はじまり
“「勇者は反逆者だ」”
“「そうだ。お前はその力をもって世界を再び混乱に陥れようとしている」”
“「勇者。長らく貴方様にお力添えをして参りましたが、これ以上は付き合いきれません」”
“「ねぇ、勇者。はやく、自殺してくれない? 世界の意思なんだし? ね? 貴方個人の意思でこれ以上、世界に迷惑をかけないでくれる?」”
”「これ以上迷惑をかけると言うのなら、力ずくにでもお前を葬り去るぞ。魔王との戦いで全力を出したことは知ってるんだからな」“
世界を救ってたった3ヶ月。
勇者は世界からの手のひら返しを受けていた。
「過ぎた力」に救われた世界。
だが、救われ平和になった世界は勇者を“反逆者”と罵倒した。
心優しい勇者。
彼が世界に手を出せないことをいいことに、口々に罵り挙げ句の果てには――
“「反逆者。お前は黙って離島に引きこもっておけ。平和な世界は俺たちがお前の代わりに謳歌してやるぜ」”
そんな言葉を嘲笑まじりに吐き捨て、アレンの目の前で使命を終え輝きを失った聖剣をへし折った。
勇者はそれでも。
人々が幸せになるのならと自分を押し殺し、“流罪”を受け入れた。
アレンを乗せた小舟。
それが港を出る時、皆、嫌らしい笑みを称えていた。
魔力で動く船。
その魔力を行きの分しか入れずに。
そして、勇者が離島に流地されて間も無く。
人々は世界から勇者の痕跡を抹消する為に、勇者に関する全てのモノを弾圧しこの世から消し去った。
故郷は焼かれ。
最後まで勇者を信じた聖乙女と、仲間たちは吊しあげられ。
魔王を失いその影響で力が弱まった魔物たちを残党狩りと称してなぶり殺しにしていった。
残った勇者を信じる者たちは、朽ちた魔王城に身を寄せ合い勇者の帰還を待った。
残った魔王の残党もまた勇者との再戦を望み、僅かに残った力で勇者を信じる者たちを受け入れた。
そして。
勇者は神のお告げで世界の様を知る。
夢の中で繰り広げられる蹂躙の光景。
涙を流し、最期の瞬間まで勇者を信じた聖乙女と仲間たちの変わり果てた姿。
衰えた力で人々を守る賢者の憔悴しきった表情。
ケタケタと笑いながら、魔物たちを虐殺する歪んだ者たち。
勇者は自らの優しさを悔いた。
自分の人々を信じる心が招いた最悪の結果。
アレンは神に願った。
世界を正す力を。
自分を変える力を。
その代償がなんであろうと払ってやる。
と、強く強く神へと誓いを立てた。
果たしてそのアレンの願いは――
“レベル操作”
によって叶えられることになった。
その力に目覚めたとき。
アレンの目に最初に映ったのは、あらゆるモノの上に浮かぶ“(レベル1)”という、文字だった。
“(レベル1)”
その文字の羅列の意味を、アレンは考えた。
レベル。
単語の意味はわからない。
しかし、唐突にそれが見えたところでアレンにはなにがどうなっているのかわからない。
そもそも、なぜレベルの概念があるのか。
アレンはそんな疑問を抱く。
しかし、なぜかアレンには確信があった。
理由はわからない。
だが、この“レベル”を操作できるという確信がアレンの胸のうちには芽生えていた。
近くにあった木。
それに手を触れ――
「レベルを100に」
地に手をつきながら、頭に浮かんだそのフレーズを呟いてしまう。
我ながらなにをやっているのだろう。
アレンは自分のその行動を恥ずかしく思う。
レベル100?
こんな木を100にしたところでなんの意味がある。
だが、そのアレンの憶測はすぐに打ち砕かれることとなった。
木がレベル100になりました。
木が輝き、ざわざわと揺れる。
息を飲む、アレン。
そして、アレンは見上げる。
眼前に聳える、大木。
木は世界樹へとその姿を変えたのであった。
木のあまりの変わりようを目の当たりにし、アレンは息を飲む。
この姿は。
かつて、聞いたことのある神話の伝説。
この世界にある全てのモノは神からの賜物。
その真の姿は長きに渡る時の呪縛により封印されているのだと。
(レベル1)
そんな概念に縛られ、世界に溶け込んだモノたち。
その概念を壊し。
神代の賜物の姿を解放することができる。
そう、このアレンに目覚めた力は――
この世界の根底を揺るがすほどの力。
世界を変える力。
神代からの世界の清算。
アレンはゆっくりと、立ち上がる。
その目に宿るは、枯れかけていた勇者としての灯火。
待っていろ、世界。
待っていてくれ、勇者を信じる者たち。
許してくれ聖乙女、故郷のみんな。仲間のみんな。
仇は必ず取る。取ってやる。
レベル操作。
その力は今、世界への宣戦布告を宣言したのであった。