肉と酒を好む英雄は、娶らされた姫に触れられない。【連載版はじめました】【書籍化企画進行中】
「ガストンよ、此度の戦働き、実に見事であった。褒美を取らすゆえ、望みのものを言うがよい」
「はいっ、肉と酒がいいです!」
とある王国の、謁見の間。
国王の問いかけに、黒髪黒目の大柄な青年が溌剌とした声で答える。
年の頃は二十歳前後、身の丈は2m近くで筋骨隆々としており、そこに立っているだけで威圧感に尻込みしそうになってしまうほど。
だがその表情は少年のように若々しく、無骨な顔つきだというのにニコニコと笑うからかどこか愛嬌を感じなくもない。
その体つきも表情も、貴族の居並ぶこの場においては、色々な意味で異質だった。
「相変わらずそなたは欲がないのぉ。辺境伯殿も気を揉んでおったぞ」
「親父が……っと、すみません、父が、ですか? そういえば前もそんなこと言われたような……でも、俺よくわからないもので」
マナー講師が目を剥くような言葉遣いをしながら、更にはとどめとばかりに頭をガシガシと掻いてみせている彼、ガストンは辺境伯家の三男。
勇猛で知られる辺境伯家の中でも更に頭抜けた武勇を誇り、『歩く戦術兵器』『ワンマン・レギオン』などの二つ名を欲しいままにする男である。
流石に、本当に一人でレギオン、つまり軍団を相手取れるわけではないが、それでも彼一人で戦場の流れを変えたことは一度や二度ではない。
先陣を切って突っ込み、先端に斧が付いた槍、ハルバードを振り回して敵を薙ぎ払う様は人間のそれでは無く、相手側からは赤いサイクロンなどと呼ばれて恐れられているという。
そんな彼であるから、これだけマナーのなっていない態度であっても咎められる者がいない。怖いので。
まして、国王がそんな彼の気風を気に入っているのだから尚更どうしようもない。
結果、それが気に入らない一部の貴族達はガストンを疎ましげに見るしかないでいる。
おまけに今日は、更に不愉快な知らせがあるのだからたまらない。
「であるからして、今回はワシの方で褒美を用意した。
そなたのこれまでの戦功を評価し、準男爵から子爵へ昇爵とする」
「ははっ、ありがたき幸せ! 謹んで拝命いたします!」
国王がそう告げれば、ガストンは素早く膝を衝き恭しく頭を下げた。
先程までの粗野な振る舞いはどこへやら、実に流麗な動きからのぴしっと文句のつけようがない礼を見せつけられて、好意的でない貴族達も言葉が無い。
極めて高い運動能力と動作学習能力を持つガストンは、こういった身体を動かす礼法だけは得意なのである。
その様子を見て満足そうに頷いた国王は、侍従へと目配せ。
それを受けた侍従が一度奥へと下がった。
「それでじゃな、子爵ともなれば、いい加減所帯を持ってもらわんとならん」
「えっ、お、俺は所帯とか、要らないです」
「そういうわけにもいかんのじゃよ、法的にも慣例的にも」
急に慌てふためくガストンへと、国王は首を横に振って見せた。
子爵ともなれば家を繋げていく義務や夜会などでの社交が生じてくるのだが、その際には伴侶が必要となってくる。
しかし、ガストンはいまだ婚約者もおらず、戦場での斬った張ったに明け暮れているのだから出会いもない。
まるでそちら方面に興味が無いかの様子に、父である辺境伯もガストンを気に入っている国王も痺れを切らしたのだ。
「今回の昇爵によって、そなたには辺境伯領の近くにある領地が与えられる。
街道沿いにあって、辺境伯領への物資輸送にも関係する要所ぞ。ここをよく治めることは、そなたの父や兄の大いなる助けになるであろう」
「うっ……ぉゃっ、父や、兄、の助けには、なりたいです……」
兄貴と言いかけてどもりながら、ガストンは勢いのなくなった口調で答える。
奔放で豪快な彼だが、父や兄のことは尊敬しており、いつか恩返しをしようと考えてはいた。
そして、今回の昇爵がその好機となれば、断るという選択肢はなくなる。
ガストンの性格をよく知る父、辺境伯からの入れ知恵である。
しかし、ここに一つ問題があった。
「だけども、無理でしょう。お嬢さん方は皆、俺のこと怖がってますし」
しょぼんとした顔で、ガストンが言う。
これが、辺境伯家の三男で国王陛下の覚えもめでたき男に婚約者がいない理由だ。
何しろこれだけの巨躯だ、普通の令嬢であれば見上げるような高さ。
首が痛くなる以前に、そんな巨大な筋肉の塊を目の前にして平静でいられる箱入り娘などそうはいない。
結果、今まで見合いは全敗、政略優先で結婚させられるくらいなら修道院に行くとまで言われたことも幾度もある。
そんな苦い経験をしてきたガストンが、結婚に尻込みするのも仕方のないところだろう。
そして、もちろん国王もその辺りの事情は把握していた。
「案ずるな、此度そなたに娶らせるおなごは、決してそなたを拒絶せぬからのぉ」
その国王の言葉が合図だったのか、侍従が一人の女性を連れ来た。
年の頃は二十前くらい、ガストンと年齢の釣り合いは取れているように見える。
だが、それ以外があまりにアンバランス。
風に溶けてしまいそうな程に繊細な色合いの銀の髪、折れてしまいそうな細い肢体。
透き通るような白い肌、品のある顔立ち。……ただ、その顔色は蒼白に近いが。
