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黒の大魔導師─貧民街のカラス─  作者: 智慧砂猫


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第18話「私を信じてみろ」

 金髪の長い髪。薄青の瞳。紺のローブを纏った女性を見て、カラスとオーレリアは第一印象を『オリーヴが年老いた姿』と感じた。


 それもそのはずだ。彼女こそサンジェルマン家当主の妻。そしてオリーヴ・サンジェルマンの母親。大魔導師の称号を持つナタリア・サンジェルマン。天才と呼ばれた魔導学院の卒業生でもある。


「久しぶりね~、リゼット! ごめんなさい、バタバタしてたら予定の時間よりちょっと遅れちゃったわ。……あら、そっちの可愛い子たちがカラスちゃんと……オーレリアちゃんね。良かったら飴ちゃん食べる?」


 慌ただしく駆けてきたかと思えば、ローブのポケットからカラフルな包み紙の飴玉を二人に差し出す。オリーヴよりもずっとハイテンションな様子についていけず戸惑っている二人をまったく意に介さない。


「二人共、きちんと挨拶しておけ。こちらはナタリア・サンジェルマン。魔塔階位でも第七席の、お前たちの大先輩にあたる魔導師だ」


 カラスも目を丸くする程の地位を持つ大魔導師。魔塔で最も優れた魔導師たちを示す『階位』についてはアルメルから学んでいる。


 何百人以上と在籍する大魔導師の中でも特に優秀な者たちで、実績を挙げた上位三十名のみが名乗る事を許されるのが階位。その七席となれば階位の中でも最上位クラスだと誰でも分かる最高峰の魔導師の一人だ。


「はっ、初めまして……! オレはカラス・ウォリックです、アルメル・シモンの弟子として魔導学院に通ってて、今は基礎学科で講義を受けてます!」


 緊張してびしっと背筋を伸ばして視線をどこかにやりながら話すカラスとは対照的に、オーレリアは慣れているのか落ち着いた様子で胸に手を当ててお辞儀する。


「私はオーレリア・フラガラッハです。剣の名門、フラガラッハ家の娘として魔導学院では騎士学科を受講しております」


 丁寧で新鮮な挨拶には、相応の態度を示さなければならない。ナタリアは自信のローブの裾をつまみあげ、深く腰を落としてお辞儀をしてみせる。


「お初にお目にかかります、カラス・ウォリック。そしてオーレリア・フラガラッハ。私が魔塔階位第七席、ナタリア・サンジェルマンです。────なんて、堅苦しい挨拶はここまでにして、よろしくね、二人共」


 自分が魔塔の人間であっても、偉いのは自分ではなく当主であるナハトだと言って拘りを持たず、からから笑って「じゃあ本題に入りましょうか」と彼女はまず、二人と話す前にリゼットへ報告を済ませる。


「貧民街にあった孤児の家はなくなったわ。アンゼルムが手を回してくれたおかげで、あの場所からカラスちゃんの情報は洩れないでしょうね」


「子供たちはどうなった?」


 グッ、とナタリアが親指を立てた。


「もう既にサンジェルマン家で保護してあるわ。引き取り先は今慎重に選んでいる所よ。信用できる筋を通しての話だから、こっちも問題ない。ウォリック姓に関しては小さな村ひとつをホロウバルト家、シモン家、サンジェルマン家ででっちあげておいたから、いくら相手がフラガラッハ家でも真相に辿り着くのは無理ね」


 ほぼ廃村となっていた場所を借り、手の空いている従者たちを口裏合わせて住まわせている。それだけで給金が貰えるというのだから従者たちにも気合が入っていたと可笑しそうにナタリアは話した。


「なんだなんだ? もしかしてこの間オリーヴと話していたのって……」


「そうだ。ナタリアたちに協力を仰ぐべきだと判断してな」


 貴族たちには派閥があり、それは魔塔の魔導師たちも同様だ。名声と権力を重んずるフラガラッハ家と、義理と名誉を重んずるホロウバルト家それぞれの派閥に分かれており、サンジェルマン家は後者だった。


 なので早めの対処を──どうせカラスに関わる問題はまた起きるだろうと事前に計画していた──行うために、先にオリーヴの意志をハッキリさせてから連絡を取った。それからの仕事ぶりはあまりに迅速だったと言える。


「おかげでウォリック姓に関してはクリアだ。後は、お前たちの問題だな。本来なら両者のわだかまりを解く良い機会とも言えるんだが……」


 如何せん仲が悪い。あるいはフラガラッハ家の嫉妬深い権力への執着。騎士団長の座を奪われたと考える彼らが手を取り合う未来は想像も出来ない。


「なあ、それだとオレの事しか解決してねえじゃん。オーレリアはどうするんだよ、平民と仲良くしてちゃマズいんだろ?」


「私の事はいいんだ、カラス。分かっていた事なんだから」


 関わってはならないと言われていたのを自ら破ったのだから責任は自分にあるとオーレリアはカラスを守ろうとするが、彼女は首を横に振った。


「そんなもんで友達を失ってたまるかっての。……見捨てたくないんだ。何があっても絶対に。オレがそうやって助けてもらった事があるから」


 ぱちぱちとゆっくり拍手したリゼットが、はいはい凄い凄いと虚無の表情で遠くを見つめながら三文芝居を見ているときの気持ちであくびする。


「お前の考えはよく分かった。だが魔導学院内で関係性が噂になっている以上、どうやってフラガラッハ家を相手にするつもりなのか言ってみろ。才能はあっても青二才なのは間違いない。力で捻じ伏せられる相手じゃないぞ」


「それは……。でも、何か方法があるはずだろ。距離を取らなくたって済む方法が。リゼットさんもナタリアさんも力を貸してくれよ」


 頼み込まれて呆れながら「分かってる」とリゼットは額に手を置く。


「まったく。学院長なんて椅子に座らされて最低の気分だよ。こんな事なら魔塔に籠っていたかった……。愚痴をお前たちにこぼしても仕方ないが」


 どうせこんな事になるとは予想していたが、実際に目の当たりにすると酷く頭痛がした。解決は簡単ではないしフラガラッハを相手にするのは面倒だ。


 だとしてもやるだけやってみるか、と諦めた。


「……ま、今回は私を信じてみろ。それなりに良い報告を聞かせてやる」

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