幼女魔法講師は嫌な予感がする
「みやびさま、コーヒーのおかわりはいかがですか?」
「……シャトレーヌも休んでていいんだよ?」
「いえ! シャトレーヌが、みやびさまによろこんでいただきたいのです!」
「それなら、貰おうかな。ありがとう」
「はい!!」
新橋色の髪をぴょんぴょん跳ねさせたショートカットの雅琵と同じくらい幼い少女は、黒い十字を抱く焦げ茶色の瞳を輝かせて、足取り軽く部屋を出ていった。
コーヒーのお代わりを持ってくるつもりなのだろう。
出来るかなぁ、と思った雅琵だったが、リビングにはヴォルもいるし、なにかあったら手伝うだろうと決め込み。また書斎の書架の中身を資料探しのためにひっくり返した。
「みやびさま、コーヒーのおかわりもってきましたよ。あと、ヴォルファレルさまがわっふる? をつけてくれました! あまくておいしいですよ」
「マジで? 持って来てくれてありがと。シャトレーヌ、ワッフル食べた? 半分こする?」
「ふふふ、シャトレーヌは、にこもたべました! おなかいっぱいです」
「そっか、じゃあボクは休憩にするね」
「シャトレーヌはおにわでももさんをとってきます。まじゅつでどらいふるーつ、つくります!」
みやびさまにたべてもらいたいです! と小さく拳を握るシャトレーヌに、雅琵は、いや、休んでなよと思ったがやりたいならやりたいようにやらせるのも教育か、と思い口をつぐむ。
その代わり、楽しみにしてるねの言葉とヴォルを連れて行くことを条件としてシャトレーヌを送り出した。ヴォルがいれば危ないことにはならないだろうと信じて。
シャトレーヌの甘やかな幼い声が去った部屋で、雅琵は一人激甘ワッフルを齧りながらこれまたコーヒーの香りだけはある激甘な液体を飲んでいた。
これをコーヒーと呼んではいけない、コーヒーに対する冒涜である。
そしてヴォルは嫌がらせのためにこんなことをしたわけではない。雅琵は、研究中はガムシロップを直で一リットル飲むほど甘いものを取らなければ、やってられないからだ。
最後の一欠片を口に入れ、激甘なコーヒーもどきで飲み込むと、ふと、コーヒーカップの底に豆のカスが残っているのが見えた。本来挽いた豆なら浮かぶはずなのに底に残るとは……。
「なぁんか、嫌な予感がする……」
占い学の中にコーヒーや紅茶の茶葉で占うものもあったせいか、妙に意識してしまうのが腹立たしい。
なぜ占い学なんて学んでしまったのか、いまさら後悔しても遅いことである。あの頃は、雅琵が通っていた魔術の学校では必修科目だったからとしか言えないが。
あの頃を思い出し、顔が忌々しく歪むのが水面に映る。
「『主人公補正』で関わらないといいな……」
ぽつりとこぼしたその言葉は。かつて『主人公』だった、悪を打ち倒す英雄になることを拒んだ少女が、無意識にもらした本音だった。
それでも、運命が勝手にシナリオに関与させ、彼女をヒーローにしようとするのだけれど。




