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黒の大魔導師─貧民街のカラス─  作者: 智慧砂猫


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第43話「魔導武神」

 覇気が違う。心構えが違う。意欲が違う。魔導武神とは戦の神、その化身と言っても過言ではない。ただひたすらに武を窮め、己の肉体ひとつを信じて生きてきた男の強さは決して侮って良いものではない。


 たとえどれほど傲慢な魔導師がいたとしても息を呑む。階位を持てば、なおさらだ。ましてや階位の十三番目に位置するカサドが彼の実力を知らないはずはなく、瞬きする間に全滅した自分の部下を横目に見てひやりとする。


「魔導武神アレス……! ここで貴様と戦う事になるとはな……!」


「どうした、柄にもなくビビってるじゃねえか」


 アレスを前にして剣を構えて冷静さを保てるのは、カサドが魔導騎士でもアンゼルムに次いで腕が立つからに他ならない。一瞬でも気を抜けば死ぬと悟らせるだけの殺気に、彼は自分の足が地にしっかりついているかを確かめた。


「臆病であるからこそ生き残る事もある。貴様ほどの傑物を前にしながら恐怖のひとつも感じないのであれば、それは愚かというものではないかね」


「褒めてくれるねえ。流石は剣帝さん。アンゼルムが引退したら、騎士団はまたあんたらの栄光に戻っただろうに。もったいねえな、付く相手を間違えた」


 本気でそう思った。もし結界がなかったとしても、純粋な強さの勝負において騎士や武術家に基礎を中心とした魔導師たちが敵う事は滅多とない。カサドはやはり実力者であり専門家だ。ナタリアでは死んでいただろう、と。


「来な、カサド。てめえが俺ちゃんとどこまで遊べるか見てやる」


「致し方あるまい。私の頼りない部下共の分まで働かねばな」


 普段であれば役立たずだと罵るところも、リゼット以上に強い殺気を放たれては委縮も必定。そこへ容赦ない攻撃を加えられれば、誰でも耐えられるはずもなし。今回ばかりは大目に見てやろうと強気に笑う。


 しかし、相対して彼はなおさらに理解する。アレスが構えていない。魔導武神が本気を出そうとしていないのに、闘気だけで気圧されているのだ。


(……馬鹿げている。私は魔塔階位では十三位。第五位から先は別格の存在と聞いてはいたが、ここまで違うのか……!)


 先に仕掛けるべきか、それともまだ様子を見るか。判断を迫られる。一瞬の隙さえ見せてはならないと直感する。いっそ逃げるべきかとさえ思う。だが、彼にはリゼットの残りの魔導書二冊を手に入れる目的があった。


「くそ。あのタヌキジジイめ、私にこの場所を任せた理由はこれか……」


 シモン家との共同での作戦だった。魔導学院を襲撃するグループと、調査に乗り出したリゼットの足止め。訓練区域から魔物さえ解き放ってしまえば掌握は単純なものになると言われて、カサドは機を逃すまいと待っていた。


 だが現実はどうだ? 魔塔階位の七位である『歩く要塞』が既に学院内にいて、あまつさえそこに『魔導武神』までもが加わった。ほぼ勝ち目のない戦に駆り出されたようなものではないかと悪態を吐きたくなった。


「何を考えてるか知らねえが、そういう油断が俺ちゃんとの差だぜ」


 目の前に立っていた男は風を残して消えた。声に気付いたときには既に背後。瞬きをしていたか、と自分の油断を疑った。だが、していない。アレスの動きが早すぎて常人では捉えられないのだ。


 振り向きざまに剣を薙ぐ。魔力の込められた斬撃は地面を大きく抉ったが、アレスは指先で剣を軽く押さえるように止めたうえに、まったくの無傷だった。


「良くねえ。良くねえよ、カサド。あんたは歳ばかり喰って、家門だ名誉だと下らないもんに囚われちまった。俺がガキの頃に見たあんたとは違う」


 押せない。剣が指一本に負けている。両腕と刃に全霊を込めているのにも関わらず、悲しそうな表情を浮かべるだけの男に歯が立たない。自分がどこまでも弱いのではないかと錯覚してしまう。


 現実を言えば、そうではない。アレスとの実力に大きな差がありすぎるのだ。魔導武神は、その名に違わぬ領域にいる。刃が触れる面積のみに圧倒的な密度の魔力を纏わせ、威力の落ちた斬撃も身体を覆う自身の魔力で〝範囲内だけ〟を正確に防いだ。まったく無傷である理由には、カサドも驚愕するしかない。


「化け物か……!? これが魔導武神か……!」


 下がろうにも下がれない。剣で押すのをやめた瞬間に敗北する未来が視える。長年生きてきて、彼は初めて死を悟るほどの境地にまで至った。


「アルメルの時は不意を突いたんだろうが、俺ちゃんはそうはいかねえ。真正面から挑んでも、背中から襲い掛かっても、必ずてめえらの息の根を止めてやる。んで最後に立ってるのは俺ちゃんだ。諦めて剣を捨てろ」


 必要以上に消耗戦をする理由はない。アレスには、あまりにカサドが軟弱な男でしかない。アルメルのような好敵手でなければ遊び相手にもならず、弱者との戦いは興を削がれる。たとえ憎いと思っても。


「てめえらだけでアルメルを片付けられるわけがねえ。後ろ盾になってる連中について話せば、少なくとも処刑は免れる。此処で選べ。────生きるか、死ぬか」

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