幼女魔法講師は詠唱の説明をしている
「……〈浄化〉の呪文、『其は月の調べ、静寂を跨ぎ、寄り添うものなり』これはわかるね?」
「一年生で初期に習うやつですね」
「え、オレまだ習ってないっす!」
「多分これからじゃないー?」
「楽しそうなのは何よりだけど、これが三詠唱なんだ。ほら、『其は月の調べ』『静寂を跨ぎ』『寄り添うものなり』って三つに分かれてるだろ?」
「ソラユキ師よ、それでは他の呪文もそうではないかね?」
「その通りだよ、シャミャン・ロア・フルー。本来の呪文はもっと長かったんだ。それを、一番詠唱しやすく効果の出やすく改良したのがいまの形。長すぎて時間稼ぎも容易じゃないってことでね、改良されたんだ。ちなみに、なぜ効果が出やすいのかわかる?」
「なんか聞いたことある! 三が特別な数字だからだよな!?」
「正解だ、ヴァネッサ・ルリ・ロズイェルズ。『三』は魔術・魔法において祝福された数字なんだ。ようは縁起のいい数字、って思われがちなんだけど意味がある。世界が最短で認識できる数字が三なんだ。だから詠唱は三詠唱のほうが無詠唱より、僅かにだけど効果が高いことがわかってる」
ぽかんとした顔をするヴァネッサは、そこまで考えて発言したわけではないことがわかる。
周りを見れば、後ろの席の講師陣も似たような顔がちらほらなため、あまり周知されていなかったことが知れた。縁起のいい数字、とはわかっていてもその理由までは考えなかったのだろう。口から思いっきりため息をはきたい衝動にかられたが、耐える。
「さて、それで無詠唱だよ。メリットは時間稼ぎがいらないこと、デメリットは魔力が尽きやすい、その結果倒れて無防備になる、魔術の威力が弱い。メリットとデメリット、両者を考えて、ボクは無詠唱の意味がわからないとするよ」
「な、なんの魔術使ってくるかわからないってのもあるんじゃないー?」
「ユリウネラ・ドールチェイス、残念なことにね。相手がなんの魔術を使ってくるのか、判るすべは沢山あるんだ。例えば魔道具、例えば魔術、例えば魔眼。その他にもある。そして、実戦に持ち込んでくるやつは大抵この手の魔道具を所持している」
歯とか眼鏡に仕込んだり、あとピアスとか、変わりどころだとタトゥーにして彫ってたりする。
そう告げると、各所からうめき声がして。無詠唱に夢を見ていたのだろうなぁと考え、苦笑いが出た。
いいとこないじゃんー……とテーブルに顔を伏せたユリウネラに、そうなんだよな、と納得するしかない。




