【閑話】幼女魔法講師は教えた(不本意)
「雅琵、相談がある」
「ヴォルが? 珍しいじゃん、シャトレーヌのこと?」
「あぁ。……そろそろ一回外食させたほうがいいのではと思ってな」
「正気か??」
土曜の朝、ヴォルと雅琵は軽く喧嘩になった。
「この世界のマズメシ食わせようって……ちょっと非道がすぎるんじゃない? まだ引き取って少ししか経ってないんだよ?」
「だからだ。俺やお前の手作りの食事がこの世界の基準と思っていては困るだろう。一回食堂でもなんでも行かせて、本当の基準を知ったほうがいい」
「……一理あるけど、今までほとんど食事したことがないんだよ? 美味しいものいっぱい食べてからでいいだろ」
「お前はあの子を一生面倒見る気などないだろう、だったら早めに現実を知るのも」
「だから今じゃなくてもいいだろって!」
「あの……みやびさま? ヴォルファレルさま?」
シャトレーヌが、書斎の扉を少し開けて覗き込んでいた。口論が白熱するばかりにノックを聞き逃してしまったらしい。
おろおろと泣きそう顔で、「シャトレーヌ、なにかいけないことをしましたか?」と問いかけてくるシャトレーヌに、雅琵は。
「ヴォルが、一回、食堂に行ってみないかって」
とりあえず、めちゃくちゃ渋々苦い声で言葉を紡ぐ。
もちろんシャトレーヌの顔は見れなかった。
シャトレーヌは目をぱちぱちと瞬かせて、顔を明るくする。
「シャトレーヌ、いってみたいです! あ……でもげんじゅうじんぞくはいますか? シャトレーヌ、げんじゅうじんぞく、きらいです……」
「ボクもここの食堂行ったことないからわかんないけどうじゃうじゃいるかも!」
「えっ!」
「そんなわけないだろう、幻獣人属はただでさえ希少種族だ。この学校に入れる年齢のものがいるのも珍しいだろう」
「そうなんですか? じゃあいきたいです!」
「ぐぬぅ……じゃあ一応この髪留めして行こうか。ボクが作った認識齟齬の魔道具だよ」
「ありがとうございます、みやびさま!」
嬉しそうに輝く笑顔が曇ることだろうなと知っている身としては、お礼はいらないから「行かない」って言ってくれないかな、と願った。
さて、やってきた食堂はまだ始まったばかりで。生徒が一人二人いるだけだった。朝ごはんを食いっぱぐれなければ十時を少し過ぎた頃に来る生徒は中々いないだろう。
注文を聞きに来たウェイターに、「スープと軽食を三人分」と伝えると下がっていった。
ここは食事の種類は三種類だと入り口の黒板に書いてあった。
曰く、「軽食」、「コース」、「スープ」である。実質二択じゃねぇか、と雅琵は思ったし、人型になったヴォルは顔をしかめている。
ただ一人、シャトレーヌだけはわくわくしているようで、フードの下で笑顔のままだ。
それも、スープと軽食が運ばれてきた途端固まったが。
ウェイターはそれぞれの前に「スープです」と置いていくそれは、紫と黒と緑が妙に混じり合い、時々溶岩のようにごぽぉ……と音を立てている。ここから化物が産まれても不思議に思わない。
この時点でヴォルは目を隠して俯いたし、雅琵は目をそらした。シャトレーヌは固まっている。
ウェイターが「軽食です」とそれぞれの前に置いたのは、切ってもいないハーフのバゲット一本のみ。さっさと去っていくウェイターとパンを交互に見ながら、シャトレーヌはえっ、えっと言っていた。




