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黒の大魔導師─貧民街のカラス─  作者: 智慧砂猫


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第10話「簡易テスト」




 カラスがオリーヴたちと意気投合するのは早かった。最初こそボーグルとの距離感も感じたものだが、数日も経てば食卓を囲んで歓談するようになった。


 まだ不意に伸びてきた手に対する一瞬の動揺は拭いきれない。過去の経験がこびりついてしまっている。思わず目をぎゅっと閉じてしまう癖が出ると、毎回のようにボーグルが謝るのを申し訳なく感じた。


 それでも仲良くなったのは事実だ。講義の時間は学科が違うのでしばらく離れているが、昼休みになれば当たり前のように三人揃ってランチタイム。帰る時も理由がなければ一緒に帰るのが習慣だった。


「そういえば月に一回の簡易テストって午後だっけ?」


「おお。俺は学科一位だったが、さて今回はどうかな」


 各学科で行われるテストで、優秀者上位三名には学食の一ヶ月無料券が与えられるため意気込む生徒も多い。


 魔力の扱い方は魔導師として基本中の基本ではあるが、当然それにも個人差はある。大雑把な者もいれば針の穴に糸を通す繊細さで操る事が出来る──それこそオリーヴのような──者がいる。


「んじゃあ、学科ごとに三人ずつって事か」


「そうね。あと学年。ちなみに先月はアタシがトップ」


「え。でも学食なんか食べてなくないか?」


 オリーヴが一度だって二人を置いて学食で済ませている姿を見た事がない。その理由を彼女は「高級だから良いってわけじゃないもん」と、それが当然だとばかりに満面の笑顔で答えた。


「確かに味は凄いと思うわ。でもアタシはボーグルの作ってくれるご飯の方が好きなのよ。素朴で安心できるっていうか。今はカラスちゃんもいるから、三人揃って食べる方が楽しいし。誰かと食べて笑えるなら、それが一番だものね」


 隣でボーグルが少し照れて指で頬を掻く。


 誰とでも仲良くなるオリーヴらしい言葉にはカラスも頷いた。


「だなぁ。オレもここしばらく二人とメシ食ってて最高に楽しいよ」


「でしょ~? 今日もボーグルが作ってくれるし」


 頼ってばかりもどうなんだとカラスはボーグルに視線を送ったが、彼はむしろ腕が鳴ると思っているのか親指を立てて白い歯をきらっと見せつけた。


「あ、でさ。その簡易テストって奴、どこでやんの。いつもの講義室?」


「ううん、こういうテストとか卒業試験は本校舎で行うのよ」


 学年ごとに日を分けて行われる簡易テストは、初日は三年。次に二年、最後に一年の順で本校舎内にある試験会場にて実施される。今では教授たちの宿舎として使われる側面が強いが、使わないのは勿体ないからと定期的に利用した。


「そろそろ昼休みも終わりだ、俺たちも行こう」


「そうね。今日の試験担当の教授、めんどくさい性格してるから」


 べーっと舌を出して嫌そうな顔をすると、ボーグルが滅多なことを言うもんじゃないと諫めたが、彼女はまったく気にしなかった。


「嫌いなの?」


「アタシはね」


 オリーヴに嫌われるなどとても信じられない。どんな教授なのだろうかと興味が湧きつつ、試験会場へやってきた。既に他の生徒たちも、今か今かと緊張の表情を浮かべている。初めての空気にはカラスもぴりついた。


「すげえ……。みんないつもみたいに笑ってねえな」


「当然よ。あんたも大魔導師目指してんなら気合入れなさいよね」


 フンッと強気に笑ってオリーヴが言った。


「ここにいるのは誰もが未来の大魔導師だとか騎士団長、もしくは武の達人を目指すような奴らばっかりなの。もちろん魅力的な特典が欲しくもあるけど、それ以上に真剣なのよ。自分の実力だとか成長を示す良い機会だからね」


 たかが一ヶ月。されど一ヶ月。何かしらの努力の成果が少しでも出れば、自分に期待もできる。そうでなかったとしても、次の飛躍のためにさらなる努力を積み重ねる。心が簡単に折れる人間は魔導学院にはいない。


「お、二人共見てみろ。シアロ教授のお出ましだ」


 試験官であり、基礎学科も受け持つシアロ・バラム。肩まで伸びた波打つ黒髪に少し大きめの丸い眼鏡が特徴的で、いつも不機嫌そうな目をして口先を尖らせている。魔導学院の卒業生であり、大魔導師にはなれなかったが、基礎学科での優秀な成績から教授としての仕事に就いた男。


 彼の鋭い目つきが怖い、と言う生徒も多かった。


「試験の時間だ、集まりたまえ」


 広い会場の中央に集まった生徒たちを一瞥する。


「……欠席者はナシ、と。どの学科の生徒も来てるな」


 点呼も取らず、各学科で分かれたさせただけで確認を済ませた。


「では本日の試験内容を説明する。簡単な事だ、一度しか言わないからよく聞いておくように。質問の時間はその後に設けさせてもらう」


 はあ、と大きなため息をつきながら彼は話を始める。


「既に全員が意識していると思うが、今日はリゼット学院長による協力の下、生成してもらった大岩を使った試験となる」


 生徒たちが囲んだ試験会場の中央にある大きな岩。とても十数人程度では運べないほどの大きさのものが、迎えるようにどっしり構えた。


「これを君たちにはあらゆる手段で破壊してもらう。魔法で、剣技で、武術で。君たちの得意な方法で行えばいい。簡単には壊せないよう出来ているし、壊せたとしても魔力で再生する仕組みだ。気兼ねなく挑戦したまえ」


 ごほんっ、とひとつ咳払いをしてから質問のある者はいないかを問う。しん、と静まり返った状態が数秒続いて「何もなければ今日は武術学科からだ」と順に並ぶよう告げて、黒いボードを抱えて片手にペンを握り締めた。


「先月の評価から落ちた者には追試だ。まさか魔導学院に通っておきながら修練を怠る愚か者はいないだろうが、緊張感だけは忘れるなよ」

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