幼女魔法講師は顔が引きつる
賑やかに紙吹雪だのラッパの音だのが舞い響く、マーケット。
出店された店……、学生の方を午前中にうろつき、面白そうないたずらグッズを一つ二つ買って、【ドアの壁紙】の中で作ってきたサンドイッチを丘の上のフードコートで食べた。
なんか視線を感じたが、特に振り返ることもなく気にせずにぱくぱく食べ終わると、ヴォル(人型)と雅琵は席を立つ。
本当は屋台で買ったものを食べたかったのだが、そうすると黒緑紫のスープとかっちかっちのバゲットか、焼いた肉は美味しそうなのにそこにわけのわからない黄色いタレをかけて総てを台無しにしている串焼き屋か、素材そのまま、林檎を食べるしかなかったわけで。
この世界の食事情を忘れていた二人は絶望したが、雅琵の非常食が入っている巻物から、サンドイッチと牛乳を出すことで腹痛を避けた。
「ヴォルー、今度は外部の方の売り場行ってみよ!」
「あぁ」
言葉少なに頷いたヴォルを引き連れて、やってきたのは外部のひとたちが店を開いているところ。
荷車のようなもので店の形をとっているところもあれば、芝生の上にシートを敷いて雑多に品物を置いている者もいる。
三者三様な店構えに、わくわくする。
いいも悪いも本物も偽物もあるから、マーケットは面白いのだ。
学生の方はどちらかというと研究発表会みたいな雰囲気があるのに、外部の方にはそれがない。だから楽しい。
ヴォルに話しかけようと後ろを振り向くと、どこか驚いた面持ちで垂れた目を見開いて外部マーケットの中でも奥の方を見ていた。
「……驚いたな」
「なに? なんか面白いものでもあった?」
「オーダーメイドプリクチュールが売られている」
「は!?」
オーダーメイドプリクチュール。それはたった一人のためだけのレースだ。その人しか纏うことを許されず、公爵家など爵位持ちでも家が傾くほどの金銭を仕立て屋に支払って作ってもらう。これを作った仕立て屋は他の誰の頼み……王の頼みでさえ同じ柄を作ってはいけないとされている。もし作ったら、仕立て屋は殺されても仕方ないと。
雅琵もヴォルからもらった事があるからわかるが、あれはこんなところで売られていい代物ではない。なんせそのひとの代名詞とも言えるものだ。地位や経済力を示すものでもある。こんなマーケットの片隅で売られていいわけがない。
ちなみに、ヴォルがどうしてそんなものを買えたかというと、端的に言って金があるからである。ヴォルはドラゴンだ。それも一度堕ちたとはいえ神竜。そして神だろうが普通のドラゴンだろうが、普通に換毛期……換鱗期はやってくるわけで。神の力の代わりに魔力を纏い鱗を落とせば、超一級品の魔力のこもったドラゴンの鱗の出来上がりである。ようはその鱗を売った金銭を持て余した結果、図書館でオーダーメイドプリクチュールを知り、雅琵に送ったのだ。




