幼女魔法講師は釣りをする
「あなたがたが、依頼を受けてくれた方……ですか?」
「そうだよー」
「よろしく頼む」
「こちら、こそ。よろしくお願いします」
雅琵たちをみて明らかにがっかりという言葉では表せない失望と絶望で声をつまらせた軍人は、船で件の島まで雅琵たちをつれてくると、自分たちは船に待機していると言った。
余計な邪魔が入らない分、楽しく釣りをできそうだと雅琵は笑顔で頷いたが、その笑顔からさっと目をそらした軍人の男。
きっと簡単にワームに食われて終わると思われているんだろうなと心で思うが沈黙を選んで、行ってくるねー! と元気よく雅琵とヴォルは船を飛び降りた。
空中に結界を少しずらしながら幾つも作って、高く高く落ちたら無事ではすまないくらい高く登ったところで、雅琵は四次元倉庫から魔道具である『無量の釣りざお』に液体の入った玉を括り付けると側に翼を出して飛んでいるヴォルに当たらないようにそれを地面へと投げた。
「なんだ、それは」
「『無量の釣りざお』。この間偶然できたんだ、餌に食いついたものの体重を無くす魔道具」
「……相変わらず変なものばかり」
「おっと、かかった!」
べしゃり、と餌が潰れた。液体は血の匂いに似ていて、それをめがけてワームが一体飛び出してきた。それを思いっきり釣り上げる雅琵は、ヴォルに。
「息吹よろしくー」
「はぁ……わかった」
ごぉうと一息で炭になった巨大ワーム。
雅琵は釣りに飽きたのか、魔道具をしまうと、結界から飛び降りる。船の方から巨大ワームが見えたときと同じ悲鳴が聞こえた気がしたが無視である。
風の力を借りて優雅に着地しながら、雅琵はヴォルに向かってぱちんと指を鳴らした。
そうすると、ヴォルを背後から無音で飲み込もうとしていた巨大ワームが一瞬で氷像に変わり、ヴォルが殴ることで巨大ワームごと氷像を砕く。
二体の巨大ワーム、討伐完了。目撃証言ではあと一体だが間違いなく増えているだろうワームを、どうやって引きずりだすか。
「どうする?」
「こーする!」
ぱちん
その音とともに海ぎりぎりまで巨大な碧色の魔法陣が敷かれ島が揺れだす。
余波で揺れる船にいる軍人たちは、天変地異かと震え、国を守るため死の行軍を言い渡された日、迫った死期が近づいたのかと頭を抱える中。
島を見た軍人の一人は言葉もなく膝から崩れ落ちた。
そこにあったのは地獄だった。もはや数えるのも馬鹿らしいほどの数の巨大ワームたちが、まだ幼い少女と男に群がっている光景だったからである。
あぁ、やはり止めればよかった。自分可愛さに、もしかしたら討伐出来るかもしれないなんて思わず、命を大事に危なかったら戻ってきてくれと言うべきだった。若い命の芽を摘んでしまったのだ、と絶望しかけた時。
地面の揺れが収まると同時になくなった魔法陣の代わりのように、数多の碧色の魔力に彩られた魔法陣が、空いっぱいに現れ。
雷、炎、氷、砂でもなんでもいい、全て降れとばかりに巨大ワームたちを跡形もなく吹き飛ばしていた。これぞ本当の天変地異に等しい行為である。




