幼女魔法講師は引き摺り出される
最初の授業から一ヶ月、雅琵はストライキを決行していた。
「あー、バカの相手しなくていいのすっごい楽」
「……流石にストライキ長すぎないか?」
「いいんだよ、これで辞めてくれって言われたら願っ足りかなったりだー!」
「足をばたつかせるな……誰か来たようだぞ」
火の魔石を使った魔道具、温かいカーペットの上で雅琵のソファーになっていたヴォルは、伏せていた耳をぴくりと動かして言った。
雅琵はのそのそと読んでいた本を閉じ、玄関に目線をやったと同時に。
ポーン
ピアノの白鍵盤を押したような音が響く。外側の雅琵の部屋に誰かが入ってきた合図だ。一応乙女である雅琵の部屋に勝手に入るのはルール違反ではないのか、悩むところだ。
実は、今雅琵たちがいるのは【ドアの壁紙】という魔道具の中だったりする。壁に貼り付けると登録者に反応して、本物の扉となり中が部屋になっているのだ。その部屋も複数作ったりと色々魔力を使えば改造できる優れっぷり。造った雅琵も惚れ惚れする快適さである。いまは教員用の部屋の中に魔道具で部屋を作っている状態だ。
それはさておき。
「いくかー」
「ようやくやる気になったか?」
「まさか。魔法をわからないくせにわかったつもりになってるやつが一番嫌いだ。とりあえず外に出て、決闘だろうが辞職だろうがしてくるー」
鼻で嗤いながら、雅琵は玄関の扉を開けた。
隣をついてくる相棒は赤い目を細めて雅琵を見ていたが。
がちゃ
「で、魔術と魔法の違いくらいわかったー?」
「わっ! え!? どうなってるんですかそれ!」
「ってなんだ、理事長か」
「なんだとはご挨拶ですね、こっちは貴殿が授業をボイコットするから「ストライキでーす」同じですよ! とにかく、これからひと授業して下さい!」
「面倒くさ……せめて魔術と魔法の違いをわかってからにして欲しい」
つい本音が漏れかけた雅琵に、ヴォルと理事長が半目になる。
「それを教えるのも貴殿の役割ですよ! ほら、今回は先生方と各寮の寮長だけですから」
「えー……はぁ、ヴォルどうする?」
「行くぞ」
「ヴォルは仕事が好きだねぇ」
「流石に一ヶ月も遊んだんだ、充分だろう」
「……それもそっかぁ。あー、やるかー!」
ぐーっと伸びをして、雅琵は身体を伸ばすとヴォルの上にまたがった。
どうやらこれで移動するらしい。
「では、行きましょうか」
理事長はマントを翻し、教師や監督生がいる教室を目指し、足を動かす。ヴォルはその後をゆったりとした威厳すら感じる動きで、ついていったのだった。