幼女魔法講師は『バイト』を買って来る
「ヴォルー! 『バイト』!!」
「俺は『バイト』ではないが」
「もー、屁理屈こねるなよーぅ。面白そうなのあったから受けてきちゃった!」
「また勝手に。お前は少し協調性……を持ったら気色が悪いな、すまん」
「心底申し訳なさそうにするなよ、腹立つ」
『ドアの壁紙』の中、広々とした庭でシャトレーヌがヒイロベリーや膨れいちごなどのベリー類に、ピンクのじょうろで水をやっているのを見ながら、そんなやり取りをする。
この庭は『ドアの壁紙』の中の家具や道具や水、電気といったものと同じく全て雅琵の魔力からできているため、水やりなど必要ない。
だが、シャトレーヌが手持ち無沙汰にしているのを見て雅琵が提案した次第である。
「それで、討伐対象は?」
「ワームだって」
「数は?」
「大型が三体確認されてるんだけど、それって半年前の情報らしいんだよね。くまっちも頑張ってくれたんだけど半年前以降依頼受けたひとがいないみたいでー、情報がないんだって」
「魔物の、しかもワームなら繁殖している可能性が高いな」
「そうそう。島国なんだけど、なんとか一つの島に追いやって海で閉ざしたんだけど、近くまた道ができちゃうらしくって」
「早く討伐したい、しなくては国に牙を向く、と」
「いえーす!」
雅琵がサムズアップすると、大狼から人の姿になったヴォルが嫌そうに眉をひそめる。
そんなヴォルを無視して、報酬なんだけどと雅琵は口を開く。
「なんと! その島国にしか生えてない希少果実の木の苗らしくってさー! ボク食べたい! ブリリアントオレンジ!」
「随分輝いた名前だな」
「でしょ!? 超気になる! ってことで受けてきたから明日の午後から討伐だよ」
「急だな」
「善は急げってね。……っていうのは冗談で、道が出来るのが明々後日なんだって」
「なるほど」
国を一つ救うのだから、正しく善は急げだ。
頷きながら、ヴォルは雅琵を見る。雅琵が眩しいものを見るようにシャトレーヌを見ているのを見て、自分が食べたいというよりもシャトレーヌに食べさせてやりたいのか、と納得した。
妙に猫可愛がりしている節があるから。
ふと、国一つ救うほどの依頼ならば注目を浴びるのでは? と考える。
今までの依頼は討伐者のいないいわゆる塩漬け依頼であったから誤魔化せてきたが、こんなに派手なものを受けたらいよいよバレるのではないか? 思ったが、バレたところで問題はないし、そもそも雅琵は『主人公』なのである。本人がどれだけ否定しようとも、その生き様を読まれた分だけ補正が強くなる。きっと思い当たらないように思考を補正されたに違いない。
主張すべきかどうか、一瞬悩んだが、相談もせずに受けてきてしまったのが本人なのだから自業自得、と割り切る他ないなと思考を止めた。
「出発は朝ごはん食べてからね!」
「チーズの入ったスクランブルエッグがいい」
「夕飯まだ食べてないのに朝飯の話かよ」
あはは、雅琵が無邪気に笑ってるなら、それでいいとヴォルは思った。




