表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/16

05:スキトキメキトキス


 厳島護道院美鈴いつくしまごどういんみすず


 こいつに関して学校での評判を聞くに品行方正で可憐な優等生とのこと。実際に好成績で、勉強に関して不安はない。それより問題なのは外見だろう。


 軽やかに流れる銀髪がかなり特異な美少女。きっと想われているのは予想というには具体的だ。


「厳島さん。今日暇?」


「あー。じゃあ放課後タピオカ補充しない?」


「いいよね厳島さん」


 そんな感じで女子も気安く厳島に声をかける。多分彼女の外見はこの学校で突出している。アイドルとは系統が違うが、その神秘的な御尊貌の造りは芸術にも例えられる。


「あー。ちょっと用事があるから一緒には無理かな?」


 こっちにウィンクして厳島は友人諸氏に御断りを入れていた。ちょっと教室を通りかかって、彼女がしっかり学生をやっていることに安堵する。俺にベタ惚れという感覚から浮いてるんじゃないかと心配だったが、案外人気らしい。


「あ、先生」


 で第六感でこっちに気づいた厳島が華やかな笑みで駆け寄ってくる。


「何してるの?」


「伊藤先生に頼まれて資料の運搬。担当科目がないからこうやって言い様に使われてる」


「手伝おうか?」


「そうだな。じゃあよろしく頼む」


 一部の資料を持ってもらう。軽くなった分背筋を伸ばした。


「先生頭いいんだから受験勉強とか専門すれば?」


「女子高生に教えていいのか?」


「あー。嫉妬するかも」


「そういうところは可愛いな」


「はにゃー。先生に言われると照れちゃうよ」


 実際に赤面して彼女は耐震構造のようにフラフラ揺れた。誰にでも言われているだろうに。たしかに厳島から特別扱いされるとちょっと優越感。準備室に資料をお届けする。担当の教師はいなかった。まぁ資料さえ届ければ俺の仕事は終わりなんだが。


 ガチャリ。


「ガチャリ?」


 とっさの施錠音を声で再現すると、扉の鍵をかけた厳島が扉の前に立っていた。不穏を感じるような笑みを浮かべている。生徒の前では見せない表情だ。


「何か?」


「先生。キスして?」


「……ここで?」


 授業開始までまだ時間はある。だが科学教室への移動教室にはどこだかのクラスが来るだろう。ここで厳島にキスをするのは悪手だ。向こうもそれくらいはわかっているだろう。


「理由は?」


「先生とキスしたくなったから」


「もしかして欲求不満か?」


「そんなのいつもだよ?」


 いつもなんですか。


 それもどうよ。


「早くしないと脱ぐよ?」


「テメー。それは卑怯だろ」


「誰も見てないから。お願い。一回だけ」


 大人を舐め腐ってるな。ため息一つ。


「厳島」


 歩み寄って、そのあごに手を添え、持ち上げる。


「改めて聞くが。いいんだな?」


「うん。先生で私を染めて?」


 吐息さえ聞こえる距離で俺と厳島は見つめ合う。その唇の距離がゼロになる。


 キス。


 そう呼ばれる行為。きっと世界中で為されている愛の証明。


「ん。ふっ。んぁ」


 こっちが静かにキスすると、厳島は情熱的に求めてきた。何度も何度もキスにキスを重ねて俺の唇を貪り食う。自分が何をしているのか。もうちょっと自覚してくれると助かるんだが。舌は入れなかった。ただ唇を重ねるだけ。それでもだいぶ興奮したが。


「えへー。先生と学校でキス……」


「たしかにちょっと思うところもあるよな」


「ハマりそう」


「生徒の前ではしないからな」


「それはおいおいすり合わせていこう?」


 する気か。ガチで?


「エッチしてもいいんだよ?」


「お前絶対何時か後悔するぞ」


 忠告として一応言っておくと、厳島は寂しげに笑った。


「もうしてる」


 ひどく切なげな笑み。その意味を俺は知らない。心配してみる。


「大丈夫か?」


「せーんせぃ」


 その俺の心配には答えず、彼女は俺を抱きしめる。さっきまでキスしていたので密着距離は普遍的だ。彼女はギュッと俺の胸に飛び込んで腕を回す。その力強さに驚く。


「こうしたかった。あの頃からずっと。先生を失ってからずっと」


「じゃあ今は満足か?」


「もっといっぱいしたい。好きで好きでたまらない」


 そんなに俺を想うのが子どもの錯覚と本気で言えるのか?


 俺にとってのテーゼだ。


「先生。好き。大好き。ちょー好き」


「そんなに愛されて幸せだな俺は」


「重くない?」


「十分重いが心地いい」


「本当に先生のこと好きなの。そんなクールなところも好き。私のことを少し皮肉気に見つめるところも好き。顔と身体を求めないところは……アレだけど」


 いや。お前抱いたら社会的にアウトだから。


「だからもっと好きにさせたい」


「かなり惚れてるんだがなぁ」


「……本当に?」


「俺からキスしてみせたろ」


「じゃあ結婚してくれる?」


「家建てようぜ。ちょっと都心から離れたところに」


「豪邸も建てられるよ?」


「掃除が面倒だろ」


「ハウスクリーニング業者に頼んで」


「そんな維持費のかかる家は嫌だ」


「子どもは何人ほしい?」


「幸せにできるだけ産んでほしい。お金には困ってないし別段養育費は換算しなくていいんだろ?」


「子どもに残すお金だけでもラスベガスで豪遊できるね」


「ていうかその金を俺に貢げるお前は凄いんだが」


「先生のためなら都合のいい女になれるよ?」


「嘘つけ。俺が他の女子と話してると微妙な顔する癖に」


「バレちゃってる?」


 バレバレでございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