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第二話:光輪、大きな手

”トキ”と書かれた木板は撤去されており、部屋には無数にある本と書類が残されている。これを全て撤去するのは流石に厳しい。


「考え直してくれないと手伝いません」ラッキーもこの調子で話を聞いてくれそうにもない。上司に頼む訳にもいかないし…いっそ燃やしてしまおうか?


一瞬、建物全体を覆う炎火を想像して、ブンブンと首を振る。


「やるしかないかぁ…」

肩の力を抜いて、私が走って残してきた足跡を消してゆく。そこに、私なんて居なかったかのように、完璧に。


へとへとになるまで手を動かして、ようやく部屋が綺麗に見える様になってきた。埃かぶったカーテンを力一杯引くと、陽の光が顔を出す。


誰かがやって来た。足音と床が軋む音が混ざっている。

「どうぞ」ラッキーでは無さそうだ。一体誰が…?

「はじめまして、ランプキッドです」

白い髭が胸の辺りまで伸びているドワーフだ。サンタクロースのように見えて、苦笑してしまう。


「私は主に、建物の設計を行う者です」

「えっ」腰を抜かした。

「新人で、この中央省の建物の設計を行い、その上国の名所でもある西塔の発案者にもなった、あの?」

「詳しいですね」

今度はドワーフが顔を崩した。


「トキさん、中央省を離れた後は地図埋めを行うらしいですね」

「…その話、どこで…?」

「何を、今この国で一番のビックニュースです。住民皆、トキさんの挑戦を応援していますよ」


嘘つけ。

心のどこかで皆、私を蔑んでいる。

そんなことは分かっている。

隠される方が気分が悪い。


「…それで、なんの用です?」

「製図法を簡単に教えましょう。古代の人間が行った地図埋めと同じ要領で行えば、正確な地図が描けますから」


整理した部屋を後にして、ランプキッドさんの背中を追って製図室まで向かった。




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古家には蛾が鱗粉を散らして飛び回っている。消えかかったランプの光の周りで、影がチラチラと動いている。


「これが製図台、そしてこれが図を記す紙です」

「あの」

中央省と比べ、ドワーフたちの職場は何とも貧乏臭い。

「普段はここでお仕事を?掃除用の執事を雇っては?」

「お言葉ですが、我々にはこのくらいが丁度良いんですよ。薄暗い部屋に埃被った床、蛾の一匹二匹居ないと落ち着かない」


そんなものか。私は少し恵まれていたのか。それでも、いいことづくしと言う訳では無かった。


「話を戻します。一つ伝えますと、製図台が無いと地図を描くのはかなり困難です。良ければこの台を持って行って下さい」


よいしょ、よいしょとドワーフ数人が台を持って来た。古びた床が悲鳴を上げている。かなりの重さなのだろう。


この台を…?持っていく?


言葉を失って、へなへなと体を揺らす。

「飼っているロバを使ってみては?」ドワーフたちはそう言った。

「ロバなんて、この辺りに居るんですか?」

「普通、ロバの一匹や二匹飼って…」

「無いです」

「そんなものですか?」

ドワーフは首を傾げている。

これが、種族の違い。これが、職業の違いか。

頭上の光輪を凹ませて、目を閉じる。

「そんなものです。有り難くその台は頂戴させてもらいます。じゃ、製図法を詳しくお願いします」




<>




「今日は…ありがとうございました…」

秘蔵品の万年筆と、想像を絶する重さの製図台を抱えて古家を出る。ドワーフたちはあんなに涼しい顔で運んでいたのに…お、おもい…。


「ちょっと」

サンタクロースことランプキッドが去り際に声を掛けてきた。

「何です?」

「長年国を支えてきた、天使の使いトキさんと是非握手がしたい」

「俺も!」と他のドワーフたちも一斉に声を出す。


そう言われた瞬間、ドワーフたちの顔が黒く染まり、ニンマリとした怖い笑顔に変わった。白い歯から涎が垂れて、私に襲い掛かろうとする。


「……トキさん?」

「は、はい!握手ですね!?はい、はい!」


目を一度閉じると、その仮面は剥がれる。天使の仕業なのか。だとしたら、私は一生天使という存在を許さない。私に取り憑いたこの光輪もボキッと折ってやりたい。


ドワーフたちの手は、何だか温かく、がっちりと大きかった。少し嫉妬をした。

私にも、こんなに力強い自分の手が欲しかった。

自分の力など無い、ただ運で与えられた地位と名声。光輪など、私には不要だった。





























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