幼女魔法講師は遭遇する
「ヴォルー、ボクちょっと購買行ってくる」
「購買?」
「新しい本が届いたから取りに行くだけだよ」
「わかった、着いていく」
「そんな重いものじゃないん……いや、数があるか。シャトレーヌ、お留守番頼んでもいい?」
「はい! みやびさま、シャトレーヌにおまかせください!」
水曜日、十時のおやつに小さなパンケーキを食べていたシャトレーヌに言うと、メープルシロップでべたべたになった口元のまま胸を張る。
苦笑しながら雅琵がティッシュで拭うと、えへへと恥ずかしいのに嬉しそうな笑みが返ってきた。
行ってくるねとシャトレーヌの頭を撫でて、【ドアの壁紙】からヴォルと出てきたのが約三十分前。
ーー僕は間違っていない! だから黙って従っていればいいんだ!ーー
「あれまー」
「ホロウオーバーしかけているが、良いのか?」
「いや、いいわけないけど……状況見えないんだよなぁ、ま、止めなきゃなんだけど」
購買店に行く途中。
聞こえた、血を吐くような叫び。
暗雲が空を覆い、地面が吹き荒れる制御出来ていない魔力によって剥がれ、その中心でどろどろりと黒い液体の淀みが杖の晶石から溢れ、持ち主であるーーアリリア・ツェルンを呑み込む。
制御出来ていない魔力は、轟々と追い風になる。呑み込まれた瞬間に制服ごと黒く染まったアリリアは、黒と混ざりあった金の目、肌まで黒に侵食されながら何事かを呟き、唇を吊り上げる。
「そうだ、僕が、ぼくガ正しいのダカら。みな僕に従ウべきなんダ。それが間違っテイナいコと。ダカラ……従エ!!」
ぼたぼたと黒い淀みを地面に落としながら、目から涙のように黒い液体をこぼして、アリリアは叫ぶ。
それと同時に黒い糸がアリリアに向かい合っていたヴィライアとユリウネラ、その場にいたドライフォルカラーの監督生二人に蜘蛛の糸の如く勢いよく吹きかかる。
それをヴィライアが持っていた杖で焔で燃やして、とめる。
「アリリア! もうやめよう、これ以上は!」
「そうだよー! これ以上はアリリアたんの命が!」
「うるサイうルサいウルサイ!!」
「アリリア!」
「従エ!!」
「ホロウオーバーは生命力を削るし、疲れるから。そろそろやめようね。〈あおき瞳の対価を示せ〉」
「あ……うぁぁぁぁぁぁぁ!!」
また、黒い糸が伸びる前に、雅琵はアリリアとヴィライアたちの前に割って入り、万能呪文を使った。効果は〈浄化〉である。
それと同時に、悲鳴をあげたアリリア。消し飛んで…浄化されていく黒い液体の淀み、それを求めるようにアリリアの手が宙をもがく。
追い風がやみ、空が晴れると同時に、アリリアが雅琵に向かって倒れ込んできた。
『一言でいい、頑張ったねって。言ってほしかったんだ』
そんな声と共に、瞬きをした雅琵の視界が変わる。どこかもわからないくらい場所に、アリリアと二人で立っていた。
雅琵の後ろを見るアリリアに、振り向けば古い映写機があって、その先に小さい頃のアリリアが映し出されていた。