蛮勇の権化たるガストンの対極とすら言えるその姿は、存在しているのか怪しくなるほど幽玄で。
その姿を見て、ガストンは目を見開いて言葉をなくした。
「この者は隣国のイレーネ王女。今回の停戦において、両国友好の証としてこちらに来たのじゃ」
「えっ、隣国っていうと……」
目を見開いたまま、ガストンはそこから口籠もる。
隣国とは、彼が戦功を上げた戦争の相手国であり、敗戦国だ。
そこからやってきた王女となると、その立場はガストンでも察することが出来る。
事実上の、人質だ。
更にその彼女を、勝利の立役者であり、子爵という極めて例外的な前例はあれども普通であれば王族と結婚するなど到底あり得ない立場のガストンに娶らせる。
つまりこれは、見せしめも兼ねているのだ、相手に敗戦国であると思い知らせるための。
その上ガストンという希代の英雄、絶対に血を次代に繋ぎたい男の婚姻問題まで解決するというのだ、一石二鳥にも三鳥にもなりうる手だろう。
普段は気の良い国王だが、こういった手も打てる強かさ、冷徹さも持っている。
そのことを察したガストンは、目を瞠ったまま、口を開く。
「……お、俺は、肉と酒が、いいです……」
頭の処理能力がキャパオーバー寸前になった彼は、ようやっとそれだけを口にした、が。
「もちろん肉と酒もたんとやるぞ? だが、イレーネ王女も娶ってもらう。これは、王命でもあるからの」
にぃ、と笑った国王は、政治家の顔をしていた。
王命な上に辺境伯も一枚噛んでいたこともあって、話はガストンの戸惑いをそっちのけで一気に進んでいった。
その日のうちに婚姻誓約書に署名、それが停戦合意の条件でもあったため既に隣国の王も署名しており、この時点で婚約が成立。
表向きは戦争の英雄と隣国の王女の結婚であるため即日結婚とは流石にならず、半年かけて準備がなされ、子爵のものとしては破格な規模の結婚式が国の主導で行われた。
費用は全て国持ちでガストンは一切出すことがなく、そのため口も出せず、流されるままに準備して言われるままに式へ。
現実感のないまま覚えさせられた誓いの言葉を棒読みし、せめてもの反抗に触れそうで触れない誓いの口づけをして、ガストンとイレーネ王女の結婚式は終わった。
「なんでこんなことに……ああもう、ほんと、肉と酒で良かったのに……」
新居として与えられた、辺境伯家が所持していたうちの一つをリフォームして用意された王都にある屋敷にて。
ぶつぶつと言いながら、湯上がりのガストンは夜着に袖を通す。
無精髭を剃り、珍しく使用人が髪を洗って整えた今の彼は、まだ威圧感は残るもののこざっぱりとした偉丈夫くらいにまで見えるものになっている。
これで多少は怯えずにいてもらえるだろうか、と思いながら彼は寝室へと入る。
そこには、床を見つめるように顔を俯かせるイレーネがベッドに腰を下ろして待っていた。
結婚当日の夜であるからにはつまり、初夜なのである。
そういった方面にはとんと疎いガストンだが、閨教育自体は一応受けている。
あまり興味が無かったため、かなりあやふやになってしまっているが。
そんな彼だ、緊張と混乱で、いっそここから逃げ出したいとすら思っている。
思ってはいるのだが。
もっと逃げ出したいと思っているであろうイレーネがこうして大人しく待っていたのだ、まさか彼が逃げるわけにはいかない。
意を決して部屋の中に足を一歩踏み入れれば、ぴくっとイレーネの肩が震えて。
……ただそれだけのことで、ガストンの足が止まる。
沈黙が寝室を支配すること、しばし。
一歩入ってきただけでそれ以上動かなくなってしまったガストンを訝しんだか、イレーネの目が少しばかり動き、横目でガストンの様子を窺う。
その先にいるのは、困ったような顔のまま硬直している大男。
てっきり下卑た顔で迫ってくるだろうと覚悟をしていたところに見えたそれは、どうにも意表を突くもので。
イレーネもまた、軽く目を瞠って動きが止まる。
硬直して視線を交わすこと、どれくらいか。
先に視線を逸らしたのは、ガストンだった。
「や、やっぱ、いいや……俺は、肉と酒の方が……」
この状況でかなり意味不明なことを言いながら、のそりとした動きでイレーネへと背を向ける。
広い肩を落としながら、寝室を出ようと一歩足を踏み出して。
「お、お待ちください!」
そこに、イレーネの声が上がった。
まさか呼び止められるとは思いもしなかったガストンは、びっくりした顔で振り返る。
「え、ま、待てって、なんで」
「なんでも何も、初夜に一人残され、わたくしにどうしろとおっしゃるのですか!」
「ど、どうしろも何も、そのまま一人で寝てくれたら……ほら、そのベッド広いから、ゆっくり……」
その儚げな外見からは想像も出来ない鋭い声で詰問され、ガストンとしては気を遣った答えを返したつもりだったのだが……返ってきたのは、きっと睨み付けてくる瞳だった。
「一人でなど、どこまでわたくしを侮辱なさるのですか!」
「ぶ、侮辱!? お、俺はそんなつもりはこれっぽっちも……」
と返事を仕掛けたところで、ガストンが言葉に詰まる。
困惑している彼の目の前で、イレーネがボロボロと涙をこぼし始めたからだ。
「あなた様にそのおつもりがなくとも、これは立派な侮辱でございます!
