幼女魔法講師は『バイト』する
「あなた達が依頼を受けて下さった方々ですか……?」
困惑と絶望に入り混じった声を出す、軍服にマントを羽織った人間の男。まぁそりゃそうだろうな、と雅琵は軽く頷く。了承の意味も込めて。
それに対して、あぁ……思わず溢れてしまった失意のため息に、男は気づいていなかった。
それはワイバーンという災害の死地に幼い少女と青年を送り込まねばならないことと、またもや依頼は失敗か、という思いから吐き出されたものだった。
いままで挑んだどれだけ屈強な男も、魔術師も皆遺体となって帰ってきた。どれだけ「命を優先して」と言っても、最悪ワイバーンに丸呑みにされて戻ってこなかった者も多い。
近隣の村や町を蹂躙し尽くしたワイバーンたちは、その数をさらに増やし今度は首都周辺にすら影を見かける始末。早く討伐しなければいけない、自分たちの力不足なのはわかっているが、それでも。
「命を、命を何よりも優先して下さい。ワイバーンは縄張り意識が強いので、一度入ると引き返せません。だからどうか、戻るときは縄張りに入る前でお願いします」
「はーい」
「わかった」
軍服の男の背後にある岩が剥き出しの山から、ぎゃあぎゃあと騒がしく鳴く声がする。
それをちらりと見てから、元気よく返事をする雅琵に、痛ましい顔をしてから男は絞り出すように。
「討伐、宜しくお願い致します」
それが開始の合図だった。
「ねー、ヴォルー」
「なんだ」
「競争しようよ、どっちが多くあの羽トカゲ狩れるか」
「構わん」
雅琵たちはひっそりと岩山を登っている……はずもなく。まるでピクニックにでも来たかのように軽快に足を進めながら、話し合っていた。
当然そんなことをすればより早く敵に、ワイバーンに気づかれるわけで。
空を羽音で切り裂く発達した翼、鱗に覆われた顔は人間の味を覚えているのか、醜悪に牙を覗かせている。退化した手足は小さく、揺らめく尾には沢山の棘が生えている。そんな化物が空から何十と現れ、雅琵は首を傾げる。
「あれ? 依頼書より多くない?」
「斥候として放った数がこれなら百の倍はいるとみて良いな」
「えぐぅー。あ、素材はちゃんと確保してね!」
「……翼の被膜、目玉、血、爪だったか」
「尻尾の棘も少し欲しいな」
「……わかった」
はぁ、割と強欲に素材を求めてくる雅琵に、ヴォルが一つため息をついたのと同時に。
ワイバーンたちが一斉に牙とよだれを剥き出しに下降してきたのだった。




