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輪廻の恋人  作者: 56号
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第一話 輪廻の伴走者

魂は生まれ変わる。

命が朽ちても、その芯に灯る光は消えず、時を超え、形を変え、再びこの世に芽吹く。

だが、その魂にはもうひとつ、宿命がある。

――ともに巡る、伴走者の存在。


かつて、古代メソポタミアの地に生きた一組の恋人がいた。

シュメールの黄昏に、未来を誓い合ったその二人は、隣国アッシリアの軍勢により無残に引き裂かれた。

それは、終わりではなかった。


以後、魂は幾度も巡った。

ある時代には兄弟として。

ある時代には剣を交える騎士として。

ある時代には、路地裏のバーで静かにグラスを磨く店主と、疲れた心を癒やしにくる客として。


彼らは、いつもどこかで出会っていた。

深いえにしに導かれ、名前も、姿も、言葉も変わっても、

「なぜか惹かれる」「理由もなく懐かしい」

そんな想いが胸の奥に灯り続けた。


そして、令和。

東京の喧騒のなか、ふたりは再び巡り会う。

今生こそ、想いを告げるとき。

幾千年の魂の旅路の果てに、はじめて「愛している」と声に出して伝えられる、その時が来たのだ。

ウルカは、代々石工の家に生まれた若者だった。

その手は荒れ、爪の間には常に白い石灰が詰まっていたが、彼の刻む彫像には、神々も見惚れるほどの魂が宿っていた。

街の大寺院の礎石から、王墓の浮彫に至るまで、その腕を知らぬ者はいなかった。


一方、カナは高台の館に暮らす、王家直属の将軍の一人娘。

槍を掲げる兵たちを見下ろすバルコニーの奥、絹の帳と香の煙に包まれて育った彼女は、文と星の道を好んだ。

月の満ち欠けを読み、神殿に捧げる讃歌を奏でる彼女の声は、まるで天の鈴のようだった。


身分は、まるで天と地ほどの差。

だが、運命は二人を引き寄せた。


それは、王墓の建設現場だった。

神殿に納める「星の門」の石扉を刻むため、ウルカは夜空の星図を見に将軍邸の書庫へ通うようになった。

その書庫で出会ったのがカナだった。


最初は、ただの監視役として、彼を見張るつもりだったカナ。

だが、やがてウルカの瞳に宿る静かな誇りと、手のひらの傷に美しさを感じるようになった。

そしてウルカも、カナの語る詩や星の物語に、これまで見たことのない世界の広がりを感じるようになっていった。


月夜に交わされる言葉、

彫像の欠片に隠された小さな手紙、

誰にも知られぬ庭園の井戸の傍で、二人は愛を育んでいった。


だが、運命は彼らに猶予を与えなかった。


アッシリアの軍勢が南下を開始し、戦の影が都にも迫る。

将軍である父は、すでに敵軍との交戦の最前線にあった。

そして、王家は急遽、カナを隣国との政略結婚に差し出すことを決めた。


「身分もなにもかも捨てて、私と逃げて」

カナの言葉に、ウルカは答えられなかった。

家を継ぎ、街を守り、民を導くことが、彼の誇りでもあったから。


逃げられなかった。

そして――離れ離れになった。


それでも、魂は約束した。

「また巡り会う。次こそは、共に生き抜こう」


この誓いが、やがて令和の時代に、静かに灯をともすこととなる。

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