敗戦国の王女として人身御供にされ、下賜された先は成り立ての子爵というだけでも屈辱的ですのに、挙げ句肉や酒以下だと言われれば、これ以上の侮辱もございませんでしょう!?」
「うえええ!?」
斬りつけるようなイレーネの言葉に、ガストンはうろたえた声を上げる。
戦場では敵無しの彼が、一人の年若い、それも折れそうな程に細い女性に気圧されているのだ、混乱もしようというもの。
目を幾度かパチクリとさせたガストンは、おずおずと口を開く。
「だ、だって、あなたも、嫌だろ? ち、違うのか?」
「もちろん嫌ですとも! それはもう、身の毛がよだつほどに!」
「うええええ!?」
もしかして、とほんのわずかな期待と共に投げた問いはスコンと打ち返され、またも悲鳴のような声をあげる羽目になる。
何がどうすればそんな答えになるのか、ガストンにはさっぱりわからない。
そして、伝わっていないことが丸わかりであるため、イレーネは更に言葉を重ねる。
「嫌ですが、わたくしの感情とこれは、別の話でございます。
わたくしとて王家の者、望まぬ婚姻もその先にある行為もありえるものと覚悟してまいりました。
これは王族の義務であり、同時にそれでこそ王族であるという矜持でもあるのです。
ですから、それを踏みにじられるのは、これ以上ない侮辱なのでございます!」
「ま、待って、待ってくれ、ちょっと待ってくれ」
一言一言噛みしめるように紡がれた言葉は、どうやらイレーネの本心からのもの。
それが伝わったガストンは、今度は言われたことを整理しなおしていく。
頭を抱えながらうんうんと唸ることしばらく。
ようやっと顔を上げたガストンは、おずおずと問いかける。
「つ、つまり、されるのも嫌だけどされないのも嫌、される方がまだまし、ということ、か?」
「まだまし、と言うよりは、ずっとまし、でございます」
「うえええ……」
きっぱりと否定され、ガストンはまた頭を抱えた。
どうにも理解出来ないが、彼女は本気だ。それはわかる。
だが、どうすべきかがわからない。
「何を悩んでおられるのです、殿方は痛みなどないのですから、さっさと済ませてしまえばよいではないですか」
「だ、だめだ、それは、だめだ」
イレーネが促せば、急にガストンはブンブンと首を横に振った。
いきなりの変化にイレーネが驚いて言葉を失えば、しばしの沈黙が落ちて。
今度はイレーネが、不思議そうな面持ちでガストンへと問いを向けた。
「何故です、何故そこまで」
「だ、だって、だめだ。俺が触ったら、あなたが壊れる」
「……それは、身体に負担だとは聞いておりますが、しかし」
「ち、違う、身体もだけど、それだけじゃない。あなたの、心が、壊れる」
思わぬ言葉に、イレーネの身体がぴくりと震える。
数秒、呼吸さえ止まって。それから、ゆっくりと息を吐き出した。
「何を、馬鹿なことを……心が壊れるだなんて、そのようなことは」
「わかる、わかるんだ、俺は。戦場で壊れてく奴は、今のあなたみたいな顔をしてた。
身体は壊れても治せる、こともある。でも、心はだめだ。心は、治らない……治るとしても、時間が、めちゃくちゃかかる。
だから、だめだ」
珍しく言葉数多く語るガストンの声は、戦場を見てきた人間だからこその重さに満ちていて。
弁の立つイレーネであっても口を挟むことも反論することも出来ない。
そして思う。自分はそんなに張り詰めていたのだろうか、と。
沈黙するイレーネを前に、ガストンの語りは続く。
「俺が、肉と酒の方がって言ったのは、そっちの方がお似合いだ、ってことで。
あなたみたいな綺麗な人の隣なんて、もったいなくて、落ち着かなくて……。
ど、どうしたらいいのかな」
「どう、と言われましても……」
不意に綺麗だなんて言われて動揺したところで問われ、イレーネは言葉に詰まる。
そんなことはイレーネの方が聞きたいくらいだが、このままではガストンも困るし、何なら出て行ってしまうだろう。
彼が本気で出て行こうとすれば、イレーネの細腕で止められるわけもない。
何より、不器用ながらも気遣ってくれた彼の気持ちを無碍にするのは気が引けた。
