもおるしな。だから、そなたらは心配せず、元の世界へ帰るが良い。」


「そんな……。」


「……私は残るぜ。」


「な、何を言う!そなたには、妹君が居るであろう!」


「アイツには、父さんや母さん……家族がいる。私が居なくても、やっていけるだろう。だから、大丈夫だ。」


「アタシも残るっス!」


「鈴……!」


「アタシ……、奨学金返すために、ずっとバイト三昧だったんスよ。寧ろ、こっちの世界に残って、夢だった、最先端のインフルエンサーになるっス!」


「こっちには、いんたーねっと、とやらはないのだぞ……?」


「構わないっス!こっちには、魔法があるじゃないっスか!それを駆使してなんとかやるっス!」


「ワタシも……ここに残るわ。」


「元恋人のことは、どうするのだ?まだ痛めつけ足りないと、言っていたであろう?」


「恋って言うのはね……別れがあれば、出会いもあるものよ。だから、ココで、元彼より良い人見つけちゃう♩」


全員が、残った僕を見つめる。心なしか、まおちゃんも、僕に残って欲しそうな瞳で見つめてくる。


「僕、は……。」


僕は、実家の家族のことを、思い出していた。


『アンタ、実家にばかりいないで、さっさと一人暮らししなさい。じゃないと、いつまで経っても自立できないわよ。』


『そうだぞ。彼女の一人や二人ぐらい、つれてこんか。』


『あ、このお菓子、兄貴の?悪ぃ、食べちゃった。』


……。


「僕も、この世界に残ります。」


「な、何故だ!?そなたにも家族が、」


「良いんです……。ちょうど、自立しろって言われて頃だったしさ。」


「どうやら、全員の意見は同じみたいだね」


「お前ら……!我、我は、本当は寂しかった。ベロスはいてくれるが、城の中に一人だけというのは、辛かったのだ……本当に……本当に、ありがとう。」


「良いんだ。それに、お前が悪い魔王様になったら困るしな。私が、色んなことをまおに教えてやる。」


「美羽……。ありがとうな。」


「それに……もし、誰かがまおのこと傷つけんなら、ぶちのめしてやらねぇと。」


「ニッヒッヒ〜!それには同意っスね!」


「当たり前よォ。この筋肉で、アンタ達のこと、守り抜くワ!」


「……その前に、レベルを上げなきゃですね。」



かくして、魔王を討伐しに向かった一行であったが、魔王の可愛さに陥落し、自ら進み、魔王の家族となったのであった。


「……何これ、全員、闇堕ち(笑)エンド?」



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