二人の美少女から同時に告られました
まずい、いろんな意味でまずい。
「高峰くん、ずっとずっと好きでした!」
「高峰! 私の気持ちを受け取ってくれ!」
今、オレの目の前には二人の美少女がいる。
一人は同じクラスの佐伯さん。
おっとりとした性格で学園一の才女。さらりとした黒髪が特徴の女の子。
もう一人は隣のクラスの藤倉さん。
スポーツ万能のはつらつ系美少女。少し茶色がかったショートヘアが特徴の女の子。
その二人が放課後の自転車置き場で同時に告白してきたのだ。
オレにとっては初めての告白。
初めてのシチュエーション。
しかも相手は「佐伯派? 藤倉派?」と言われるほどの学校中の人気をかき集めるこの二人。
まずいなんてもんじゃない。
学校中の男子を敵にまわしかねない状況だ。
おそらく、お互いにお互いの存在に気づくことなく別々の場所に隠れていたのだろう。
まさに奇跡的なタイミングでかち合ってしまった。
瞬時に漂う不穏な空気。
オレに告白してきたこの二人が、お互いに顔を合わせて微妙な顔をしている。
「なに、あんた」的な顔をしている。
「お前は、佐伯……」
先に口を開いたのは、はつらつ系美少女・藤倉さんだった。大きな瞳をさらに大きく見開いて佐伯さんを見つめている。
「あなたは……藤倉さん?」
対する佐伯さんも一瞬戸惑った顔を見せたものの、瞬時に藤倉さんを睨みつけた。
バチバチッと飛び散る火花。
おおう、美少女2人が向き合うと迫力あるな。
二人は見つめ合ったまま微動だにしない。
眉間に皺までよって……。
あわあわと見守ってるうちに、はつらつ系美少女・藤倉さんが口火を切った。
「これはこれは。わが校のマドンナがまさかの告白ですか」
対するおっとり系美少女・佐伯さんも言い返す。
「あなたこそ。陸上部の県大会まであとわずかだというのに、この時期に告白ですか」
藤倉さんは2年生ながら陸上部のエースだ。
もうすぐ県大会が控えていて、今は大事な時期。確かに恋どころではないはず。
だが藤倉さんは「ふん」と鼻で笑った。
「この時期だからこそだ。好きな人に応援してもらえれば、実力が120%出せるからな」
ドヤ顔で力説する藤倉さん。
「私は県大会に行く前にどうしても高峰を自分のものにしたいのだ」
「な、なにを! だったら私だって! 来週の誕生日、高峰くんと一緒に過ごしたいわ!」
あ、佐伯さんの誕生日来週なんだ。知らなかった。
「はん! 誕生日に一緒に過ごしたいだと? ちゃらちゃらしおって」
それ、あなたが言います?
「言っておくがな、私はそんな不純な動機ではない! 高峰に走る私の姿を見てもらって、完走後に『よくやった』とハグしてもらいたいだけだ!」
じゅうぶん不純だよ、動機が!
「そもそもだな、佐伯! お前みたいなのはもっと他にいい男捕まえられるだろう! こんな能面みたいな男じゃなく!」
「それはこっちのセリフですわ! 一日中、家でゲームばっかりしてるモヤシっ子の高峰くんは藤倉さんには合いません!」
あのー……軽くディスられてるんですけど。
オレ、告白されたんだよな? この二人に。
「あ、あのさ……」
なだめるようにオレが間に割って入ろうとすると、二人はこちらに顔を向けて
「「邪魔をしないで!!」」
と見事なハーモニーを奏でた。
「はい……」
すごすごと引っ込むオレ。
意外とこの二人、息がピッタリだ。
まあ同じタイミングで告白してくるぐらいだし。思考回路が似ているのかも。
オレは少し後ずさって様子を見守ることにした。
二人は睨み合ったまま一歩も退こうとはしない。
ああ、地獄だ。
美少女同士が睨み合うなんて、めっちゃ地獄だ。
そんな中、藤倉さんが目を光らせながら尋ねた。
「佐伯、ひとつ聞きたい。貴様の高峰が好きって気持ち、本物か? なんだか疑わしいぞ」
「どこがよ。私の好きって気持ちは本物よ!」
「じゃあ、高峰の生年月日を答えて見ろ」
「いいわよ。高峰さとし。20○○年7月12日生まれ。O型。好きな食べ物は中辛カレー。好きなバンドは髭男○ィズム。好きな映画はディ〇ニー系全般、特に『アナと雪〇女王』が大好き。好きなアニメは『鋼の錬〇術師』。好きな漫画は『ド〇ゴンボール』。好きな小説は……ぺらぺらぺら」
なにこれ、怖い! 超怖い!
なんで知ってんの!?
マジで怖い!
「くっ、やるな。でも私も負けてなどおらん。高峰は小学校の時、どうしても特撮ショーが見たくて学校をずる休みして近所に住む祖父と見に行ったことがあるのだ。これは知らなかっただろう?」
「もちろん知ってますわ。その後、ショーが思ってたよりもつまらなくてグズりながら帰ったってこともね!」
「祖父があまりにも可哀そうだってんで、帰りにコンビニでアイスバーを買ってあげたことも?」
「それを食べようとしたら手が滑って地面に落ちて余計に泣いたってことまで知ってるわ」
うおおおおおおーーーーい!!!!