「わかりました。それならば、本日は床を共にするだけにいたしましょう。
ガストン様はわたくしが隣に居るだけでも落ち着かないかも知れませんが、触らないでいいだけましとお考えください。
わたくしも、それであれば嫌悪とまではいきませんし、心の折り合いもつけられます」
「うええええ!? うう、で、でも、他に思いつかないし、仕方ない」
仕方ないと言われてイレーネは少しばかりカチンときたが、しかしそこは流石に飲み込んだ。
双方の言い分を考えれば、恐らくここが妥協点とすべきところ。
口にしてしまえば、その妥協点も崩れてしまうだろうから。
そうやってイレーネが心を落ち着かせている間に、ガストンも覚悟を決めたのかベッドへと歩み寄ってきた。
男であるガストンの方が覚悟を決めるというのも、妙な話かも知れないが。
「お、俺はこっちの隅っこでいいから」
「まあ……よろしいですけれども」
広いベッドの端は壁にくっつけられており、ガストンはその壁側へと身体を潜り込ませた。
そして、身体を丸めるようにしながら背中をイレーネへと向ける。
「あの……窮屈ではございませんの?」
「だ、大丈夫だ、もっと狭いとこで寝てることが多いし、こっちのが落ち着く」
「……左様でございますか」
きっとそれは、戦場のことなのだろう。
そう考えれば仕方のないことだが、少しばかり面白くないものを感じなくもない。
だが、今夜はこれ以上言うべきではないのだろうと割り切ったイレーネは、反対側に身体を滑り込ませた。
「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ」
そう返事をして、閉じようとしたイレーネの目に、寝室の扉が見えた。
彼女と扉の間に、遮るものはない。つまり、逃げようと思えば逃げられる。
「……もしかして、これもあっての、この並び方……?」
小さく呟いた声は、ガストンには聞こえなかったのか反応がない。
ただ、そのことに気付いただけで、胸の内にあった圧迫感が少しばかり緩んだ気がする。
「……おやすみなさいませ」
もう一度だけ呟いて、イレーネは目を閉じた。
翌朝。
もぞもぞと何かが動く気配にイレーネは目を覚ました。
どうやら、睡眠と呼んでいいものは取れたらしい。
逆に、壁際に丸まっているガストンは、ろくに眠れなかったようだ。
「……おはようございます、ガストン様」
「お、おはよう」
もぞりと身体を起こしたガストンは、いかにも寝不足と言った顔で。
熊のような体格の彼がそんな間の抜けた顔をしているのが何ともおかしくて、イレーネは小さく吹き出してしまった。
「お? な、何かおかしい、か?」
「いえ、その。……まだ眠そうな顔をしてらっしゃいますから、顔を洗ってらしては、と」
「お、そ、そうだな、それはいい、早速洗ってくる」
頷くと、ガストンはがばっとシーツを跳ね上げてベッドを出て、そのまま寝室の隣に設えた洗面所へと向かう。
……動きに澱みがないあたり、徹夜には慣れているのか、単に体力があるのか。
一先ず、体調の心配はなさそうだ。
そんなことを思いながら、イレーネも寝床を抜け出した。
夫婦と言えども男女の朝の身支度はかなり違うため、それぞれの私室で行う。
ガストンの準備はあっという間だが、イレーネはそうはいかない。
先に食堂で待っていたガストンは、そのことを実感として味わうことになった。
そして、待っただけの甲斐はあった、とも思った。
祖国から連れてきた侍女やメイド達によって身だしなみを整えられたイレーネは、家の中で着る用の簡易なドレス姿だったのだが、それでも見蕩れてしまうくらいに美しい。
この美しい人と昨夜は床を共にしたのだ。
そう思えば、心が浮かれるような心地がした。
本当にただ共に寝ただけだというのに。
そして、イレーネの顔にさほど険がないことにも少しばかり安堵する。
どうやら、昨日の同衾は彼女の負担にはならなかったらしい、と。
だが、そのイレーネの表情は、すぐに怪訝なものへと変わった。
「あの、ガストン様。何故先にお食べになってらっしゃらないのです?
