第47話 殺戮の幕開け ①
私は1人、森の中を歩いていた。私の記憶が正しければ湖のほとりには小さな水浴び小屋がある。その小屋は私がまだ幼い時、父が建ててくれた小屋だった。まだ幸せだった幼少時代、夏になると水浴び小屋で楽しい時間を過ごした…私にとっての思い出の場所。
どの位歩き続けただろうか…。
「あったわ…」
思った通り、その水浴び小屋はまだ残されていた。板を組んで作られた水浴び小屋は幼少時代は大きく見えたが、今はとても小さく見えた。
「鍵は開いているかしら…」
真鍮で出来たドアノブを回してみると、やはり少しも回らない。鍵がかかっているのだ。けれど、もはや絶大な魔力を手にした私にかかれば、鍵など無用の長物だった。
ガチャ…
少し念じただけでいとも簡単に解錠され、扉が勝手に開く。
「…」
私は小屋の中に足を踏み入れた。
「…中はこんな作りになっていたのね…」
円形の水浴び小屋には2枚の細長い窓ガラスがはめられている。部屋の中にはカウチソファが置かれ、天井からはブランコがぶら下がっている。丸テーブルに椅子が3脚。テーブルの上にはアルコールランプが1つ置いてあった。壁には本棚が設置され、中には数冊の本がある。
そして10年近く使われていなかった小屋の内部は綿埃と、あちこちに蜘蛛の巣が張られていた。
「夜までまだ時間があるわね…掃除でもしましょう」
そして私は窓を開けると魔法を使い、一瞬で小屋の中を綺麗にした。
闇の力を手に入れた今の私は完全に魔力を自由に操れるようになっていた。どう願えば、どの様な魔法を発動出来るのか…魔女の本能で悟っていた。
この力を使えば…あの城に巣食う者たちを一掃する事が出来るだろう。
「そうよ…私と、お父様…お母様の大切な城に巣食う邪悪な魔物達を一刻も早く始末しなくては…」
彼らは私の事を「魔女」と呼ぶが、私からすれば彼らの方が余程【魔】に近い存在のように感じる。よってたかって人の事を「魔女」と呼び、命を狙って来たのだから。
でも、それも今夜まで。彼らは今宵、地獄を見ることになるのだ。
そして私はカウチソファに横たわり、トランクケースからブランケットを取り出すと身体に掛けて満月が現れるその時まで休むことにした―。
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どの位眠っていただろうか…。
気付けば部屋の中が青白い光で満たされている。
「…」
カウチソファから身を起こし、窓に近付いた。
「まぁ…美しい満月だわ…」
空には大きな満月が浮かび、湖面にその姿を映し出し、キラキラと反射して光り輝いている。それはとても美しい光景だった。
「まさに復讐するのに、ピッタリの夜ね…」
私は小屋を出ると、森の中へ向かった。
そう、これから私の大切な僕達として仲間に加える為に。
彼らは今から私の手となり、足となり…大いに大量殺戮の役に立ってくれることになるだろう―。