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黒の大魔導師─貧民街のカラス─  作者: 智慧砂猫


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第20話「喧嘩は良くないよ、喧嘩は」

 魔導学院内で新聞を作るのは大人だけでなく、その道を目指す──基礎学科にはそういう者がときどきいる──生徒たちだ。ハウスタウン地区へ理由なく生徒以外が立ち入りは禁止されているため、誰が作っているか突き止めるのは容易い。


 フラガラッハ家のゴシップを見つけて喜んだ誰かも、今は首に縄が掛かった状況に気付かず、そのうち喧嘩を売った相手に後悔する事になるのだ。


「自業自得じゃねえ?」


「それはそうなんだけどな」


 最後のひと口を放り込んでボーグルはテーブルに肘を突く。


「リゼット学院長が動いてるなんて噂もある。もしかしたら学院にいられなくなるかもしれんと思うと、ちょっと哀れだなと思わなくもないんだ」


 ネタが悪かったのだから多少の謹慎くらいはあってもどうと思う事はなくても、学院から除籍された場合には、二度と戻って来る事は出来ない。本人だけで済めばいいが、関係者も全員が──血縁や出資者までも──出入り禁止になる。


 魔法を学ぶための機会を永久に失われる者たちが出てきてしまうのだ。


「さて。俺はそろそろ帰るが、お前はどうする?」


「あ~、うん。オレは暇だから適当に散歩して帰るよ」


 必要もないからと言えばそうではあるが、カラスはあまりハウスタウン地区の周辺以外に詳しくない。せっかく時間が空いているなら歩いてみようと思った。帰ったところでやるべき事もなかった。


「それなら、また夜に」


「おう、ありがとな。じゃあまた」


 食べるものも食べて、暗かった気分もいくらかマシになる。たまにはちょっと遠くへ足を延ばすのも悪くないと町並みを楽しんだ。


 うじうじ考えていても、結果は全てリゼットを含めた味方でいてくれる大人たちに掛かっている。ただひたすらに無力感はあったが、だからといって暴れるのは最も在り得ない選択肢だ。時間が過ぎて風向きが良くなるのを期待した。


 食べ歩いたり、ちょっとしたアクセサリーを買ってみたり──途中で落として失くしてしまったが──普段とは違う時間は、彼女を前向きにする。


「あれ、例の噂の子じゃない?」


 そんな声が聞こえ、横を通り過ぎた青いローブを着た二年と思しき生徒たちを振り返ってギロッと睨む。どこまで話が広がっているのかよりも、興味の尽きない玩具を見るような目と笑い声が気に入らなかった。


「んだよ、鬱陶しいな……」


 ちょっと愚痴をこぼしたつもりでも、その言葉が反感を買う。彼らはぴたっと足を止めて彼女に向って「何、今の? 喧嘩売ってきたの?」と明らかに不愉快そうな表情を浮かべた。


「喧嘩なんて売ってねえよ、先輩方」


 カラスに退く様子はなかった。


「ただちょっと恥ずかしげもなく人の事を指差してクスクス笑ってんのが気に入らなかったってだけだよ。知りたいなら直接聞いて来い、ヒソヒソ話すな」


 険悪な空気が渦巻く。明らかな敵意を向けられれば相手も黙ってはいない。「たかが一年のくせして」と高圧的な態度を以てカラスを牽制した。


 一触即発の雰囲気が漂い始め、近くにいた人々も様子を察して何事だと注視する。今にも殴り合いが始まるのではないかとざわつく。


 その空気をたったひとつの声が引き裂いた。


「双方そこまで。喧嘩は良くないよ、喧嘩は」


 白銀のローブ。フードで素顔を隠しているが、そこそこに若いと分かる。筋骨隆々な肉体美に、カラスは武術学科の講師だろうかと思ったが、二年の生徒たちはなんとも言えない表情で「誰だよ、この人?」とひそひそ話す。


 背の高さはボーグルよりやや小さいが、体格としては十分に立派が過ぎる男は両手にバンテージを巻いていて、何をしていたのかズタズタだった。


「そっちの黒い子。見てたぜ、お前が気分が悪いのも良く分かる。ヒソヒソと下らないゴシップで背中を指差して笑うなんざ人のする事じゃあない!」


 大きな手が、見上げたカラスの頭をぽんと撫でた。


「だが、お前も態度が悪い。あァんな連中を相手にしちゃあいけないんだよ。魔導の道ってのは己が信念を貫く事にある。戦わない方が賢いときもある。大人ってのはそういう苦い経験を経て泣きながらでも立ち上がってきた奴の事を言う」


 フードの中からうっすら覗いた胡桃色の瞳が生徒たちを射抜く。


「人の背中を指差して笑ってる時間があるなら、お前らもちったあ自分の事に集中した方が良いぜ。大した成績もしてない基礎学科の生徒さん?」


 二年の集団の中で先頭の男子生徒がムッとした表情を浮かべた。


「失礼な人だな。俺はこれでも二年じゃ成績は三位。十分大魔導師になるために努力はしてるんだよ。どっかの誰かみたいに名家に取り入って名前でも売ろうなんて腹黒い事なんて考えてない」


「あっそ。だからなんだよ、『俺の方が偉い』って言ってんのか?」


 カラスだけが気付いた。その動きを捉えた。疾風の如き速さを以て白銀のローブの男は瞬時に男子生徒の前に立ち、その額に指先をちょんと軽く当てた。


「言葉は選んだ方がいいぜ、学生さん。噂の真相なんてのは蓋を開けてみるまで分からねえからよ。────都合のいい真実が嘘に変わったときの言い訳を今からでも考えとけ。魔導学院の名を汚せば即退学。それくらいの覚悟でな」

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