まさか、わたくしをお待ちになっていたのですか?」
「うえ? そ、そりゃそうだけど」
問われて、何を当たり前のことを、とガストンは首を傾げる。
彼からしてみれば、待つのは当たり前のことだ。
「だ、だって、夫婦……というか、もう、家族なんだし。
家族は一緒に飯を食うもんだ」
イレーネの気持ちを考えれば、夫面するのも角が立つかと思い言い直したのだが。
それでも何か引っかかったのか、イレーネは何も言わない。
やはり別の言い方をした方がよかったのかとガストンがあわあわし始めたところで、やっとイレーネが口を開いた。
「……家族は、一緒に食事を摂るもの、なのですか?」
「お、おう……あっ! ち、違うところもあるらしい!
けど、俺はそうしたい、んだけど……だめ、か?」
頷きかけたところで、他の家では色々あるらしいと聞いたことを思い出したガストンは、すぐに首をブンブンと横に振った。
例えば彼を気に掛けてくれている国王などは、忙しくてゆっくり食事を摂る暇が無いと言っていた気がする。
であれば、隣国の王族であるイレーネも似たようなものであったかも知れない。
しかし、それは自分には出来ない。
だから、おずおずと問いかけたのだが。
「……いいえ、だめ、ではございません。ご一緒させてくださいませ」
昨夜の舌鋒鋭い彼女はどこへやら、儚げな見た目通りの声でイレーネが答えた。
それを聞いたガストンは、驚いたのか少しばかり目を見開き、問いかけてしまう。
「だ、大丈夫か? やっぱり体調悪いのか?」
「いいえ、そうではございません」
気遣わしげなガストンへと、ゆるり、イレーネが首を振る。
何やら思案している様子の沈黙に、それを察したガストンは言葉を待ち。
数秒か、十数秒か経った後、イレーネが口を開いた。
「わたくしは、家族と食事を共にしたことが、ほとんど記憶にございません。
ですから、少し戸惑ってしまいまして。
けれど、こちらではそのようになさるのですね」
「お、おう。いや、他のとこは違ったりかもだけども。
俺達は、死ぬときは一緒に死ぬこともあるし、生き延びる時も一緒だ。
だから飯を一緒に食う。その方が、一緒になりやすいから」
隣国と国境を接する辺境伯家の生まれで、幾度も戦場に身を投じたガストンからすれば、死は身近にあった。
だからこそ辺境伯家では、家族と共に、仲間と共に食事を摂る。
そうすることで結束が高まることを、経験的に知っているのだ。
「ほんとは、執事とかメイドとかとも一緒に食べたいんだけど……それは、あなたが嫌がるかなって」
ボリボリと頭を掻きながらガストンが言うも、イレーネから答えは返ってこない。
てっきり昨夜のような勢いで「嫌です」と言われるかと思っていたガストンは、首を傾げながらまじまじとイレーネを見つめ。
視線を感じたイレーネは、こほんと小さく咳払い。
「ガストン様、あなたがこの家の主なのですから、それはお好きになさってください。
……そういう理由でしたら、わたくしも嫌とは申しません」
「そ、そうか! あ、いや、そうか、ありがとう」
思わぬ答えに喜色満面となったガストンは、しかしすぐに表情を改めた。
あまりあからさまに喜んではイレーネに不快感を持たれるかと思ったため、なのだが。
「ガストン様、昨夜のことがありますから偉そうには言えませんが……わたくし、きちんと理由や根拠をお話しいただければ、よほどのことがない限り怒ったりいたしません。
ですから、お気遣いは嬉しいのですが、無用に窮屈な思いをなさる必要はございませんよ?」
「そ、そうか! お、俺はどうにも、その辺りの加減がわからなくて……。
あ、あなたからも思ったことは言って欲しい。俺は、あなたの気持ちをちゃんと知りたい」
「……左様でございますか。では、今後はそのようにさせていただきます」
イレーネがそう答えれば、ガストンはほっとしたような笑顔になった。
なったのだが。
「では早速申し上げますが……申し訳ございません、朝からこの量の食事は無理でございます。
特に、この大量のお肉……晩の食事でも食べきれません。これは、わたくしも先にお伝えしておくべきだったかも知れませんが……」
「うええええ!?」
ガストン的にはまさかの申し出に、思わず声を上げてしまう。
彼的にはこれでも抑えているくらいなのだが……だが、側で控えていたメイドが「だから申し上げたではありませんか」などと言うものだから、そうなのかと驚きと共に理解した。
言われて改めてイレーネを見れば、本当に細い。
自分の三分の一くらいに。
「そ、そっか、あなたはほっそりしてるものな、俺の三分の一か、もっとか……そりゃ、食べる量も少ないよな。
気付かなくて、すまん」
「そんなお気になさらず……いえ、こうしたことを言葉にしていくべきなのでしょうね、きっと」
素直にうんうんと頷くガストンを見ているうちに、イレーネはくすりと小さく笑みを零してしまう。
こんなに大柄で力も強そうで、何より戦勝国の英雄だというのに。
なぜか愛嬌のようなものを感じてしまうではないか。
「お、おうっ、そ、その、俺は特に頭良くないから、教えてくれると嬉しいっ」
まして、イレーネの笑みを見た途端顔を真っ赤にするようなところを見せられれば。
少しずつ、心のしこりが解けていくような心地すらする。
「あ、教えてくれると嬉しい、で思い出した!
