第11話「才ある者たち」
強めの言葉に生徒たちも緊張の面持ちだ。余裕なのは先月で順位を上にした者たちと、最優秀者だったオリーヴやボーグル。そして初参加であり、思ったより簡単そうだと喜ぶカラスだけだ。
武術学科から始まり、外野からボーグルを応援する。もしかしたらという心配もなく、彼はあっさり岩に拳をぴたっとくっつけて、一瞬だけ力を込めて殴っただけで真っ二つにしてみせた。武術学科の一年でもそれが出来たのは彼だけで、シアロも変わらずの不機嫌そうな顔のまま「また君がトップか。流石だな」と、その才能と実力を認めて称えた。
そうして無事に武術学科の試験は終了し、今度は騎士学科。彼らはローブではなく薄い胸当てをして、動きやすい服装に身を包んだ見習いとしての制服を着用する。腰にはしっかり支給された剣を携行し、武器に魔力を込めて岩を切り裂こうとした。その中でトップになったのは女性だった。
無口で淡々とした雰囲気。銀髪のポニーテールをふらっと揺らして、四分割にされた大岩に背を向ける。薄紫の瞳が、ちらっとカラスを見た。
「なあ、あの人って誰?」
隣で一緒に眺めていたオリーヴに尋ねる。
「アイツ? アイツはオーレリア・フラガラッハ。ルースト騎士団の先代団長の孫娘よ。騎士学科でも変わり者らしくて、人と話してるのを見た事ないわね。でも実力は間違いない。ま、アタシたちと同類ってとこかな」
生まれついての天才。大魔導師の家系で最も有力なのがシモン家ならば、大騎士の家系ではフラガラッハ家。そしてオーレリアはフラガラッハ家でも既に当主の座を約束された実力を持ち、魔導学院に通うのも形式的なものに過ぎない。彼女の強さは既に現騎士団長であるホロウバルト公爵に並ぶとオリーヴは仔細に語った。
「そんなにすげーんだ、あの人。かっこいいな」
「アタシもそう思う。学科は違うけど尊敬できる相手よ」
もし同じ道を目指していたのなら。そう思うだけで胸が躍る。オリーヴ・サンジェルマンはライバルが多さでどこまでも心を燃やす事が出来た。
「さ、次は基礎学科の番ね。トップバッターはアタシだわ」
「おう。楽しみに見てるよ」
ついに試験の順番が基礎学科に回って来た。オリーヴが大岩の前に立って、最も得意とする炎の魔法で大岩を包み、炸裂させる。いとも容易くばらばらに砕いてみせた姿に、シアロは「相変わらずだな」と不満そうにする。とても生徒に対する態度とは思えず、カラスは少しだけ嫌な気持ちになった。
「んだよ、あの教授。褒めたりはしねーのか?」
「あの者は人を褒める事を知らぬ」
どきっとして横を見ると、オーレリアが立っていた。
「あ、さっきの……。褒める事を知らねーってどういう?」
「そのままの意味だ。君も分かるだろう」
オーレリアの冷たい視線が、シアロに向けられる。
「大魔導師になれなかった人間の全てが正しく前を向けるわけではない。教授という地位は彼の手に余るものだ。あれは才能のある者に嫉妬するから」
フンッ、と小さく鼻を鳴らして目を瞑り、そっと場を離れた。
「お、もう行っちまうのか?」
「喉が渇いた」
誰とも話しているのを見た事がないと聞いていたが、思っていたよりも喋る人だったと印象に受けて、カラスは少しだけ仲良くなれたんじゃないかと、つい頬を緩ませて笑んだ。また新しい友達が出来たかもしれない、と。
「カラス。カラス・ウォリック! 次は君の番だ、はやくしたまえ!」
シアロが語気を強めて苛立ちの混ざった声で呼ぶ。
「うあっ、もう!? す、すみませーん、すぐ行きます!」
生徒たちがくすくす笑う。気の強そうな少女の、ちょっぴり天然な姿を愛らしく思う者は多い。カラスは一カ月遅れで入って来たのもあって注目の的だ。あまり安穏とした雰囲気を好まないシアロ教授の手前、誰もが小さく笑うに留めた。
「……ったく、これだから平民あがりの見習いは……」
ぶつぶつと小さく文句を垂れながら黒いボードに視線を落とす。
(平凡な素養の小娘だな、大した経歴もない。公爵家で短期間を働いていたようだが、どうせ雑務だろう。シモン家がいるのに魔導師など要らんからな。それでも援助を受けているのがなんとも気に喰わない)
たかが魔力を持っていただけで、短期間の労働で公爵家からの援助を受けるといった彼女の待遇に腹を立てる。ホロウバルト公爵は短期間でも労働者に対する手厚い待遇で迎えたり、送り出す事はよく聞く話だ。
運が良かっただけの娘だから、呼ばれるまで自分の順番だと気付かずに眺めていたのだろうと鼻で笑う。こんな奴では一生見習いだ、と。
「では始めろ。どうせ大した結果も出せないだろうが────」
指示と同時にカラスは岩に触れた。一瞬、周囲に風が吹き荒れ、目の前にあった大岩が粉々になった。そう、粉々だ。誰もが口を開けて唖然とする。
「シアロ教授、これ粉々になっちゃったんだけど。もしかしてオレ、指示聞き間違えたりしました? 直る前に壊しちゃったとか……」
突然の出来事に呆気に取られ、シアロは落ち着いて眼鏡のブリッジを押し上げて位置を整えてから、彼女を冷たく睨みつけた。
「一体どんな手を使ったのか聞かせてもらおうか、カラス・ウォリック。これはそう簡単に粉々に出来るものではないんだ。不正は良くないと思うがね」




