幼女魔法講師は魔法薬学を受ける
「野暮ったい魔術陣だな……」
「なに?」
後ろから低い声が聞こえて振り向くと、エヌ・フレイルが立っていた。
生徒の見回りをしている時にこちらに来て偶々雅琵の呟きが聞こえてしまったらしい。
眉をひそめていることから、聞こえた内容が気に食わないらしい。
しかし、そんなことは一切気にせず、雅琵は続ける。
「この、『陣の上にしか炎を出さない』……つまり『炎を閉じ込める』魔術陣をもう少し細く小さく書けば火力は上がるし、『一定に保つ』をちょっと大きくすればもっと火力が上がっても安定するだろうし、ここの風で『一定方向に炎を噴出する』なんかは『炎を閉じ込める』魔術陣に最初から指定しとけばいらないと思う。そもそも『炎を灯す』魔術陣が大きすぎ。燃費悪くない? 魔力の消耗激しすぎて巻物に込められた魔力だと半年に一回くらい変えなきゃいけないと思うんだけど」
「……」
「高火力で抽出しなきゃいけない魔法薬とかもあるからね」
「……ほぅ、例えば?」
「黄金の一滴、とか?」
「!!」
エヌ・フレイルの目が見開かれる。
それもそうだろう、黄金の一滴とは作るのが非常に難易度が高いとされている魔法薬である。
魔法使いの一人であるデュラエル・マッサガンの治める国の国立図書館の中でもさらに奥、禁書庫と言われるところにあるレシピだ。
日の目どころか月の目さえ浴びない場所に隠されているレシピの内容を何故知っているのか、というのは愚問だろう。
色々な文献を読み漁り、デュラエル・マッサガンの出す論文を貪るように読み込み、エヌ・フレイルが最も作ってみたい魔法薬であるそれのレシピを知っている。ならば教えてもらうことも……。
そう考えたことが顔に出たのか、雅琵から断りの言葉が飛び出した。
「あ、ごめん。デュラデュラと約束してるから教えることはできないんだけど」
「くっ!」
「できないんだけど、ボクは作っていいって言われてるんだよね」
「!!」
「まっさらな巻物くれたら、お礼に作ってみるけど」
「すぐに持ってこよう!」
お礼に、の部分で踵を返し、白衣を翻しながらさっそうと隣の魔法薬学準備室に入ってしまうエヌ・フレイルに、生徒たちは困惑しきりである。
「エヌ先が壊れた」「俺たち放置かよ」「爆発したらどうすんの?」「安心しろ、骨は拾ってやるよ。爆発からは逃げるけど」「そもそも黄金の一滴って何??」
好き勝手言いながらも魔法薬を作る手を止めないところに、好感がもてる。
「あー、黄金の一滴っていうのはねー。『疑似不老不死薬』っていえばわかる? 一滴で十年くらい寿命を伸ばして、身体は黄金期に戻り、どんな欠損、病気もたちまち元通り、生まれながらのものでも治ってしまう。まさに一滴で黄金以上の価値がある魔法薬」
「持ってきたぞ!」
エヌ・フレイルがばたんと扉を勢いよく開けて、片腕いっぱいの巻物を持ち現れたのだった。