その、すまないけど、領地経営について、教えて欲しくて」
「はい、それについても言われております。わたくしの出来る限りになりますけれども」
慌てて話題を変えるガストンに、イレーネもこくりと頷いて返す。
今回、ガストンにイレーネが嫁ぐことになった理由の一つが、領地経営の補助である。
戦場で武功を挙げたガストンだが、学識面では足りないところが少なからずあり、不安しかない。
そこを補うために、貴族家へと降嫁する可能性が高く領主の教育も受けていたイレーネがあてがわれたところがあるのだ。
勿論いきなり隣国の王女を全面的に信じるわけもないので、監視の影がついている、らしいのだが。
今のイレーネは全くもってそんな気はないし、ガストンもそのことは何となく察していた。
「それでは……夫婦になるには時間がかかるかも知れませんが、家族、仲間としてお仕事をしてまいりましょうか?」
「お、おう、そんな感じで、頼むっ!」
イレーネが、現時点で取れる立場を示せば、ガストンは笑顔で頷いて見せた。
それはもう、からっとした晴天の空のような笑顔を。
何故だかそれを見たイレーネは、気恥ずかしさを感じて目を逸らした。
そうしてイレーネが手伝いだせば、領主としての書類仕事は急速に片付いていった。
あっという間に王都で必要な事務処理などが終わり、いよいよ二人して領地へ。
現地を視察したイレーネがすぐさま打つべき手をガストンに伝え、ガストンが現地の人間に伝えて実行していく。
知識が豊富で理解力判断力に富むものの正論で殴りがちなイレーネと、知識は色々と足りないが人当たりの良いガストンの組み合わせ、役割分担は実によくはまり、ほどなくして領地の民にも受け入れられていく。
また、辺境伯領近くの領地であるからこその悩み事も、ガストンがいることで大きく改善されていった。
「りょ、領主様大変だ、スピアボアが出た!」
「おう、任せとけ!」
「ちょ、ちょっとガストン様!?」
領民が駆け込んでくれば、仕事中だったガストンがすぐさま駆け出していく。
慌てて最低限の処理を終えて後を追ったイレーネが見たのは、宙を舞うスピアボアだった。
スピアボア。牙が槍のように鋭く長く伸びたイノシシ型の魔獣である。
普通のイノシシの体重が100kg前後なところ、この魔獣は二倍から三倍もの巨躯となり、その質量に物を言わせた牙による突撃で人どころか村の防御柵すら破壊してしまうような、恐ろしい魔獣だ。
恐ろしい魔獣のはずだ。
だが、その魔獣が、宙を飛んでいた。
ガストンの掬い上げるようなハルバードの一撃で。
「……え?」
あまりに意味不明な状況に硬直するイレーネの目の前で、ガストンがもう一度ハルバードを振るう。片手で。
すぱんと小気味のいい音がしたと思えばスピアボアの首が刎ねられ、その身体が地面に落ちる前にがしっとガストンの左手で足が掴まれた。
繰り返し言うが、スピアボアの体重は普通のイノシシの二倍から三倍。200kgから300kg程度である。
それを、ガストンは片手で掴み、吊し上げていた。
「は? え、ええ???? な、なんですの、これは??」
流石のイレーネも大混乱、周囲にいた領民達も唖然としているのだが。
「何って、血抜きが必要だろ?」
「違います、そういうことではございません!」
さも当然のように言うガストンに、何とか意識を取り戻したイレーネが突っ込みを入れる。
村や町の柵、城壁へと打撃を与えるような破壊力を持つスピアボアは、通常十人以上の兵士が馬防柵のような道具を用いて何とか仕留めるものだ。
それを、ガストンは一人でやってのけた。
それも、突撃を止めるどころか打ち上げ、落ち際にトドメを刺すという方法で。
イレーネからすれば、意味がわからない。
いや、領民達もそうだ。
この場で当たり前のような顔をしているのは、ガストン一人である。
「違うって、何が? あ、川の流れに浸けて冷やさないといけないか」
「そうでもございませんけれども! けれども、確かに必要でございますわね!?」
残念なことに、狩った獲物を川の流水に浸して血を抜きながら冷やすことで味の劣化を防ぐことが出来るという知識を、イレーネは持っていた。実際にやったことはもちろんないが。
だからイレーネは混乱してしまったし、もちろん知っている領民達は、新たな領主が知っていたことに感心していたりする。
「うっし、んじゃ川に浸けて、その後捌くか! 今夜は肉祭りだな!」
「おお~~!! 肉だ、肉だ! 領主様ありがとうございます!」
ガストンが高らかに宣言すれば、領民達も追随して声を上げる。
