【閑話】幼女魔法講師は教えた(超不本意)
「み、みやびさま……けいしょくって」
「ボクたちにとって軽食ってサンドイッチとかだけど」
「この世界ではこれが普通だ、シャトレーヌ」
「そ、そんな……」
背後に雷を降らせたシャトレーヌは、ふるふる震えながら、それでもハーフバケットを持ち、ちぎっ……ちぎっ……ちぎれない。むしろつるつるして掴めない。
せめて、焼いた表面にひびを入れられないかと、試しにスプーンで叩いてみたが、かきーんと妙に小気味いい音がして終わった。どうあがいても食べられない。
あまりのパンの硬さに絶望したシャトレーヌだったが、スープのことを思い出す。
スープは液体だ。例え、紫と黒と緑が絶妙に混ざり合っていようとも、ごぽぉと時折音がなろうとも、目があおうと……目があおうとも???
「きゅ」
「シャトレーヌ!」
「だから言ったじゃん! まだ早いってー!!」
スープと目があったことに、シャトレーヌは締められたうさぎのような声を出して気絶した。
ヴォルがあわてて支えたからいいものの、そのままだったら床に倒れ込むところだ。
雅琵は悲鳴のように叫びながら、スープの化物にパンをぶち込んで黙らせた。
この世界のパンはスープに浸して二十分以上してようやく食べられるものなのである。
でもこのスープはまだ三色だけだし、ごぽごぽいってるだけでマシな方だ。味は知らんけど。
かと言って、注文した以上残すのは許されない。
「ヴォル、ヴォルはスープ担当ね。連れてくるって言ったのヴォルなんだから」
「……わかった」
「ボクはパン食べるから全部よこして」
「……あぁ」
三本のハーフバケットを無詠唱の魔法で湿らし、いや、湿らせたというよりもべちゃべちゃにし、小麦の味も何もない水を含みねっとりもっちゃりしたパンと呼びたくもないものを無心に咀嚼し、雅琵は食べ終えた。
ちなみにヴォルはスプーンではなく皿から一気飲みというマナー講師がいたら大目玉どころではない食べ方をして、スープを片付けていた。
シャトレーヌが倒れてしまったため、ヴォルがおんぶをしながら、ぽつりと呟いた。
「雅琵」
「なに? もうシャトレーヌ外食連れてかないけど」
「それはわかっている。一回で充分だ」
「ならなに?」
「あのスープを飲んだら、状態異常無効化らしきものを手に入れた……」
「……」
思わず無言になった雅琵は悪くないと思う。耐性じゃなくて無効化かよ、と少し突っ込みたかったが、あのスープじゃな。遠い目をして雅琵たちは【ドアの壁紙】の中に帰って行ったのであった。




