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幼女魔法講師は『バイト』している

「あは」


 ひどく、甘い声だった。蜂蜜に砂糖を溶かし、チョコレートを混ぜこれでもかとシロップを継ぎ足したような。ぐちゃぐちゃに甘い声。

 幼い少女の声で紡がれたその言葉は、生憎ワイバーンには意味がわからなかった。しかし、幼い子どもの肉が柔らかいと知ってしまっているワイバーンたちが、俯いた幼女を食い破らんと空から近づこうとした瞬間。


 一瞬のうち、太陽が陰った。


 同時に幼女が顔を上げる。ぶわりと風が吹いて、左右非対称のツインテールがなびき、前髪が上がり顔が露わになる。

 その顔は歓喜と愉悦と狂喜に染まっていた。にんまりと弧を描く口元、見開いた碧の目に宿る幾々つもの魔法陣。

 その時に初めて、ワイバーンは狩る側であった自分たちとは対極と言ってもいい、狩られる側の気持ちを理解した。実際はただ怯えただけに過ぎないが。気持ち、考え。そんなものが理解できるほど、ワイバーンは賢くない。

 何十といたワイバーンのうちの一頭が背後に気づく。

 太陽を陰らせた正体が途方もない数の魔法陣であることに。

 声を上げるはずだった、それすら、意味はなく。


「さようなら」


 ぱちん。

 ワイバーンが最期に聞いたのはその細い指を打ち鳴らす音だった。

 そうして、魔法陣から出てきた透明な氷の槍に穿かれ、全てのワイバーンが即死したのだった。



「いま使うと勝負に負けるぞ?」

「えー、羽虫にストック全部使うわけないじゃん。いまので一割減らしただけだよぅ」

「……そうか」

「っていうかヴォルずるー! 本拠地叩いてんじゃん」

「誰かが遊んでるからな」

「ムカつくー!」


 ぎゃいのぎゃいの言い合いながら、雅琵は腰元の四次元倉庫(マジックバッグ)に全ての絶命したワイバーンを収め、自らも本拠地に足を進めたのだった。


 ヴォルはヴォルで雅琵の要望の素材を集めるため、いつもなら息吹(ブレス)で丸焼きにして終わりのところを、わざわざ慣れない雷を心臓に一発落としてワイバーンたちを倒していた。

 雅琵は雅琵でまさしくアイスピックのような鋭い氷を、天空に展開させた魔法陣から放ち心臓を一突き。

 殺戮につぐ殺戮、蹂躙よりも恐ろしい一方的な虐殺は、この岩山のワイバーンがいなくなるまで続けられたのだった。

 勝負は範囲魔法を使った雅琵に利があり、慣れない雷を使っていたヴォルは残念ながら負けてしまったのは仕方のないことだろう。最後まで探索して、生き残りがいないかを探し、卵があれば潰し。

 欲しい素材分のワイバーンを四次元倉庫(マジックバッグ)に入れ、他は放置して岩山を降りてきた。


 その様子を魔鏡を使い見ていた軍服の男は唖然としていた。しかし、そんなことよりしなければならないことがあるだろうと己を叱咤して、楽しそうに話しながら岩山を降りてきた雅琵たちに駆け寄り、膝をついた。


「あ、討伐終わったよ」

「あ、あ……あぁ。ありがとう……ありがとう!!」


 涙とともにこぼされるお礼の言葉と、手を掴まれ上下に振られることに若干引きつりつつも。

 雅琵はヴォルと顔を見合わせた後、こくりと頷いたのだった。

 しばらくして、軍部に討伐完了の知らせをするという男と分かれるときに、雅琵はふと思い出して口を開いた。


「ここ、オーロラが綺麗だって聞いたんだけど。どこで見れるかな?」

「南灯台にて条件下揃えば見られます、ではお気をつけて!」


 それでは! と去っていく背中にこちらも背中を向けて、「まず南灯台ってどこ?」とヴォルと話し合いながら、雅琵は地図を広げたのだった。





「気は晴れたか」

「正直物足りないけど、これ以上は足つくしいいや。……うーん、ストレス溜まってたー!」

「ワイバーンでストレス発散とは、中々剛毅なことだな」


 伸びをして笑いかけてくる雅琵を、ヴォルはどこか眩しいものでも見るように目を細めた。

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