被害の深刻なスピアボアだが、狩ることが出来さえすれば貴重な食料。
しかも普通のイノシシよりも美味と来ているのだ、領民達が盛り上がるのも無理はない。
「はぁ……皆様盛り上がっていますし、止める理由もございませんわね……」
色々と突っ込み所はある。むしろ突っ込み所しかない。
だが、多分それは後でもいい。
それよりも、今ここで正論を振り回して水を差す方が正しくないのだろう。
「では、町の広場に焼き場を用意して、お酒もそこに運ばせて……」
割り切ったイレーネは、浮かれる男共をよそに段取りを立てていく。
まったく、殿方ときたら。
そんなことをぼやくように言いながら。
その横顔は、どこか楽しげでもあった。
イレーネが手際よく準備をしたおかげで、その夕方には町の広場で肉祭りが無事開催。
老若男女の区別無く肉を食い、飲める者は酒を飲み、そうでないものは果実水を飲み。
身分も何も関係なく飲み歌う祭りとなった。
ちなみに、ガストンが領民たちと手際よく処理したスピアボアの肉は絶品で。
「こ、こんなに美味しいお肉は、食べたことがございません……」
と、元王女であるイレーネが絶賛。
「お、そうか! 良かった、あなたに美味い肉を食わせられて!」
と、ガストンは得意顔である。
ただ。
「わたくし、故国では肉などあまり食べたことがなくて……」
と、イレーネが冷遇されていた過去をうっかり少しばかり話してしまったため、ガストンが号泣してしまう一幕もあったりしたが。
なお、ガストンはしこたま飲んでいるが、酔っ払ってはいない。
彼の無尽蔵の体力は、酒に対しても人間離れした分解能力を発揮しているらしい。つまり、元々涙もろいのだ、彼は。
ともあれ、イレーネが語る話を涙ながらに聞き、酒を煽ってはまた泣き、イレーネにも酒を勧め。
その酒を受け取ったイレーネは、微かに微笑みながら口を付けていた。
楽しい、と思う。
自身の暗い過去を話したというのに、むしろ心はスッキリしている。
酔いの回ってきた頭でぼんやりとそんなことを思いながら、飲めや歌えやと騒いでいる領民達を見やる。
やはり、楽しいと思う。
こんな気持ちは、故国では一度も感じることがなかった。
「お、奥方様! 奥方様もお一ついかがですか!」
年若い女性の領民が、肉とグラスを持ってきた。
きっと故国ではこんなことはなかったし、あったとしても断っていたことだろう。
「ありがとう、いただくわ」
なのに、自然とそれを受け取って、微笑みを返した。
それが、とても心地よかった。
「い、いえ、どういたしまして! あの、その、ありがとうございます!」
何故か顔が真っ赤になった彼女からお礼を言われ、何故と問う前に彼女は逃げるように離れていった。
戻った先で何やら女衆で盛り上がっているのを見るに、嫌われたわけではないようだが。
「んはは、あなたは、人気者だなぁ」
「はい?」
それを隣で見ていたガストンがご機嫌で言えば、イレーネは首を傾げる。
むしろあれこれと口煩い自分は、嫌われているものだと思っていたのだが。
だが、向けられる視線や先程の態度を見るに、どうやらそうではないらしい。
「こうして皆と肉を食ったんだ、俺達は家族だ、仲間だ。
もちろん、あなたもその中の一人だ。そういうことだ、きっと」
「はぁ……よく、わかりませんけれど」
けれど、
そうだといいな。
そんなことを思いながら、イレーネはまたグラスに口を付けたのだった。
ところで。
古来より、動物の肉は滋養強壮に良いと言われている。
豊富なタンパク質、穀物や野菜からは摂取しにくいビタミン類等々、様々な栄養が詰まっているのは確かである。
そして、魔獣であるスピアボアの肉が持つ滋味は、普通の獣など比べものにもならない。
つまり、精力を増強させるあまり媚薬のような興奮作用を持つことがあるのだ。
だから。
「ちょっ、ま、待ってくれ、なんでそんな、急に!?」
その夜、ガストンは押し倒され、イレーネに馬乗りにされていた。
「なんでも何も、わたくし達は夫婦なのですから、当たり前のことでしょう?」
艶然とした微笑みを見せるイレーネに……初めて見るその色香に、ガストンの喉がごくりと鳴る。
元々あまり肉を食べていなかったイレーネにとって、スピアボアの肉、その滋養は強烈だった。強烈過ぎた。
結果、身体は火照り、疼く。
そこに夫であるガストンが同衾してきたため、イレーネは身体の奥から湧き上がる渇望にも似た欲求に押し流されてしまった。
「い、嫌だって言ってたじゃないか!?」
「はい、前は確かに嫌でした。ですが、今は嫌ではありません。だから、わたくしは問題ありません」
