幼女魔法講師は黄金の一滴を作っている
「ふんふふーん」
ループする騒音であり害音の中。
ご機嫌にガラスの鍋をこれまたガラスの棒で底をつくようにしながらかき混ぜている雅琵。その非対称のツインテールが頭の動きに合わせてゆらゆら揺れる。
「シナの木の朝露を沸騰する直前で止めて、刻んだ爆裂いちごのヘタ、砕いたヤグルマエビギクの殻、すり潰した森蝙蝠の子どもの牙をいれるー」
「……爆裂いちごのヘタはどの程度刻むので?」
「ん? てきとー」
「てき……とう……何故……」
「ここらへんはあんま重要じゃないから?」
「そもそもシナの木の朝露はあんなに必要なのか?」
「一本の木から当日取れた一滴を集める必要があるから中々手に入りづらいけど、液体としてのベースになるからね」
「一本の木から一滴だと!?」
エヌ・フレイルはもう発狂しそうである。
作りたいと思っていた魔法薬が。材料一つで国家予算の半分並み、更には作る際には頭のおかしくなりそうな害音……ガラスを引っ掻いた音のほうがまだマシだと思えるような音が必要で、やり方は適当で。
長年の夢が目の前にあるといえばいいが、自分ではけして作れないと突きつけられ、ある意味一番哀れなのはエヌ・フレイルだ。
「さて、準備は整った。……気分あげてこーぜ野郎ども!」
「あげられるか!」「こんな害音の中で!」「音消せ!」「もうやだよぉ……」「泣くなって」
「こんな根性のない奴らばかりでボクは悲しい。まぁいいや……ファイヤァァァ!!」
雅琵がいわゆるスイッチの役割を果たす魔法陣の上に指を乗せると、鍋の下からごぉううと凄まじい音がして、鍋ががたがたと大きく揺れる。
すわ制御不足かと思いきや。
「こっからスピード勝負だから! 虹猫のひげ丸ごと、不死鳥の涙、ドラゴンの被膜は熱通しやすいように隠し包丁いれてね! 最後に花びらをぶち込んで火力をさらに上げる! ついでに音量も上げる!」
「正気か!?」
がたがた揺れる鍋の横から漏れた炎が天井をなめる。見れば巻物も焦げた跡があり、『これで廃棄だな』とエヌ・フレイルは現実逃避に半笑いで思うしかなかった。
音量の上がった害音と、火力を上げたことによって発生した水蒸気の、凄まじい悪臭で教室の中は阿鼻叫喚の地獄絵図であったが、それを気にせずに。
雅琵はきっかり一分四十三秒鍋をかき混ぜると、魔法陣の上から手を離して火を消す。
ガラスの鍋の中に残ったのは、片手のひら分くらいの量しかない黄金色に輝くとろみのある液体。
「で、これが『黄金の一滴』ね、……あれ?」
「そうか……そうか……そうか……」
「ヴォル、この人壊れた」
「主にじゃなくてもお前のせいだが」
「魔法薬作っただけじゃん」
死屍累々。ぐったりした生徒たちと、壊れたように「そうか……」を繰り返すエヌ・フレイルに首を傾げる雅琵だった。
ちなみに作った黄金の一滴は鍋ごと蓋して雅琵の腰についている四次元倉庫の中である。
こうして雅琵とヴォルは魔法薬学を出禁になったし、その日に予定していた他の授業の見学も取り消しになったのだ。
「この学校の奴ら根性なし多くてボクは悲しいよ、ヴォル」
「そうか……(あちらはこんな問題児講師が来て悲しいと思っているだろうな)」
「ヴォル?」
「なんでもない」




