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黒の大魔導師─貧民街のカラス─  作者: 智慧砂猫


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第31話「失ってから気付く事」

 可愛い弟子の願いを叶えるべく、アレスは彼女を連れて訓練区域へ向かった。他の地区とは異なり、背の高い壁で囲まれた地区はどこまで行っても壁に『危険区域につき厳重警戒中』と書かれている。


 下手に壁を壊したりすれば、捕らえていた魔物の流出などが起きてしまう可能性を考慮して、警備の魔導師たちが何人も配置された場所。入口には魔塔から派遣された大魔導師が二人常駐といった厳重ぶりだ。


「これはアレス様。どうなさいましたか?」


 派遣された大魔導師たちは階位を持たない。魔塔に入って間もないか、あるいはそういった仕事を専門に受ける者のいずれかである。それゆえに彼らはアレスのような腕の立つ魔導の道を窮めた者に大きな敬意を払う。


「中に入りてえんだ、トレーニングの一環だな。こっちは俺ちゃんの新しい弟子。そのへんのヤツじゃ修業にならなくてね。申請できるか?」


 紹介されたカラスが少し得意げに胸を張った。


「……ああ、すみません。今は入れないんです、リゼット学院長から直接の許可を頂きませんと」


「はあ? なんであのババアの許可がいるんだよ?」


 せっかくの良い機会なのに、と食い下がったが、やはり彼らは申し訳なさそうに断った。周囲をきょろきょろと警戒しながら────。


「三年前の事件、覚えてますか? 例の魔塔階位次席が殺害された件に進展があったそうなんです。キメラが外に出ては問題ですから今は厳重に、と」


「……なるほど。そりゃ俺ちゃんでも引き下がるしかねえな」


 思っていたよりもあっさり引き下がったので、カラスは少し残念に思い肩を落とす。訓練区域に入る機会など彼がいなければ在り得ない。良い修業が出来ると期待していただけに、ついがっかりしてしまった。


「そう落ち込むなって。事情を説明してやるから今回は引き上げだ。リゼットのババアの許可がいる以上、俺ちゃんだけじゃどうにもなんねえ」


「……そうだよな。ごめん、連れて来てくれたのに」


 つまらない我侭になってしまったと申し訳なくなった。アレスは適当に大魔導師たちに礼を言ってから彼女を抱え、ひょいっと軽々あちこちの屋根に飛び乗り、魔導学院内にある大きな時計塔の頂上にある鐘の前にやってきた。


 敷地の全てを見渡せる高い場所。「最高の眺めだろ」と彼は言いながら、他の誰にも聞かれる心配のないところまで彼女を連れてきたのだ。


「さて、どっから話したもんか」


 そういって頭を掻き、まず初めに質問を投げた。


「三年前に起きた魔塔階位次席の殺害事件……。高位の大魔導師だっただけに、世間的にも衝撃な事件だった。お前も見聞きした事ねえか? 貧民街に犯人と思しき魔導師が逃げ込んだっつう話」


 ああ、とカラスがぽんっと手を叩く。


「覚えてるよ。ちょうど拾われたのが三年前で、オレは貧民街で育ったからさ。アンゼルムがなんか一緒に来てた騎士の人に話してたのを覚えてる」


「その事件で殺されたのが、リゼットのガキなんだよ」


 言葉を失ってしまった。ふと見たアレスの横顔は、なんとも口にするのでさえキツいといった様子だった。


「アイツの息子はめちゃくちゃ強かった。それこそアルメルに引けを取らないくらいに。だけど油断して殺されちまったらしい。何を見ちまったのか、キメラと争った形跡があって、体を食い千切られてやがった。……酷い有様さ」


 魔塔や魔導学院では、それぞれで捕獲した魔物を実験あるいは訓練用に管理している。それらを許可なく連れ出すなど違法行為がいくつか起きていて、リゼットの息子であった次席の大魔導師は調査を行う中で凶牙に掛かった。


 偶然にも、その近くに居合わせたアンゼルムと護衛騎士が逃げた魔導師を追いかけたものの貧民街まで来て見失ってしまう。


「なんとか証拠として拾えたのは魔物の死骸と、リゼットのガキが残した走り書きの文字ひとつ。なんだっけな、確か『シ』って書いてあったんだとか」


 結局、三年もの間、なんの進展もないまま時間だけが過ぎていた。リゼットの悲しみはずっと胸に秘められ、学院長としての仕事に勤しむ日々。その最中にカラスが差何度と騒ぎを起こすのに面倒を見続けている気持ちが、彼女には分からない。分からないだけに苦しくて、悲しくなった。


「……オレ、あの人に迷惑かけっぱなしだ」


「謝る必要ねえよ。自分のガキみてえで可愛いんじゃねえかな?」


 からから笑って、風にあおられるフードを手で押さえる。


「大事なもんってのは失うまで当たり前で、当たり前ってのは失ってから初めて大事なもんだったって気付くもんさ。だから問題児だろうとお前みたいな奴がいるのは時間も忘れられるくらい楽しいもんだと思うぜ、俺ちゃんは」


 立ち上がるとローブがバタバタと揺れる。ふう、と息を吐き、アレスは「それよりも」とずっと遠くを真剣な眼差しで眺めながら────。


「魔物を連れ出す馬鹿が現れちゃならねえってんで警備を厳重にしたって事は、かなり進展があったはずだ。ロックスやアルメルが関わっていながらそういう状況ってんなら……俺ちゃんもリゼットに話を聞きにいかねえとな」

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