ちょっと待て。
それ、どこの誰から情報仕入れてんの!?
「じゃあ、とっておきの秘密だ。高峰は寝る前はホットミルクを飲まないと眠れないのだ! しかも猫舌だから少し冷ましてから飲む。どうだ、知ってたか?」
「ふふん、甘いわね。知ってるわよ、それくらい。そのあと、ひつじの歌を数えながら寝てることも。寝つきが悪いのが今の悩みって両親に言ってたわ!」
情報源はおふくろか!?
いやいや、二人とも面識ないはずだぞ?
どうやって調べたの、そんなの。
「この前、寝言で『かめはめ波ー』って言ってたことなんてさすがに知らないだろう!?」
「さらにその前なんて『地球のみんな、オラに元気を』って叫んでたわ!」
うおおおおおおおおおいっ!!!!!
犯罪だよ、もう!
盗聴器仕込まれてるじゃん、オレの部屋!
「ふふ、やるな……」
「そっちこそ……」
なぜか鼻息が荒い二人。
なんの争いをしてるんだか……。
「これじゃあ埒があかないな。この際、高峰に聞くか? どちらの愛が深いか、そしてどちらと付き合いたいか」
「異論はないわ」
そう言って二人でこちらを見つめる。
うげっ。
二人の視線が怖い……。
「高峰くん、どちらと付き合いたいですか?」
「ど、どちらも嫌です!」
そう言ってオレは猛ダッシュで逃げ出した。
しかしはつらつ系美少女・藤倉さんが回り込む。
「おっと! 逃がしはしないぞ!」
は、速え!
さすがは陸上部。
瞬発力が違い過ぎる。
「どちらがいいか聞くまで帰さん」
おっとり系美少女・佐伯さんも後ろで「うふふ」と笑う。
「そうよ。答えを聞くまで帰さないわ」
いや、さっき「どっちも嫌」って言ったんですけど……。
「教えろ高峰。私と佐伯、どっちと付き合いたい?」
「教えて高峰くん。私と藤倉さん、どちらと付き合いたい?」
ううう、怖い。
二人とも「当然、私よねー」という目でオレを見つめている。
これ、断ったら何をされるか……。
「え、えーと……えーと……」
その時、一人の女子生徒が通りかかった。
「高峰くん?」
そこに現れたのは同じクラスの吉岡さんだった。
本が大好きな女の子で、佐伯さんや藤倉さんとは違うタイプの美少女だ。
ちなみにオレの想い人でもある。
「よ、吉岡さん?」
「佐伯さんと藤倉さんも。どうしたの? こんなところで」
天啓とはこの事か。
オレはダッシュで吉岡さんの前に立った。
「え!? え!? なに!?」
「吉岡さん! 好きです! 付き合ってください!」
「え、ええ!?」
ふふん、どうだ。
オレが告白することで、二人の告白を断る。
まさに一石二鳥。
これなら佐伯さんや藤倉さんもあきらめざるを得まい。
我ながら天才だ。
しかしオレは大事なことを失念していた。
「ご、ごめんなさい!」
そう、オレ自身がフラれるというパターンを想定していなかったのだ。
吉岡さんは顔を真っ赤に染めながらパタパタと走って逃げて行った。
「………」
ま、まさかこんなことになろうとは。
勢いでやってしまった告白、そして玉砕。
「……う、ううう」
自然と涙があふれ出る。
「高峰くん……」
「高峰……」
佐伯さんと藤倉さんが哀れんだ目でそばに寄ってきた。
「かわいそうに。私でよければ慰めてあげるわ」
そう言って佐伯さんがオレの手を取る。
すかさず藤倉さんがその手をパシンと叩いた。
「どさくさに紛れて高峰の手を握るな、メスブタ」
「メ、メスブタですってぇ!?」
「ほら高峰。こんなメスブタは放っておいて、私と一緒に帰ろう」
今度は藤倉さんがオレの手を引っ張る。
すると佐伯さんがその手をパシンと叩いた。
「何勝手なことばかり言ってるの! 高峰くんは私と帰るんだから!」
「勝手なことばかり言ってるのはお前の方だろう! 高峰は私と帰るのだ!」
「私よ!」
「私だ!」
二人の美少女がまた言い争っている。
っていうかオレの意見は無視ですか。
「これじゃあ埒があかないな。この際、高峰に聞くか? どちらと一緒に帰りたいか」
「異論はないわ」
そう言って二人でこちらを見つめる。
さっきと同じパターンだ。
「……ううう、もうどちらでもいいです」
どうせ拒否っても無駄でしょうし。
観念してそう答えると、佐伯さんが言った。
「優柔不断はよくないわ!」
「そうだ、優柔不断はよくないぞ!」
「どちらかに決めて!」
「そうだ、どちらかに決めろ!」
本当に仲が悪いのか?
この二人、息がぴったりだ。
オレは「はあ」とため息をついて言った。
「じゃあもうジャンケンで決めてください」
「ジャンケンで?」
我ながらどうかと思ったけれど、二人して「いいだろう」と本当にジャンケンをしたのには引いた。
結局ジャンケンでもあいこが続いて決着がつかず、そのうちどちらがオレのハートを射止めるかという話となって、学校中を巻き込む大勝負となるのはこの後の話。
お読みいただきありがとうございました。