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幼女魔法講師は攻撃する(魔法)

「ってことで。ヴォル、ちょっと人型になってくれる?」

「俺が的か、アップルパイ」

「砂糖少なめのバニラカスタード入りでシナモンとあんずジャムたっぷり」

「いいだろう」

「あともう少し離れたところに行って」

「注文が多いな、わかった」


 その大狼がくるりと振り返り一歩踏み出すと、そこには先ほどまでの大狼の姿はなく、見知らぬ()が立っていた。

 まるで、ずっとそこにいたかのように自然に。なんでもないように、窓近くまで移動して振り返り雅琵に向き合う。

 ふくらはぎを覆うほど長いコート、ベルトが幾重にも重なり口元を隠して右目も長い黒髪が隠している。白いハンカチで髪を縛っているが、それと対比するように垂れた左目は禍々しく赤い。

 ふわふわとした毛のマフラーを巻き付けており、両手は袖がコートの裾と同じくらい長いため見えない。

 だが、()()を人と思う者は、この教室にはいなかった。


 存在が重すぎる。

 いや、存在の格が違いすぎて、それが重圧となってのしかかってくる、と言えばいいのか。

 あまりにも遠すぎて、体が勝手に畏れを、恐れをなしてしまう。間違いなく、この存在は上位の存在で、下手をしなくても『神』であると。

 雅琵以外、食い入るように見つめる者たちしかいないのに、その身体は小さく震えていた。

 その様子を見た雅琵は軽い口調で言う。


「せっかくだから万能呪文とかみたいよね? ヴォルなら不足ないし、やるか!」

「……俺の承諾は要らんのか。構わんが」

「じゃあいくよー。〈あおき瞳の対価を示せ〉」


 雅琵が上に人差し指を向け、そう唱えると。槍よりも鋭くガラスより透明で、樹氷よりも大きい氷柱が一つ繊細な音を立てながら作られる。

 当たれば怪我どころでは済まない。部位によっては即死だろうそれを。指をくいっと曲げて、ヴォルと呼んだ存在へと放った。


 誰かがあげた、声にならない悲鳴は、結局声にならず消える。


 氷柱は、ヴォルに当たる手前で凄まじい勢いを保ったまま先から解けるように空中で分解されてしまったから。

 その光景を、教室の誰もが見ていて、言葉にならなかった。

 高鳴る、と表現すれば可愛いが、実際には破裂しそうなほどに拍動する心臓。震えが止まらない、息の仕方を忘れそうになるほど、衝撃的な光景だった。


 ヴォルがまた一歩踏み出すと今度は威圧ある存在から元の黒い大狼へと変わる。

 そうすることで、やっと呼吸することを思い出した人々は大きく息を漏らしたのだった。

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