「そうなのか!?」
予想外の答えに、ガストンは驚きの声を上げたのだが。
そこには、驚き以外の……喜びの色も、少しばかり混じっていて。
「後はガストン様のお気持ちだけ、ですが……大丈夫そうでございますわね」
馬乗りになったままイレーネが言えば、ガストンの顔が赤く染まる。
言葉よりも雄弁に、彼の身体が語っていたものだから、こういったことに不慣れな彼は恥ずかしくて仕方がない。
これでまだ酔いで頭が痺れていればましだったのだろうが、彼の頑強な身体はすっかり酒精を分解してしまっていた。
対してイレーネは、まだ酒は抜けず、肉の滋養は満ち満ちている。
彼女の枷は、完全に外れてしまっていた。
「ガストン様、わたくしは、あなたの何ですか?」
「あ、あなたは、俺の、妻、だけどもっ」
「だめです。それではだめです。あなたではなく、イレーネと呼んでください」
「うええええ!?」
イレーネの要求に、ガストンは覿面に狼狽えた。
そう、彼は今まで敢えて彼女を名前で呼んでいなかった。
恥ずかしかったのだ。この美しい人を、名前で呼ぶのが。
何より、名前で呼んでしまえば、本当の夫婦になってしまう気がしたから。
だから、イレーネは名前で呼ぶことを要求した。
そして。
「い、イレーネは、俺の、妻、だ」
「はい。わたくしはガストン様の妻です。そして、ガストン様はわたくしの夫です」
ついに根負けしたガストンは、イレーネの名前を呼んで。
イレーネは、それはもう幸せそうな笑顔で応えた。
そのあまりの美しさに、ガストンは思わず我を忘れそうになったのだが。
「それでは、これで夫婦になる準備はできましたわね」
「うえええええ!?」
厳しい現実に、引き戻されてしまった。
正論を好む彼女は、酔いと熱に浮かされた今も手順を踏む。強引ではあったが。
そして、手順を踏み終えた後は……もう止まらない。
「さあ、孕ませてくださいませ! ほら!」
「ひやぁぁぁぁ!?」
その日。明け方までガストンの悲鳴が響いたという。
それから十月十日後、ガストンとイレーネの間に長男が誕生。
その後もたくさんの子宝に恵まれ、子爵領は大いに繁栄することになるのだが……それはまた別の話である。
なお、余談。
「どうやらガストンとイレーネ王女は上手くいきそうじゃのぉ」
子爵領を……というよりはイレーネを監視していた影からの報告に、国王は満足そうに髭を撫でた。
その向かいで、ガストンの父である辺境伯も満足そうに頷いている。
「ええ、ほっといたしました。これで、イレーネ王女は助け出せましたな」
「うむ、何とか、じゃがのぉ」
そう、この強引で無理矢理な婚姻には、更に裏があった。
隣国との戦争に際し、国王は敵方の事情を徹底的に調べさせ、その中で優秀なイレーネ王女がその優秀さ故に王太子から疎まれていることを知った。
そこで戦争に勝利した後イレーネ王女を要求、疎まれていた彼女の放出はあっさりと受け入れられ、むしろ喜ばれたくらいである。
愚かしいことに。
こうして、優秀な王女を助け出すという人道的行為と、隣国の情報をよく知る王家の人間を引き抜くという政略的行為を同時に成功させてしまったのだ、国王は。
「いやはや、本当に素晴らしいお手並みでございますが……よくこんな手を思いつかれましたな」
「ははっ、国王なんてもんはな、悪人なだけでも善人なだけでも務まらんものじゃよ。
双方の面を上手くバランスを取りながら使わねば、な。
ま、今回はガストンの善人ぶりに大分助けられはしたがのぉ」
にんまり、満足げな顔で国王は笑う。
清濁併せ呑み、使い分ける彼だからこそ、ガストンの裏表のない顔は好ましい。
彼が染まらないよう手を打つくらいならば、いくらでもやろうというものだ。
「さて、子爵領が落ち着いたならば、イレーネ王女から話を聞いて、本格的に、じゃな」
「それでは、私どもも備えを始めてまいりましょう」
国王の言葉に、辺境伯も頷く。
戦争の終わりは次なる戦争の準備の始まりでしかない。
この乱世では当たり前のこと。
そのことに自覚的でなかった隣国は、数年後に併合されてしまうのだが……当然、その時にはガストンがまた大活躍をし。
「ガストンよ、此度の戦働き、実に見事であった。褒美を取らすゆえ、望みのものを言うがよい」
「はいっ、肉と酒がいいです!」
と、いつものように答えた。
ただ、その後に続く言葉があり。
「妻と子供が喜ぶので!」
と、それはもう輝くような笑顔で言ったのだそうな。
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