【閑話】幼女魔法講師は迫っていた
「さぁ、選ばせてやる」
「ひ、ひぃぃぃ」
「一日中丸坊主になって、それを隠せなくなる呪いか。角という角に足の小指をぶつける呪いか。二択に一つだ」
「なんて地味な嫌がらせの呪い!」
理事長室でのことである。
叫んだ理事長を無機質な目で見るのは雅琵、呆れたような赤い瞳を眇めたのはヴォルだった。
確かに地味に嫌な呪いである。
しかしこれは雅琵の優しさでもあった。本当は一日中カエルを吐き続ける呪いとか、利き手が動かなくなる呪いとか、喋れなくなる呪いとかを考えたのだが。
『学生のレベルが、魔法を学ぶに達していない』どころか『魔術すら無知に等しい』のだと誰が予想できただろうか。
それを考慮して、嫌がらせレベルの軽い呪いにしてやろうという優しさである。
普通は理事長を慮るところだが、力関係でいえば雅琵に利がある。正直言って講師などしなくても研究結果だけで食べていけるほどの論文を幾つも連ねている、にも関わらずなぜ講師を引き受けたかといえば、ただ単に魔法が好きだからである。
恋バナは興味ないが、魔法バナしてみたい! というある種可愛らしい願いから引き受けたが、結果は魔法どころか魔術に関しての説明をしている始末である。
悲しい。
成人男性である理事長を、〈拘束〉という魔法で逆さ吊りにして、その頬をぴたぴたと定規で撫でていてる、絵面があまりにも酷かった。
だからヴォルは助け舟を出すことにしたのだ。
「雅琵、二つ同時でもいいんじゃないか」
雅琵に。無邪気な願いをこれでもかと引き裂かれた、親友に。
理事長? 割とどうでもいい。ヴォルは雅琵の相棒なので。
「確かに!」
「最悪の発想!! 待って下さい! ……ぐっぅぅぅ、角、角にして下さい!」
「よしきた、任せろ」
「……丸坊主を選ぶかと思ったが」
「ハットを被れなくなるくらいなら拷問のほうがマシです!」
「拘りは人それぞれだから」
「なるほど」
理事長室から上がった悲鳴を、聞いたものはいなかった。




