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黒の大魔導師─貧民街のカラス─  作者: 智慧砂猫


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第29話「負けたくない相手」

 踏み込んだ巨体の一歩が大きくカラスに迫った。まるで岩石の如き体躯による連撃は、魔力の制限下にあっても鍛えられた肉体から放たれる威力は油断できない。骨が折れるで済めばいいが、誰の目にも映ったカラスの華奢に見える体躯にはとても耐えきれるものではない。


 触れれば大怪我。あるいは打ち所が悪ければ死ぬかもしれない。にも関わらず、カラスは緩やかに。必要最低限の動きだけで払い、鋭い体当たりを叩き込む。


 一点集中。最も打撃が通る位置にのみ魔力が集まり、ボーグルの防御が間に合わず強い衝撃がまっすぐ貫いた。


「……が……ッ!? その細身からなんて威力だ……!」


「悪い、加減が難しくて。でも、ちょっと分かったよ」


 魔力の流れを理解してからは動きが格段と速くなる。最小限の魔力で、最小限の箇所だけを強化。素早い動きから繰り出される小さな一撃も手心を加えてはいても、何度も積み重ねられては痛みが走った。


 想定外。まさに理解不能。ボーグルは確かに彼女の動きを捉えるために、眼球の動きを最優先にして、次に手足へ魔力を集めた。だが、追いつかない。僅かにでも良い勝負が出来るかもしれないと思っていたのが驕りだと現実を突きつけられ、焦りが生まれる。ここまでしてやられる事があっていいのか。


 否、あってはならない。短期間で三年相手ですら手に余るようになり始めたボーグルの実力は紛れもなく誰にも認められたものだ。それが、天賦の才を持つとはいえ武術学科でもない者に、その基礎を崩されていく。


(ここまで手が出ないものなのか!? カラスのような天才相手といえども、ここまで……! だが何故だ、何かが見える。彼女の動きに何か────)


 気付く。直感。気配。彼女の傍で共に戦うかのような幻影。ずっと戦っていたのはカラスだけではない。師事する者がいる。よく知る男の魔力の動き。────魔導武神アレス。まさしく彼と同じ高みへ至らんとする者がカラスだった。


 羨ましいと思わざる得ない。自分の前に姿を現さなくなってしばらく経ち、いずれ窮みに至れば会えるのだろうかと思いながらの邁進。だが違う、自分は選ばれた内の一人で、彼女もまたそうなのだ。自分より後に選ばれ、自分より後に才能を開花させ、自分をも超えていく怪物。胸を貫く違和感の正体に気付いた。


「そうか……。負けたくないという気持ちはこういうものか!」


 全霊。これが魔力制限を受けていなければ、もっと本気で戦えた。もっと愉しめた。そして、負けなかった。そう思いたかった。


────ぴたり揃った四本の指が、眼前に届くまでは。


「おお……。四本貫手……まさしく師匠の得意技だ」


「ん? そうなのか、これ。見様見真似でやってみたんだけど」


 もはや固唾を呑んで見守るしかなかった生徒たちも、決着がつくなり歓声をあげた。勝者カラス・ウォリック。基礎学科でありながら武術学科のボーグル・ウェイトを打ち負かした最強の女生徒として後日、また記事に挙げられる事になるのだが、それはまた別の話だ。


 ともかくとして彼女に負けたボーグルも、悔しさの中にあって清々しい気持ちにもなれた。こうまで届かぬ相手がいるのならば、必ず届くよう鍛え直さなくてはならない。堅実で誠実な決意を抱いた。


「いやはや、見事。ここまで強いとは思わなかったよ、俺もお前を見習わないとなぁ……。まだまだ修行が足りんかったようだ」


「んな事ねえよ。強かったぜ、やっぱ戦って良かった」


 色々と悩んでいた事が吹き飛んだ気がした。ずっと迷っていたのだ。あの戦いの結末、自分であればどんな選択をしていたか。アルメルが視えなかった一手先を、もし自分が受けていたのなら? もしアレスと同じ実力であったのなら?


 たかが想像。されども彼女の実力は確かに、その境地に近付いていた。


「にしても動いたら腹減っちまったなあ。時間も遅くなっちゃったし……」


「ああ、帰ろう。オリーヴも待ちくたびれてるかもな」


 武術学科での一幕。誰もが目に焼き付けながら、その話が外へ漏れるのはしばらく先の話だ。たった一人が口を滑らせるまでは平和に過ぎていく。口止めをするまでもなく、彼らは基本的に口が堅かったし、なにしろ目の前で普通では見られないような組手を見せられては気合の入り方も違う。


 師範代に何を言われるでもなく真剣に取り組むようになり、わざわざ話題に挙げて騒ぐ事はしなかった。そんな時間があるのなら一分一秒でも強くなるために時間を費やしたいとさえ思うようになった。カラスの存在は、そう作用した。








 残念ながら、リゼットは良い顔をしなかった。


「……それで? 目立った感想は?」


「……と、とても嬉しいなあ~なんて……」


「そうか。私はとても憎たらしいよ」


 学院長室で満面の笑みを向けるリゼットの、まったく感情の籠っていない表情から見える苛立ちにカラスはただただ愛想笑いを返すしかなかった。


「では、そこで三限目が終わるまで正座してみようか。……もちろん、魔力を練ったりしないようにな?」

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