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黒の大魔導師─貧民街のカラス─  作者: 智慧砂猫


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第49話「託された希望」

 ハインリヒとの戦いは、剣聖と呼ばれ最強の騎士として騎士団を支えるアンゼルムでも苦戦を強いられた。魔力を込めて飛ばされる斬撃も、光の壁に阻まれてハイリンヒに届かない。接近戦に持ち込もうとしてもカラスに使ったものと同じように足下から無尽蔵に湧いてくる槍によって阻まれ、立ち止まる事も許されない。


 全快であったとしてもハインリヒの方が一枚上手であるのは否めない。積みあげてきた経験の差か、誰よりも剣の才能に優れたアンゼルムが押し負けている。それでもアレスの傷を癒すには十分な時間を稼いでみせた。


「大丈夫です、アレス様。もう傷は塞がりました!」


「ああ、感触で分かるよ。助かった、俺ちゃんもそろそろ行くか!」


 失った魔力は戻らない。柄に合わず真剣になったのもあって、彼も酷く疲弊していたが、いつまでもアンゼルムにだけ任せていては全滅だ。脚力に徹底したスピード勝負を仕掛けて隙を作ろうと駆けだした。


「……うっ……。ううん、私は……」


 ちょうど、そのタイミングでナタリアも目を覚ます。


「おばさん! 大丈夫か、無理すんなよ!」


「……そう、私は生きてるのね」


 アレスとアンゼルムが共闘している姿を見て安堵する。いくら消耗しているといえども、魔塔第三位の階位を持つ武神アレス。そして騎士団でも歴代最強の剣聖アンゼルム。両者を同時に相手するのはハインリヒとて楽ではない。


「いいかしら、二人共。二人が少しずつハインリヒの位置を意図的に変えてくれている今、私の結界で守られている人たちを遠くへ移動させるわ。でないと巻き込まれかねない状況だから、オーレリアちゃんは護衛について」


「わかりました。訓練区域の魔物なら私でも対処できると思います」


「オレは!? オレは何をしたらいいの!?」


 自分も手伝うと言いそうなカラスをナタリアが首を横に振って制止する。


「あなたはここで二人の戦いを見届けて。……多分、私の予想でしかないけれど、あの二人では彼を倒す事はできない。でも弱らせるくらいなら出来るかもしれないから、いざというときはあなたが戦うの」


 それはある種の宣告だった。信じられないと耳を疑いたくなる。アレスもアンゼルムも、カラスの目から見ればどちらも遥か雲の上の存在。戦いを目で追うのがやっとなのだ。なのに、その二人が負ける? 思わず聞き返しそうになって、ぐっと言葉を呑み込んだ。振り返り、ハインリヒを見て納得した。


 アルメルがシモン家当主の歴代で最も天才なのだとしたら、ハインリヒは優れた才能にも甘んじなかった研鑽と経験の結晶。歴代で最も努力家だと言える。


 最小限の挙動で、最小限の魔力で。アレスにも劣らない技術で攻撃を躱し続けながら、アンゼルムのように鮮やかに剣を使いこなす。味方ならばこの上なく頼もしく、敵であらば厄介な事この上ない怪物だ。


「腕も千切れちゃったし、この戦いぶりだと、どこに行ったかも分かんないくらい多分コマ切れになってるわ。私は戦力にならないから安全確保を優先する。悔しいけれど、それくらいしか出来ないわね」


「んな事ねえよ。おばさんだって凄いよ。……じゃあ、頼むから」


 優しくカラスの頭をぽんと撫でた。


「悲しい顔しないの。大人ってのはね、ここぞってときにあなたたちみたいな子供を守るのに、いつだって力を蓄えてるもんなのよ。だからむしろ誇りなさい。その目に焼き付けておくのよ。同じことを起こさないためにも」


 立ちあがり、ローブを翻す。本当ならアレスたちに手を貸したいところだが、今の状態では足手まといになる。悔しい気持ちを抑えながらオーレリアと共に住民たちを守るための行動に移った。


「……オレが見届ける。あの戦いを?」


 頭の中にアルメルの遺体を見たときの光景がよみがえる。ずっと塞ぎ込んでいた記憶、極力思い出さないようにしていた、彼女の笑顔。きっとかなりの苦痛だったに違いないアルメルが、微笑んだまま死んでいたのを思い出す。


(そうだ。なんで笑顔だったのか、今は分かる。オレたちに託したんだ、自分に出来る事をやりきって、オレたちなら大丈夫だって背中を押すために)


 鋼鉄のような肉体を持つアレスが、光の剣によって傷ついていく。肩が裂け、腹を刺された。血が溢れ、全身には細かな裂傷をいくつも創ったが、彼は呼吸を整えながら戦い続けた。


 アンゼルムは既に剣が折れている。幾度も生成されるハインリヒの剣とは違って何度も斬撃をぶつけ合っているうちに得物が限界を迎え、もはや威力など皆無に等しい状態で防戦を余儀なくされた。


 本能でなくとも理解できる。敗北は秒読みだった。


「ちっ……、俺ちゃんでもここまで歯が立たねえのかよ」


 バンデージが煌々と紅く燃え上がる。本来は魔力そのもので肉体を強化しながら戦う武術でも、彼は大魔法に近いだけの威力を持った属性を拳に宿す事ができる。しかしそれすらも、消耗した今ではハインリヒに通用しなかった。


「それは私も同じだよ、アレス。剣どころか正直言って心も折れたよ、まったく。ご老人、少しは手加減というものを知らないのかね?」


「ふん、老体を相手に何を甘えた事を言うか、馬鹿馬鹿しい」


 涼しい顔で、まだまだ動けると言わんばかりのハインリヒを前に、二人はついに膝を突く。動こうが動くまいが、もうここまでだ、と。


「やれやれ……。流石にお前たちを相手にするのは私でも骨が折れる。だがようやく全てが終わる。さっさと全員始末して、そこの小娘から本の在処を尋ねるとしよう。我が崇高なる願いを叶えるときが来たのだ、誇って死んでいけ」

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